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酒井威津善の「儲けの視点」 ~成功は“切り口”が10割~

酒井威津善(ビジネス書作家/発想スペシャリスト)

酒井威津善

成功している商品やサービスの共通点とは何かご存知でしょうか。
それは、今までにあった(今もある)商品やサービスを”別の視点”から掘り下げたもの、という点です。

まったく新しいカテゴリーを生み出すことはもはや困難です。仮に出来たとしても、それを伝え、広げていくことに途方もない労力とコストがかかるため、現実的な選択肢とは言えません。

それよりも、今、うまくいっているビジネスにフォーカスし、成功に繋がっている「要素」だけを取り出し、転用し新しいビジネスとして展開。つまり、0から1ではなく、1から1’を生み出すのです。

利用するのは既に知れ渡っている分野ですから認知度は十分です。ユーザーにも「イメージ」が備わっています。あとはその違いを示していくだけ。

これこそが、事業成功、新しい黒字を生み出すショートカットなのです。

もちろん、違いの出し方次第では、一大カテゴリーとして確立することも可能です。

1から1’を生み出す最大のポイントは、上述の通り、どういう切り口でその商品やサービスを捉え直すかという「視点」です。
例えば、出張用の折りたたみ式洗濯機は、本来なら家にある洗濯機を「出張」という視点に変え、1つの市場を形成しました。

裏を返せば、その”視点”さえ見つけ出すことができれば、間違いなく成功につながる、という好例です。

こうした事例はそれこそ山のように世の中に溢れています。

このウェブマガジンでは、毎回、儲けにつながる1から1’の「視点」で生み出されたたくさんの事例をご紹介。事例単体の説明にとどまらず、他の分野、商品・サービスへの応用例も交えることで、読めば読むほど、新規事業や起業のための新しい切り口、視点が見つかるようになっています。

タイトル
酒井威津善の「儲けの視点」 ~成功は“切り口”が10割~
価格
660円/月(税込)
発行
毎月2回(第2、4月曜日)
課金開始月
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■□□酒井威津善の「儲けの視点」~『マルチタスク』~

https://foomii.com/00278
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新しい年も1ヶ月が経過しました。
本当に時間が過ぎるのは早いですね。

2023年はビジネス環境において激動の1年になりそうです。
コロナの5類移行、デジタル給与の解禁、所有者不明土地に関する関連法規の見直し、そしてインボイス制度のスタートなどなど大きな変化が押し寄せてくるためです。

そしてコロナ禍はついに3年目を迎えました。この間、半ば強制的なライフスタイルの変化によって私たちの心理に少なくない影響を与えました。

■私たちを覆う不安
それらは、東日本大震災の後のそれととてもよく似ているようです。この先一体どうなるのだろうかという漠然とした不安です。

内閣府が毎年調査する「世論調査」によると、

世論調査/国民生活に関する調査/内閣府
https://survey.gov-online.go.jp/index-all.html#fy2022

平成29年以降、「良くなる」が減少し、「悪くなる」が増加傾向にあることがわかります。中でも令和元年から3年にかけて「良くなる」が大きく減った原因としてコロナ禍があることは自明でしょう。

将来は悪くなるだろうという見通し。
「今という時間をできるだけ大切にしたい」という思いが生まれるのは自然です。

そして誕生したのが時間に対するパフォーマンス。
タイムパフォーマンス、タイパです。

ベースになった言葉はもちろん「コスパ(コストパフォーマンス)」。
投下する費用に対して、効果が十分かどうか。本来ビジネスの世界にあったものが生活レベルにまで降りて、日常用語として定着しました。

同様に、費用やお金ではなく、「時間」に対しての効果の良し悪しを見るのが「タイパ」なのです。

■タイパを生み出す方法は2つ
何かの効率性を考えるとき、2通りの手段が思い浮かびます。
分母を小さくするか、分子を大きくするか、です。

時間を投入するAという行為が回避不可能な事柄の場合、例えば掃除です。やり方によって得られる対価に大きな差はありません。

そこで、掃除時間を短縮する=分母を小さくするか、掃除時間+αで分子を大きくすることで、時間あたりのパフォーマンスを増やすかとなります。

この2つの方法のうち、前者に対応しているのが「高機能な掃除機」でしょう。
ゴミ捨てや掃除機のメンテナンスが簡単などによって、掃除全体にかかる時間が圧縮されます。
後者にあたるのが、本題の「マルチタスク」です。
掃除であれば、例えばロボット掃除機による「代行」。掃除をやってもらうことでその時間を別の作業に投入でき、パラレルで時間を運用することが可能になります。

