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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

疫病条約は世界政府への一本道

国際法や公衆衛生問題の専門家たちが大変注目していた2023年11月30日は何ごともなく過ぎ去って、2週間のときが過ぎました。

なぜ今年の11月末日が注目されていたかというと、この日は世界保健機構(WHO)が提唱している「疫病合意」について異議や拒絶の意思のある加盟国はその態度を表明しなければいけないとされていた期日だったからです。

当初は「疫病条約」と呼ばれていましたが、あまりにも国家主権を侵害する意図が見え透いていたため、途中で「疫病合意」と呼称だけはソフトに変えられた草案が今世界各国で検討・審議中ということになっています。

ですが、何が疫病で、その対策としては何が適切かを決定する権限をWHO事務局長に一任するという、国家主権を骨抜きにしてWHOを事実上の世界政府にしてしまおうという意図が明白な、とんでもない提案です。

これまでのところWHOから「異議・拒絶の意向を示した国XXヵ国、賛成XXXヵ国で疫病合意は成立しました」という趣旨の公式発表はされていません。

まあこんなに重要な問題が、忘年会の日程調整じゃあるまいし、「X月XX日までにご異議の表明がなければ賛成と見なして、賛成多数なら可決となります」というわけにはいかないだろう、と私はタカをくくっていました。

でも、さまざまな報道を総合すると、これはけっこう真剣に対応する必要のある問題だとわかってきました。

この疫病条約(合意)自体がすでに施行中の国際保健規則(International Health Regulations、IHR)の改変と二段構えの制度変更となっていて、WHO側としては「たとえ疫病合意が批准されなくても中身はIHRの細目変更として押し通せる」と考えているフシが見受けられるからです。

「いや、それでも各国の国民がこの規則に従わないという不服従運動を展開すれば、その反対を押し切ってWHOの指示どおりに動く国はあまり多くないだろう」という楽観は禁物です。

製薬産業は世界的に見ても寡占化の進んでいる業界で米、英、仏、スイスの大手8~10社が圧倒的に大きなシェアを占めています。そして、世界各国に系列下の製薬会社を配置しているのです。

これらの製薬産業の寡占各社が、それぞれ系列会社に「今度の疫病条約は、我々においしい儲け口を提供してくれるすばらしい条約だから、自国政府を賛成に回らせるように」と指示を出したら、WHO加盟国の過半数で実施される危険は大ありです。


●    なぜWHOは不人気な疫病条約をゴリ押しするのか?


当初「疫病条約」と呼んでいたものを、あまりにも国家主権侵害の意図が見え透いているので「疫病合意」と呼び変えたことについてはすでにご説明しましたが、WHOはこの点について、まだウソをつき続けています

次の写真に付いたキャプションの文言は、世界中のさまざまな報道機関によって確認されたものです。



事務局長当人が、公式の場で「今こそ疫病条約を締結しよう」と呼びかけていたわけですから、自分たちで構想したとおりの疫病対策を国内法に優先して適用される国際条約として世界各国に押しつけようとした意図は明白だと思います。

それなのに、WHOは「我々が疫病条約を提唱したことはない。国際的な合意を形成しようと呼びかけただけだ」と言い張っています。まあ、それはことば遣いを変えただけなのでいいとしましょう。

でも現在審議中の最終草案は、タイトルこそ条約から合意に変わって強制的な性格が弱まったように見えますが、内容的にはさらにWHO事務局長の独断専行性が強まっています。

条約として審議されていた時期には拘束力を持たない(nonbinding)とされていた条項からnonbindingの字句が削除されたりして、ますますWHO事務局長がふるうことのできる権限が強化されているのです。

そして疫病という概念自体も、漠然とした定義によって果てしのない拡大解釈が可能になってしまいました。

… … …(記事全文13,715文字)
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