… … …(記事全文11,808文字)前号では、今アメリカで一般大衆が自動車を持つ権利を守り抜くことができるかが、政治・経済・社会を貫く大きな争点になっているというところまでお伝えしました。
「世界最大の自動車関連サービス企業」を自任するコックス・オートモーティブ社主任エコノミストが「アメリカ国民の半分が、新車だけでなく中古車の市場からも締め出されてしまった」と発表して話題になりました。
その趣旨は、「現在アメリカで所得がちょうどまん中の層にとって、毎月クルマのローンに支払える金額は400ドルが限度だが、400ドルでは新車はおろか中古車でさえきちんとした品質の自動車を売るのはむずかしい」ということでした。
● なぜ米国民がクルマを買えない世の中に?
2010年代は、経済全体に高インフレ・高金利傾向がしみついているアメリカにとっては異例と言えるほど低金利・低インフレの続いた時代でした。
インフレや金利高に慣れた人にとって、低金利で借りたカネでモノが買えて、しかもローン返済負担が軽くて済むということになると、なるべく長期間にわたる固定金利で借りて、高いものを買っておくほうが得だということになります。
まずその恩恵を受けたのが、サブプライムローン・バブル崩壊で痛手を受けていた住宅産業でしたが、だいたい5~7年程度のローンを組んで買うことの多い自動車産業も、大いに潤いました。
ふつうの乗用車よりずっと高価格で売れるスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)の売上が激増したのです。
さらにちょうど2010年代末頃から「話題性はあるけど、本業では営業赤字で炭素排出権取引によってかろうじて黒字を出している会社だから、業績では買えない」と言われていたテスラ社も、本業で営業黒字を出せるようになっていたのです。
さらに、自動車という商品全体の高額化を決定づけたのは、ごくふつうのガソリンエンジン(内燃機関)車の中古価格が、2017~19年あたりから急上昇を始めたことでした。
2016年まで140台に到達したことがなかった中古車の残存価値指数が2017年には140台に乗せ、第1次コロナ・ショックが起きた2020年には164、そして直後のリベンジ消費が盛り上がった2021年にはなんと一気に217まで駆け上がってしまったのです。
増田悦佐の世界情勢を読む
増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)