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山田順の「週刊:未来地図」
No.000 2025/06/24
貧困層を見捨て富裕層の天国をつくる
トランプの「ペテン政治」(1)
「アメリカを暗号資産の首都にする」で大儲け
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いまさらなにを言っても仕方がないが、それにしてもアメリカの変貌ぶりには驚くほかない。若い頃から何度もアメリカに足を運び、「自由の国」(land of freedom)の空気を味わってきたこと思うと、脱力感、喪失感ははかりしれない。
すべてとは言わないが、まったくもってトランプのせいである。トランプがこれまでのアメリカを破壊し、さらにもっと破壊しようとしている。
そんなわけで今回は、トランプがいかにペテン師か、そして私利私欲の塊かを2回にわたって述べていきたい。岩盤支持層というラストベルトの白人貧困層(poor white)を見捨て、富裕層を太らせ、それによってアメリカを自分の王国にしようとしている。
写真©️coin post
[目次] ─────────────
■反対デモの最中、誕生日に派手な軍事パレード
■「大型減税法案」で富める者はさらに富む
■はじめから低所得者の味方ではなかった
■「アメリカを暗号資産の首都にする」と豹変
■ビックテックの意向を汲んで自身も金儲け
■「GENIUS法案」で暗号資産の価値上昇
■100万ドル夕食会出席で見返りに即恩赦
■ウクライナは放り投げ、儲かる中東で利権漁り
■とうとう携帯電話サービスにまで参入
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■反対デモの最中、誕生日に派手な軍事パレード
自動車関税25%によって、いまや、多くのアメリカ人がクルマを買えなくなった。買えるのは中古車。新車はトランプがいなくなるまで買い控えることが主流となっている。
最近は、トランプを「TACO(タコ)」(Trump Always Chickens Out:トランプは常にビビって取りやめる、の意味の頭文字を取ったスラング)と呼ぶようになったが、自動車関税だけは取りやめる気配はない。
クルマばかりではない。テレビ、冷蔵庫、洗濯機といった家電製品から、衣類、雑貨、食料品に至るまで、ありとあらゆる生活用品が値上がりしている。すべて、トランプ関税の悪影響で、この関税政策を続けたら、いちばん困るのは、トランプの岩盤支持層とされる白人貧困層である。
すでに、反トランプデモは、全米に拡大している。当初は、ICE(移民・税関執行局)の不法移民狩りに対する抗議(Anti ICE Protests)だったが、いまや、「トランプ辞めろ!王はいらない!」(No Kings Protests)に変わった。
しかし、そんなことを意に介する大統領ではない。なんと、自分の誕生日6月14日(79歳)に、首都ワシントンで派手な軍事パレードをやる始末。挙句の果てに、カナダのG7では、他国の首脳を置き去りにして、勝手に帰国してしまった。
いったいいつまで、閣僚たちはこの人格障害ナルシストに従うのだろうか?
■「大型減税法案」で富める者はさらに富む
トランプの「ペテン政治」の最大の政策は、もちろん関税である。これでアメリカは復活する(=MAGA)と国民を信じこませ、物価上昇による生活苦に追い込んでいる。
そして、さらに追い討ちをかけるのが、「1つの大きく美しい法案」(One big beautiful bill act)と豪語する、いわゆる「大型減税法案」だ。
この法案は、債務の上限の引き上げと所得税などの減税をパッケージにしたもので、すでに下院を通過したが、多くの問題点が指摘されたため、上院での可決のための修正をめぐってもめている。
最大の問題点は、米議会予算局(CBO)が指摘しているように、今後10年で連邦赤字を2.8兆ドル押し上げてしまうこと。そして、減税といっても、医療支援費の削減などにより低所得層の世帯年収が減ってしまうことだ。
下院通過案をCBOが試算した6月13日の発表によると、
所得下位10%の世帯では、2026~34年度に年収が約1600ドル(約23万円)減る。これは、低所得者向けの医療支援「メディケイド」や食料支援プログラム(フードスタンプなど)を削減するためだ、
一方、所得上位10%では、減税の恩恵により年収が約1万2000ドル(約170万円)増加。中間層では年間500~1000ドル(約7万~14万円)の増収となる。
なんとことはない、貧しい者をさらに貧しくし、富める者をさらに富ますのだ。
■はじめから低所得者の味方ではなかった
トランプは、今回の大統領選中、メディケイドに関しては「削減しない」と繰り返し明言してきた。それを思えば、「大型減税法案」は最大のペテンと言っていいだろう。
しかし、低所得者層は、この法案がこのような側面を持っていることをほとんど知らない。
トランプは第1次政権でも、減税を行っている。しかし、これもまた富裕層向けのもので、アメリカの格差は拡大した。このときのトランプ減税により、アメリカのもっとも裕福な上位400世帯が支払った実効税率の平均は23%となり、下位世帯50%の平均税率の24.2%を下回った。アメリカ史上初めて、富裕層の納税額が下位所得層である労働者階級の納税額より低くなったのだ。
富裕層がさらに富み、格差が拡大したりすること自体を、私は悪いことだとは思わない。それが、社会を活性化、経済を発展させるからだ。しかし、一般労働者階級を生活苦に追い込むのは政治ではない。彼らの職をつくり、働けば豊かになれる環境をつくるのが政治だ。
トランプは、自身がミリオネアなのだから、貧乏な人々の味方などするはずがない。はじめから彼は富裕層の味方だったのだ。トランプの岩盤支持層は、ちょっと調べればわかることすら調べず、彼の甘言に騙され続けている。
■「アメリカを暗号資産の首都にする」と豹変
トランプが「トランプ1.0」のときと比べて、コロッと180度変わったことがある。それは、暗号資産、あるいは仮想通貨(=クリプトカレンシー)に対する見方、態度を豹変させたことだ。
今回、大統領に返り咲くやいなや、自身のミームコインの「トランプコイン」、夫人の「メラニアコイン」などを大量に発行して数億ドルの荒稼ぎをしている。また、ファミリー企業でビットコインビジネスに乗り出し、こちらでも巨額の投資資金を集めている。
第1次政権では、トランプは暗号資産に対しては否定的だった。トランプはビットコインを「これは通貨ではない。ただの詐欺だ。本当の通貨はドルだけだ」と、まったく取り合わなかった。
それが、どうだろう。「トランプ2.0」を目指す大統領選中に、「アメリカを暗号資産の首都にする」とまで言い出した。そして、当選するや、ビットコイン懐疑派の米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長を解任するとし、実際、ゲンスラーは大統領就任式当日に自ら退任した。
こうしたトランプの豹変により、ビットコインなどの暗号資産は爆騰した。