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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

西欧植民地帝国、アングロサクソン・ジェノサイド帝国、 アメリカ空爆帝国の終わり 前篇

ユーラシア大陸を中東諸国と東欧諸国の境目あたりで西と東にわけた場合、だいたい500年に1度ずつ、西が優勢な時期と東が優勢な時期が交代してきたという経験則があります。

世界史における中世から近世・近代への転換点はカスティーリャとアラゴンのスペイン2王国がアルハンブラを拠点としていたヨーロッパ最後のイスラム王朝を追い払った1492年が妥当ではないかと思います。

この1492年には、国土回復(レコンキスタ)運動で活気が出ていたスペイン両王家の支援で、コロンブスがアメリカ大陸のすぐそばのエスパニョーラ島にたどり着き戻ってきたという大事件も起きています。

南北アメリカ大陸という、それまでのユーラシア世界には未知だった地域が世界史に登場したわけです。

このとき以来、世界の政治・経済・社会を引っ張ってきたのはポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカと、西欧諸国とその植民地として出発した国々でした。

そしてこれらの国々の繁栄を支えていた経済制度が、近代資本主義生産と呼ばれる制度です。

おそらく、学校の世界史の授業などで「資本主義生産体制が整ったのは18世紀半ば頃、産業革命がもたらした人類全体の生産能力の画期的な向上があってからのことだ」と教えられたとおっしゃる方も多いでしょう。

ですが、資本主義生産の特徴である資本の自己増殖(生産活動をくり返すにつれて資本の蓄積が拡大していく過程)は、カリブ海に浮かぶ小さな島々で、大農園でサトウキビを栽培し、搾汁工場で収穫したサトウキビの果汁を搾り取る工程が一貫生産体制を確立した頃から始まっていたのです。

カリブ海の島嶼国家で始まったサトウキビの栽培・搾汁からアメリカ南部諸州での棉花のプランテーション栽培まで、興隆期の資本主義と奴隷制労働とは切っても切れない密接な関係があったのです。

そして、近代資本主義生産ピークに達したのは、イギリスのビクトリア女王治世の最盛期だった1860年前後で、アメリカで奴隷制が禁止された1863~65年あたりから、資本主義生産は緩やかな衰退過程に入っていると思います。

また、アメリカでは今さらのように未成年の少女たちや幼児までの性的奴隷を取引する全国的ネットワークの存在が公然と話題になり、刑務所運営が民営化された州では刑期の長い受刑者を低賃金で民間企業に貸し出すことで刑務所運営業者が莫大な利益を稼ぐ服役囚奴隷制とでも言うべき「雇用形態」が定着しています。

どうもアメリカという国は、未だに奴隷制というヘソの緒を完全に断ち切ることができないまま滅亡への道を歩みつつあるようです。

私は、今後ほぼ3年間でこの西欧・北米諸国主導の近代資本主義生産を基盤とする世界が完全にひっくり返ると予測しています。

完全にと形容する意味は、約500年続いた西欧諸国による世界植民地支配が終わることであり、約250年続いた先住民をほぼ絶滅して、代わりに黒人奴隷を労働力として投入するアングロサクソン(英米)・ジェノサイド帝国が終わることであり、約84年続いた世界各地を気まぐれで空爆し後始末をしないアメリカ空爆帝国が終わるということです。

大変大きなテーマですので2回に分け、今回は前篇として西欧植民地帝国の全貌と、アングロサクソン・ジェノサイド帝国の起源までを取り上げ、次回は後篇としてジェノサイド帝国から空爆帝国について考察しようと思います。


  1. ● 大帝国の寿命250年説とは?

 

1930年代から50年代にかけて中東で活躍した軍人であり、その後歴史家としても幾多の著書を残したサー・ジョン・グラブという人がいます。

このグラブ卿が「偉大な帝国の寿命は250年」という歴史観を提唱しました。彼はヨーロッパ生まれの中東専門家だったので、取り上げた対象は欧米と中東の諸国だけですが、次の表に示すような実例を挙げています。

 

 

この表については、最初の2項目であるアッシリア帝国とアケメネス朝ペルシャは「どちらもひとりの専制君主だけが自由人で、その他の国民全員が奴隷であるアジア的専制国家ではないのか」とのご指摘もあるかと思います。

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