… … …(記事全文12,788文字)● DEIの女王、カマラ・ハリス
2024年7月 21日(日本時間22日)、民主党現職大統領で2期目に向けた選挙運動中だったジョー・バイデンが、かなり手の込んだ「民主党公認候補辞退」宣言を出しました。
どこに「手の込んだ」辞退宣言という証拠があるのでしょうか。まず、辞退宣言をした書簡は大統領が職務に関連したことがらで使うレターヘッドではなく私信用の便箋で、文末のサインも手書きではなくデジタル化された電子署名でした。
さらに、書簡の本文ではカマラ・ハリス副大統領にともに働いてくれたことへの感謝の意を表明するだけで、彼女を民主党の後継公認候補に推挙する件にはまったく触れていません。
カマラ・ハリスを民主党公認候補に推挙する意向は、ほぼ同時に行ったXへの投稿で示していただけです。これらの事実を総合すると、以下のことがわかってきます。
バイデンを担いでいたのではほぼ同時に共和党公認候補に選出されることが確定的だったドナルド・トランプに対してどうにも勝ち目がないと見切りをつけた民主党幹部に詰め腹を切らされたのであり、書簡もX投稿も自筆ではなかったでしょう。
こんな細工をした理由は、「公文書偽造」に近い犯罪によってバイデンに詰め腹を切らせることによって、自分たちも突っつかれれば弱みがある立場に身を置いたことを示して、なかなか素直に身を引かないバイデンを説得したのでしょう。
つまり、これは民主党幹部たちの「ジョー・バイデン自身もさることながら、犯罪のデパートのような放蕩息子ハンター・バイデンの罪が摘発されないようにかばってやる」という意志表示でもあったのだと思います。
こんな騒ぎの中で民主党公認大統領候補に「昇格」したカマラ・ハリスは、いろいろ突っこみどころの多い人物です。
ジャマイカから来た黒人移民の父親とインド人移民の母親から生まれた人ですが、若い頃社交界でのし上がろうとしていたときには、まったく黒人の血を引いていることは表面に出さず、オリエンタル系の美貌を武器にしていたのです。
黒人男性セレブリティの成功のあかしとして、両脇に抱えた美女2人のうちひとりは純然たる白人美女、もうひとりは東洋的でエキゾチックな顔立ちの美女というのが定番になっていますが、そのオリエンタル系美人の役どころをこなしていました。
ところが政治に志すようになってからは、もっぱら黒人移民の子であることを強調するようになり、公選制であるカリフォルニア州検事総長に初当選したのが2010年です。
そして2014年にも再選されて2期を務めたのですが、本来検事総長選に立候補するには法曹関係の資格保有者であることが条件なのに、彼女の場合南カリフォルニア大学から法学博士の称号を取得したのは、2期目在任中の2015年のことでした。
このへんの経緯からも、彼女がDEI(多様性、平等性、包容力)にことさら熱心なカリフォルニア政界の時代風潮に乗って政治家になり上がった、いわゆるやり手の女性だということがわかります。
ただ、彼女が大統領候補になったことについて批判が多い最大の理由は、このDEI便乗の経歴より、延々と話をしてもまったく無内容で意味のある発言にならないという、日本の政治家にはありがちですが、アメリカの政界では稀有の才能にあります。
上の引用上段の「時の流れ」に関する深遠そうな考察を実際のスピーチとして聴くと、ほんとうに大統領という要職を任せて大丈夫だろうかと不安になる人が多いことも理解できます。
増田悦佐の世界情勢を読む
増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)