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山田順の「週刊:未来地図」
No.782 2024/06/26
貧困層を見捨て富裕層の天国をつくる
トランプの「ペテン政治」(2)
アメリカを史上最大のタックスヘイブンに!
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昨日の配信記事に続いて、トランプの「ペテン政治」の実態を見ていく。岩盤支持層であるラストベルトの白人貧困層(poor white)を救うなどというのはただの出まかせで、本当は、自分を含めた富裕層をますます富ませることしか、彼のアタマにはない。
要するに、アメリカを富裕層に優しい「タックスヘイブン」にしてしまおうというのだ。そうして、「大統領ビジネス」によって私腹を肥やす。彼は、自己愛性人格障害とされるだけあって、自身を「王」とはき違え、なにをやっても構わないと思っている。
写真©Official White House photo
[目次] ─────────────
■ノーベル賞学者が指摘する「タックスヘイブン化」
■「国際租税協力枠組条約」の目的はなにか?
■国連でアメリカ代用は拒否して席を立つ
■法人税、所得税のない州もあるアメリカの税制
■国際的な銀行口座情報の交換システムに不参加
■「CRS」の穴埋めの「FATCA」で富裕層囲い込み
■500万ドルの「ゴルドカード」で永住権を販売
■賄賂あり、買収ありの無法ビジネスを承認
■大学弾圧、教育省廃止の意味するところ
■「貧困層は貧困のままでいろ」というメッセージ
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■ノーベル賞学者が指摘する「タックスヘイブン化」
ノーベル賞受賞の経済学者ジョセフ・スティグリッツが、最近のインタビュー(『クーリエ・ジャポン』6.11配信記事)で、トランプ政権下で「アメリカはいま史上最大のタックスヘイブンに変貌している」と述べていることに、素朴に「なぜ?」と思った。
しかし、よくよく考えてみると、この指摘は当たっている。
前回の配信記事で述べたように、トランプは貧しい人々のことなどどうでもいいと思っている。それが、「トランプ関税」であり、「大型減税法案」である。しかも、トランプは大統領という地位を利用し、ファミリー企業を通して金儲けに邁進している。
そして、これらを可能にするために、バックグランドを整えているのだ。それが、スティグリッツが指摘する「アメリカのタックスヘイブン化」である。
スティグリッツは次のように述べている。
「米政権は、国連の国際租税協力枠組条約の交渉から離脱し、海外腐敗行為防止法も執行しようとしない。さらには暗号資産の大規模な規制緩和までおこなおうとしている。 これらの措置は、過去250年にわたって米国の制度内に組み込まれてきた安全装置の破壊を狙う戦略の一環なのだろう。」
■「国際租税協力枠組条約」の目的はなにか?
スティグリッツが指摘した「国際租税協力枠組条約」とはなにか? そして、そこから離脱するとどうなるのか?
「国際租税協力枠組条約」(United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation)というのは、各国がバラバラに行っている国際課税を透明化、統一化し、マネーロンダリング、タックスヘイブンによる租税逃れなどを防ぐ枠組み(ルール)をつくろうというもの。
もっと具体的に言うと、一つはタックスヘイブンなどにある匿名口座の情報開示、情報交換により、テロ資金などのマネーロンダリング、富裕層の課税逃れを防止しようというもの。もう一つは、とくにアメリカの多国籍ビッグテックである、グーグル、アップルなどの国境を越えたデジタルサービスに対してどう課税するかを取り決めようというもの。
こうしたことが決まれば、アメリカの富裕層にとっては、大きなダメージとなる。なぜなら、富裕層の多くはデジタルで富を築いたニューマネーであり、旧来のオールドマネーも含めて、富裕層のマネーの多くはアメリカ国内およびタックヘイブンにあるからだ。
■国連でアメリカ代用は拒否して席を立つ
国際課税は、世界各国にとって、ここ10年以上にわたって論議を重ねてきた大きなテーマである。各国は長きにわたって交渉を続け、2021年におよそ140の国と地域で大枠の合意に達した。
しかし、トランプは就任するやいなや、OECDが進めてきた「デジタルサービス税(DST)の導入」や「法人税の最低税率15%とする」などの大筋合意から離脱した。
トランプは、「国際課税ルールはアメリカ国内では効力を持たない」と表明した。
そして、今年の2月に国連における「国際租税協力枠組条約」の交渉会合では、「これ以上参加するつもりはない。アメリカはこの枠組条約のプロセスの結果を拒否し、反対することを明確に強調する」と、国連代表が席を立った。
■法人税、所得税のない州もあるアメリカの税制
トランプは第1次政権のときに、連邦法人税を35%から21%へと大幅に引き下げた。アメリカではこれに州ごとに異なった州法人税が加わるが、ネバダ、テキサスなど6州はそれがない。
また、連邦個人所得税は最低税率が10%、最高税率が37%となっていて、これに州別の個人所得税が加わるが、こちらもフロリダ、テキサスなどの7州では所得税そのものがない。
つまり、アメリカの税制は企業と富裕層にとって優しく、これに今回の「大型減税法案」と「国際租税協力枠組条約」からの離脱が加われば、これはまさに「タックスヘイブン」と言うほかないのだ。
ちなみに、法人税は、英国は19% ドイツは15.83%、カナダは15%だから、アメリカがとりたてて低い和歌ではない。ただし、日本は23.2%と高い。
■国際的な銀行口座情報の交換システムに不参加
アメリカが富裕層に優しい点がもう一つある
それは、日本を含む100以上の国と地域が参加している「CRS」(Common Reporting Standard:共通基準)に参加していないことだ。
「CRS」は、外国の金融機関に保有する口座を利用した国際的な租税回避を防止するために、OECDが策定した、金融口座情報を自動交換する制度。つまり、自国の富裕層が国外に資産を移転していた場合、それをその国の銀行口座情報を開示してもらうことで把握できるという仕組みである。
アメリカは当初から「CRS」に参加していない。そのため、自国内にある非居住者(多くは外国人富裕層)の口座情報を、加盟国の税務当局に提供しなくていい。これは、外国人富裕層にとっては、とんでもない僥倖である。
なぜ、アメリカだけにこんなことが許されるのか?その理由は世界覇権国だからという以外には見当たらない。なぜなら、スイスや香港をはじめ、シンガポール、ルクセンブルク、マン島などのタックスヘイブンも「CRS」に参加し、各国の税務当局との間で金融口座情報を自動的に交換しているからだ。