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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

山田順の「週刊:未来地図」No.733: オーバーツーリズムで観光地困惑! 「おもてなし」をアピールするのは止めるべき。


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            山田順の「週刊:未来地図」                 

                          No.733 2024/07/30

              オーバーツーリズムで観光地困惑!

   「おもてなし」をアピールするのは止めるべき

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 猛暑といっても、夏は観光シーズン。全国各地に外国人観光客が押し寄せ、一部でトラブルが発生している。いわゆるオーバーツーリズムだが、これを解消する名案はない。

 ただ、「おもてなし」を観光政策の目玉にするのはやめたほうがいい。「おもてなし」を日本の伝統文化としてアピールしすぎたことも、オーバーツーリズムの原因の一つだからだ。

 伝統文化というが、観光業に当てはめれば、単なる無償サービス。しかも、従業員のタダ働きのうえになりたっている。つまり、本来ならチップをもらっていいものだ。

[目次]  ─────────────────────

■オーバーツーリズム は「観光公害」?

■京都、富士山、鎌倉で起こっていること

■鎌倉は古都ではなく『スラムダンク』の聖地

■今年2024年は史上最多の3500万人と予測

■もっとも魅力的な国は空前のバーゲンセール中

■じつはたいして稼げていない観光産業

■「おもてなし」をアピールしすぎた弊害

■「おもてなし」は「見返りを求めない」

■東京都がつくった「おもてなしポケットガイド」

■「おもてなし」は「犠牲」で成り立っている

■日本もチップ制度を導入してはどうか?

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■オーバーツーリズム は「観光公害」?

 

 このニッポン、どこに行っても外国人観光客。

 それは喜ばしいことかもしれないが、各地で「オーバーツーリズム」が問題化し、議論を呼んでいる。たとえば、姫路市では姫路城の入場料を外国人観光客に限って4倍程度に値上げすることを検討していると報じられた。

 値上げして得られた収入を、施設の管理維持や観光客サービスの拡充に充てたいというのだ。

 オーバーツーリズムは、日本語では「観光公害」と訳されるが、なんかしっくりこない。単に観光客が来すぎることではなく、それによって起こる弊害全般を指すなら、もっとほかの言い方があるように思う。

 それはともかく、数年前まではこんな言葉は誰も使わなかった。それが、コロナ禍が明けて外国人観光客が再び殺到すると、急に使われるようになり、各地でさまざまな問題を引き起こすようになった。

 その一つの例が、今年の5月に河口湖駅前のローソンに張られた「目隠し黒幕」。ローソン越しに見える富士山が人気を呼び、外国人観光客が殺到。四六時中写真撮影をしてマナーを守らないため、急遽取られた“苦肉の索”だ。しかし、「隠すのはどうか」と議論を呼んだ。

 

■京都、富士山、鎌倉で起こっていること

 

 夏の観光シーズンがやって来て、オーバーツーリズムはいまヒートアップしている。京都では、外国人観光客がバスに乗りすぎて、地元の人が乗れない。祇園の路地奥まで入り込むので、仕方なく一部の私道の通行を禁止。舞妓が撮影目的で追いかけ回される。神社や寺の境内にゴミが溢れるなどの問題が起こり、地元は悲鳴状態になっている。

 富士山も外国人観光客に圧倒的な人気で、登山者の7割は外国人。問題は、この時期、短パンTシャツはまだいいとしてもサンダルで山歩きすること。中にはワンピースとハイヒールの女性もいたりするという。いくら猛暑でも、山頂付近は10度以下になり、夜間は冷える。

 私は鎌倉育ちで、学校に通うのに毎日江ノ電に乗っていたが、いまや江ノ電の乗客は半分以上が外国人になった。それも、香港、台湾、中国、タイなどからの若い旅行客ばかり。

 彼らの目的は、鎌倉高校駅前で降りて、『スラムダンク』の聖地となった踏切で写真を撮ること。そのため、踏切の周囲には、平日でも常時4、50人、休日となると100人以上が道脇でスマホ、カメラを構えている。

 

■鎌倉は古都ではなく『スラムダンク』の聖地

 

 鎌倉高校駅前の踏切に集まった若い外国人観光客たちは、クルマが来てもどこうとしないことが多く、そのために警備員が立つようになった。しかし、それでもクルマは大渋滞。地元民の不満は募る。また、江ノ電のほうは、混雑回避のためにダイヤを変えたり、地元の人間を優先乗車させたりするまでになった。

 私が育った家は、鎌倉高校駅前の一駅先の腰越にあったので、この踏切は何度も通ったことがある。私の家からしばらく津のほうに行って、腰越中学前の坂道を登ると鎌倉高校があり、坂道を下るとこの踏切があって、目の前に海が広がっている。

 たしかに、写真のアングルとしては絶好だ。

 しかし、『スラムダンク』が海外で大ヒットするまでは、ここで写真を撮る外国人観光客などほぼいなかった。それが、先日、久しぶりに行ってみたら、平日なのに数十人はいて、その多くが若いカップルだった。

 彼らにとっての鎌倉は、日本の古都というより、『スラムダンク』の聖地。もちろん、彼らは古都の名所も巡るが、最終目的地はここだ。

 

■今年2024年は史上最多の3500万人と予測

 

 なぜ、日本各地でこのようなオーバーツーリズムが起こっているのだろうか? ひと言で言えば、訪日外国人観光客が激増したからである。しかし、それだけが原因だろうか?

 7月16日、森トラストは、2024年のインバウンド(訪日外国人)客数が前年比38%増の3450万人になるとの試算を発表した。これは、コロナ禍前を大きく上回る数字だ。

 これまでインバウンドは2019年の3188万人、旅行消費額は2023年の5兆3065億円が最多だった。それを人数で約300万人、消費額で約30%(約6兆9200億円)上回るとしたのだから、本当にすごいことになってきたと言える

 こうした状況に気をよくした岸田首相は、先日の「観光立国推進閣僚会議」で「2024年は3500万人、消費額8兆円も視野に入る」と表明し、調子に乗って、全国に35カ所あるすべての国立公園で、高級リゾートホテルを誘致する取り組みを進めるとぶち上げた。

 しかし、そんなことでオーバーツーリズムの問題は解消には向かわない。富裕層向けの宿泊施設である高級リゾートホテルを増やすという発想自体が、ピント外れだ。

 

… … …(記事全文7,394文字)
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