… … …(記事全文9,679文字)● 日本に景気の鍵を握られていると認めたくない人々
前号では、アメリカの景気を支えているのは円安・インフレ政策で日本国民を窮乏化させながら低利資金をアメリカに貢いでいる日本政府と日銀で、日本の輸出産業や金融業界もそのおこぼれに与かっていることを指摘しました。
当然、何かのきっかけで円安が円高に転換すれば、アメリカは景気後退に陥ります。そして、そのきっかけは日銀がおそるおそる金利を上げることだったのも、歴然たる事実です。
ところが、欧米諸国の中でもとくにアメリカには「日本に景気の鍵を握られているなどとはどうしても認めたくない」と考えて、「アメリカの景気が後退するのは、アメリカが不景気になるからだ」という、単なる同義反復で反論したつもりになっている人もいます。
もう少し内容のある議論としては「円キャリー取引が撒き戻されると、いちばん大きな被害を受けるのは日本だ(→だから日本はいつまでも円安政策を続けろ、と言いたいわけです)」とか、「日本はどう頑張っても円安の無限ループを抜け出せない(→だからおとなしく円安で国民全体がじりじり貧しくなることを受け入れろ、といいたいわけです)」とか手を変え品を変え、日本人が自発的に円安を容認するように仕向けてきます。
そこで、この号ではなぜ日本は堂々と円キャリー取引の巻き戻しを進め、円高によって世界中からモノやサービスを安く買える世の中を実現すべきか、そして、なぜ日本経済全体としては円高で困ることは何もないのかを論じたいと思います。
まず、次の2段組グラフをご覧ください。「アメリカが不景気になるのは、アメリカが不景気になったからだ」というみごとな循環論法を「立証」するために持ち出されたグラフです。
上段には1997~2024年の期間に5週間以内に円が10%以上高くなった時期が3つあることを示しています。まず1998年9月、次に2008年3月、そして今年の8月です。
下段には、この急激な円高にアメリカを代表する株価指数であるS&P500がどう反応したかが描かれています。1998年のS&P500は20%の下落で済みました。2007~09年にかけては60%という大暴落となりました。現在までのところ、2024年のS&P500の急落は10%で収まって上昇に転じたように見えます。
2024年の下げが10%で済んだのかどうかはまだわかりませんが、1998年と2008年のあいだに非常に大きな差があったことは、確定済みの事実です。
増田悦佐の世界情勢を読む
増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)