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増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

気候変動危機論、「再生可能エネルギー」利用の拡大、 EV実用化全面批判 後篇

●    「EV実用化は無理筋」の象徴がテスラのシェア後退


共和党公認大統領候補となることがほぼ確実視されているドナルド・トランプ前大統領に対する暗殺未遂事件が起きたとき、テスラ社CEOのイーロン・マスクが速攻で「トランプ断固支持」を表明しました。

いつもどおりのスタンドプレーと言ってしまえばそれまでのことですが、最近のマスクの言動には、とくに自社が開発中のプロジェクトに関する大ボラ吹きとしか表現しようのない大言壮語が多くなっています。

マスクによる「トランプ」支持宣言の直後に、今年11月の大統領選に向けた共和党の綱領に「EV開発・実用化支援の撤回」が盛りこまれたのは何とも皮肉な成り行きですが、マスクとしてはそれでもトランプ支持の姿勢を崩さないでしょう。

ハイテク大手各社の首脳陣はほぼ軒並み民主党リベラル派支持で、今回の大統領選については、負けるとわかっていても民主党の現職、ジョー・バイデンを支持する人が大多数です。

それでもマスクが「トランプ支持」を続ける最大の理由は、逆説的に聞こえるかもしれませんが、EV自体が「気候変動=地球温暖化危機説」抜きではとうてい存続するはずのない自動車産業の1分野だからです。

アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン、メタ(フェイスブック)、エヌヴィディア各社の首脳陣も、一応口を揃えて「地球温暖化対策としての人為的二酸化炭素排出量ネットゼロ化」を支持しています。

ですが、彼らは「ネットゼロ化に貢献する」と公言しなければ成立しない製品やサービスを本業で提供しているわけではありません。一方、EVはネットゼロ化への貢献以外には何ひとつ存在理由のない分野なのです。

バイデン惨敗とともに民主党リベラル派の掲げる「グリーン=クリーン革命」の諸施策がきびしく再点検されたら、EVの売れ行きが激減するだけではなく、EV関連の研究開発、インフラ整備全体も廃棄されるかもしれません。

そうなったら、マスクはツィッターを改名したXというSNSや、まだ海のものとも山のものとも判断できないヒト型ロボットや、すでに激戦区になっている生成AI分野にかなり遅れて乗り出すxAIに頼らざるを得ない可能性もあります。

そのとき、ワイロ万能社会のアメリカでは現職の大統領に対する支持をいち早く鮮明に打ち出していたマスクは、いろいろ政治的に便宜を図ってもらって新分野での出直しがスムーズに達成できるかもしれません。

マスクがそこまで思い詰めている理由は、普及途上にある新技術のトッププレイヤーとしては異常と言えるほど乗用車市場全体でも、バッテリーEV市場でもシェアが減少に転じているという事実です。

地域内を本拠とするベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、ルノーがEV化に突っ走ってから極端に技術力が落ちたため、今ヨーロッパ一帯がほとんどホームタウン・バイアスなしで米中日の自動車メーカーが競合する市場となっています。

そのヨーロッパ市場でのテスラのマーケットシェアの惨憺たる低下ぶりをご覧ください。



上段は乗用車新車市場全体でのテスラのシェアです。結局、何度再挑戦しても2023年1月の3.2%を奪回することができず、今年5月には2%の大台を割りこむ寸前まで下がっています。

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