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山田順の「週刊:未来地図」
No.733 2024/07/23
バイデン撤退で注目の共和党副大統領候補
J・D・ヴァンスとはどんな人物か?
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銃撃事件によって、「ほぼトラ」(ほぼトランプ)が決定的になった後のバイデン大統領の撤退表明。はたして民主党はカマラ・ハリス副大統領でまとまるのか? 大統領選は今後どうなっていくのか?
注目は、トランプ共和党大統領候補のランニングメイト(副大統領候補)となったオハイオ州選出の共和党上院議員J・D・ヴァンス氏(39)ではないだろうか? トランプは確固たる岩盤支持層を持っていても、無党派層には弱い。その弱点をJ・D・ヴァンスが補えるのかどうかだ。
すでに、彼のプロファイオは報道されているが、日本人には馴染みが薄いので、ここで、まとめて紹介してみたい。
[目次] ─────────────────────
■バイデン撤退にトランプと同じ声明を!
■トランプをバカ呼ばわりしたのに一転して
■トランプの孫娘と並んで共和党大会で大注目
■ラストベルト3州の名前を何度も繰り返す
■「ヒルビリー」(田舎者の蔑称)とはなにか?
■貧しい田舎の若者がエリートに生まれ変わる
■「忘れられた人々」(プアホワイト)の代弁者に
■インド系ヒンドゥの妻との間に3人の子ども
■政策はトランプの「MAGA」とほぼ変わらず
■対中国政策に関してはトランプより強硬
■温暖化を否定し、危機意識などまったくなし
■共和大会の日に東海岸では35℃超えを記録
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■バイデン撤退にトランプと同じ声明を!
J・D・ヴァンスは、7月21日(米国時間)のバイデンの撤退表明から3時間ほどして、SNSにこう投稿した。
「ジョー・バイデンは私が生きてきたなかで最悪な大統領であり、カマラ・ハリスも彼と常に歩みをともにしてきた」
これは、彼のボス、トランプさながらのバイデン非難コメントである。トランプは、常にバイデンを「居眠りジョー」(Sleepy Joe)と揶揄してきたが、それにならっているとしか言いようがない。
彼は続けて、こう言った。
「トランプと私は、民主党の候補が誰であろうとアメリカを救う準備はできている。かかってこい!」
この時点で、すでにトランプはバイデン撤退に関してCNNの取材に応じていて、「(バイデンは)わが国史上最悪の大統領として語り継がれるだろう」とし、「カマラ・ハリスのほうがバイデンよりも倒しやすい」と答えていた。
これを受けてのSNS投稿だから、ヴァンスはまるで“ミニトランプ”“トランプチルドレン”である。
■トランプをバカ呼ばわりしたのに一転して
ヴァンスは、当初、トランプを認めていなかった。というより、完全にバカにしていた。2016年の大統領選挙の最中にトランプについて聞かれると、「なんてバカなやつ(idiot)なんだ」「非難されるべき人物だ」と答えていた。「idiot」は日本語では単にバカと訳すが、「足りないバカ」としたほうがいい。それほど、ヴァンスはトランプを嫌っていた。
ヴァンスはこうも言っていた。
「私は“ネバー・トランパー”(never Trumper:トランプは絶対だめだ派)だ。彼を好きになったことは1回もない」
また、元ルームメイトにはこう言っていたという。
「トランプは皮肉屋のろくでなしだ」
「アメリカのヒトラー(America’s Hitler)だ」
それなのに、なぜ、一転してトランプを支持することになったのか?
おそらく、それは彼が政治家になる決意をし、共和党からの出馬を目指したからだ。2021年、ヴァンスはトランプについての過去のコメントを後悔していると述べ、その後、トランプの長男のドナルド・トランプ・ジュニアと親交を持つようになった。そうして、2022年のオハイオ州の上院選でトランプの支援を受けて初当選を果たした。
以来、彼は、完全なるトランプの信奉者である。
■トランプの孫娘と並んで共和党大会で大注目
トランプ銃撃事件後、7月15日〜18日にミルウォーキーで開かれた共和党大会は、異常な熱気に包まれた。トランプの家族から側近、支持者たちが続々と登場し、トランプを礼賛した。そのなかで、もっとも印象的だったのは
トランプ・ジュニアの娘で、17歳の孫娘のカイ・マディソン・トランプだった。
彼女は目を輝かせて、こう語った。
「今日は、人々があまり見ない祖父の一面をお話しします。私にとって、祖父はごく普通のおじいちゃん(normal grandpa)です。両親が見ていないときには、私たちにキャンディーやソーダをくれます。いつも学校での私たちの様子を知りたがります」
「メディアはおじいちゃんを別人のように描いていますが、私は本当の姿を知っています。とても思いやりがあり、愛情深いんです。この国のために最善を尽くすことを心から望んでおり、アメリカを再び偉大な国にするために毎日戦うでしょう」
カイ・トランプと並んで、会場の歓声と拍手を誘ったのが、3日目に登場し、副大統領指名受諾演説を行ったヴァンスだった。
スピーチの冒頭で、彼はトランプが過去8年の間、国のために全力を尽くしてきたと述べ、「彼は政治を必要としなかったが、国は彼を必要とした」と語った。また、銃撃事件について言及し、銃撃されたトランプが立ち上がったときに、「アメリカ全体が彼とともに立ち上がった」と述べた。
この後、ヴァンスは自らの生い立ちを語り、自身の回顧録『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(日本語版:光文社刊、原題『Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis』2016)のテーマを前面に押し出し、中西部の労働者たちのために戦うとアピールした。