マルチタスクとは元々システム用語でした。
キーボードやマウス、その他入出力機能から発生するたくさんのタスクをPCやサーバー内同時に処理する(実際には同時ではありませんが)ことを意味しています。(対義語はシングルタスク)

システム用語から派生して、現在では一般的な仕事の進め方に対して使われるようになりました。同時間に複数の、異なる仕事をこなすことを指しています。(こちらも実際は同時ではありませんよね。人間の脳も並列処理はできません)

■マルチタスクが拡大するもう1つの理由
マルチタスクが表面化してきた背景には2つあります。
1つは上述した環境変化です。
そして、今1つが既存商品・サービスにおける単一機能での競争の限界です。

例えば、自転車。
近年2つの手段の出現によって、自転車におけるビジネスの差別化はますます困難になりました。
まず、電動アシストの登場です。体力のない年配の人でも気軽に利用することが可能になり、自転車が持っていた必要な運動量という最大の”不”を解消しました。

ビジネスとしての自転車の差別化の難しさを高めた要因のもう1つが「レンタル」です。

レンタル自転車のポートは、今やすっかり当たり前の風景になりました。利用している人もたくさん見かけます。

予めネットで登録しておけば、いつでも気軽に利用できる。
購入した自転車であれば、必要となる場所まで移動させなければなりませんが、レンタルであればその場で借りて、済ませることができます。
運動量とは異なるもう1つの大きな“不”が見事に解消されています。

■×マルチタスクで実現するタイパ
自転車特有の“不”であった運動量と移動負担。この2つが解消された今、自転車単体での差別化はもはや一部のブランドを除いて、なかなか厳しいのではないか、と考えていたところへ登場したのが、自転車×マルチタスクです。

「glafit」公道走行可能な電動バイク/glafit株式会社
https://glafit.com/

自転車としても機能するバイク。ハイブリッドバイクです。
幼い頃テレビで見ていた戦隊モノや、映画トランスフォーマーを彷彿とさせる切り口です。

必要に応じて、自転車、バイク、そして電動アシストの3つを切り替えることができる。
本来であれば、それぞれを用意した上で、かつ乗り換える必要がありました。費用もかかりますし、時間もかかる。

それをハイブリッド化(バイクと自転車のマルチタスク化)することで、その場で済ませることができた結果、見事なまでのタイパを実現しています。

同様に、マルチタスク化された商品・サービスが様々な分野で登場しています。続けて5つの事例をご紹介しましょう。


1.<マウス>
ロジクール ワイヤレスマウス トラックボール
https://onl.sc/aRSXZ7V

1つ目は、パソコン作業には欠かせないマウスです。

コロナ禍でオンライン会議や、サブスクの動画サイトが日常化した結果、私たちは気がつくとパソコン、タブレット、スマートウォッチなどなどたくさんのデバイスに囲まれて生活するようになりました。

複数のデバイスを1つずつ個別に操作するのはとても億劫です。そこで登場したのがマルチデバイスにつながるマウスです。(もちろん、同じ入力機器であるキーボードもあります)

あらかじめ設定したデバイスをスイッチ一つで多ければ3台、手元で自由に切り替えることが可能です。パソコンでWordの文章を作りながら、iPadでYouTubeの音楽を聴いたり、SNSを開いたり、ニュースを見たりすることができてしまいます。


2.<カプセルホテル>
ナインアワーズ
https://ninehours.co.jp/

2つめはホテル。
ホテルと言えば、当たり前ですが、宿泊するもの。
ホテルカテゴリーによっては、レストランや宴会機能、さらにはお土産物などの小売機能、プールやジムなどのフィットネス機能などもありますが、いずれにしても、ここまででした。

そこへ新たに登場したのがこのホテルです。
カプセルホテルによくある「大浴場」や「サウナ」がない分、「快適な睡眠」に特化。
独自開発の繭のようなカプセルや、枕などが安心感やリラックスを提供しています。

これだけでも一般的なカプセルホテルとして、他社を超えていますが、さらに追加されたのが「睡眠解析サービス」です。
寝ている間に睡眠状態を測定し、分析レポートをご提供するというもの。寝ながら、健康管理ができてしまうという代物。快適な睡眠+睡眠解析。見事なマルチ機能です。

3.<スーパー>
ヤオコー
https://www.yaoko-net.com/

3つ目の事例は、これも私たちの生活に欠かすことができないスーパー。ネット通販がこれだけ成熟していても、やはり家の近くにあるスーパーが便利です。

ビジネスの側面から見たとき、スーパーにはもはやこれ以上の改善の余地がなさそうに見えますが、そこを大きく切り崩したのがヤオコー。

毎日の食事を考えることは本当に手間がかかります。
決められないので、とりあえず買っておくという手段も一部の食材や飲み物類を除いて基本選択することができません。その都度、毎日、考えるしかない。

そこで登場したのが食生活の提案。食事に関するソリューションです。

買い物と料理の準備が並列処理できる。食事の時間全体を圧縮することができます。特に仕事帰りに買い物をする忙しい人にはありがたいサービスです。

4.<コンビニ>
ヘルスケアローソン
https://www.lawson.co.jp/company/fc/hcl/

調剤薬局や介護相談窓口が併設された画期的なコンビニです。医療機関や住宅型有料老人ホームが一体となった複合施設の中にインストアしているケースもあります。

全国に5万ヶ所以上あると言われるコンビニは、歯科医、美容院と同様、ビジネス形態が「細かく定義」されているため、いわゆる「余白」があまりありません。
品質を上げたり、100円ローソンのような「価格」での切り出しが精一杯かと思われていたところへ、見事な切り口です。

この事例から思い出されるのは、書店です。
書店×カフェ、書店×ホテル、書店×文具店などさまざまな組み合わせ事例があります。
しかし、書店のケースでも介護という観点はありませんでした。

書店以上に、身近で生活圏の中に溶け込んでいるコンビニだからこそ、機能する見事なマルチタスクです。

5.<ペット>
トレッタ
https://jp.tolettacat.com/

ペットを飼う上で欠かすことのできない「トイレ」。
そのトイレに、健康管理という新たな機能を追加し、マルチタスク化したこれもまた画期的な商品です。

毎日利用するトイレから、体重や尿のデータをグラフでチェック。
特に泌尿器系の病気にかかりやすい猫ちゃんの「予病」をスマホのアプリで手軽にできてしまいます。
しかも、月額1,480円(税込)。手軽さと相まって利用者が急増しているようです。

■マルチタスクと多機能の違い
ざっと、マルチタスクにまつわる事例を5つご紹介してきましたが、ここで間違えたくないことが1つ。

それが「多機能」です。
マルチタスクと似て非なるものです。

マルチタスクと多機能の違いは、多機能は「同一のカテゴリー」であるのに対して、マルチタスクは「異なるカテゴリー」であることです。

テレビのリモコンを思い浮かべて貰えばわかりやすいでしょう。様々な機能が付与されていますが、それらはすべて「映像」を見るというカテゴリー内の話。最近、特に流行っているチューナーレステレビでも同様です。

一方、マルチタスクは上述の事例でご紹介した通り、新たに追加された機能は、メイン機能とは明確に異なるカテゴリーです。

多機能には明らかなマイナス面が2つあります。
1つは、利用者が“置いてけ堀”になりやすいこと。
実際一昔前、テレビの多機能化が競争の要因になった頃がありました。
しかし、結果としてテレビが爆発的に売れることにはつながりませんでした。

もう1つが、競合がキャッチアップしやすいこと。
同じ分野内であるということは、当然、競合他社にもその機能を付与することが可能です。
どれほど最先端であったとしても、時間の問題でキャッチアップされます。(スマホの機能が好例でしょう)

多機能であることそのものがダメということではありません。しかし、上記の2点、そして競合他社との「差別化の実現」という観点を考えると、ある程度までの機能の充実化の一線を超えたときは、マルチタスクなどの異なる可能性を探るほうがビジネスとしては有効でしょう。(コンビニスイーツの充実など)

■まとめ
今や市民権を得つつある「タイパ」に沿って登場した「マルチタスクな商品やサービス」について事例を交えながらご紹介しました。

こうした傾向は一度のそのベクトルにむいてしまうと、そう簡単には戻りません。
ライフスタイルの中に取り込まれ、生活者の慣れとともに「当たり前化」してしまうためです。

100円ショップがわかりやすい例でしょう。
100円ショップが拡大し、生活に溶け込んだ結果、ある商品の購入にあたって「100円ショップにあるかもしれない」という選択肢を生み出し、定着させました。

同様に、これまでのような単一機能ではなく、別の価値を生み出す機能や方法があるものを自然と選ぶ。もはや、単一機能では物足りないと感じてしまう。
利用者心理としてはとても自然ですが、同時に競争の新たな局面に入ったと言えそうです。

あらゆるビジネスカテゴリーが充実する中、商品やサービスの機能性や価値向上を単一カテゴリーだけでカバーし、差別化を図ることはもはや限界と考えて差し支えないでしょう。

ぜひ、今ある商品やサービスに、既存の機能とは全く異なる要素を加えることができないか、検討してみてください。
思いもよらないような大きな利益につながるかもしれません。


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