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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

山田順の「週刊:未来地図」No.761:トランプ「出生地主義」廃止で考える アメリカ人とはなにか?日本人とはなにか?


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  山田順の「週刊:未来地図」                 

   No.761 2025/02/04

トランプ「出生地主義」廃止で考える 

アメリカ人とはなにか?日本人とはなにか? 

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 “オレ様大統領”トランプの大統領令連発による「常識革命」は、各方面に大きな波紋を呼んでいる。その一つ、「出生地主義」の廃止は、結局、連邦地裁で「違憲」とされ、ストップがかかった。しかし、これは「大統領令の一時差し止め」だから、トランプは他の手段を使ってでも実行する可能性がある。

 なぜ、アメリカ国内で生まれた子供は、誰だろうとアメリカ国籍を与えられるのだろうか? なぜ、それを憲法が保証しているのだろうか?

 日本人から見たら考えられないこの法律は、なにを意味しているのだろうか?

 写真©日本テレビのニュースより

[目次]  ─────────────

■日本の「血統主義」アメリカの「出生地主義」

■無条件の出生地主義国はアメリカとカナダぐらい

■中国人「出産ツアー」激増に頭に血が上った

■大統領令の出生地主義の廃止は「違憲」

■「地」の「属地主義」と「人」の「属人主義」

■属人主義から属地主義(出生地主義)へ

■奴隷解放のために出生地主義を採用

■「神の下にすべての人間は平等」という理念

■カナダもまたアメリカと同じ問題に直面

■国よってつくられる「日本人=日本国籍保有者」

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■日本の「血統主義」アメリカの「出生地主義」

 

 日本人は、特例を除いて、日本人の親から生まれない限り日本人になれない。日本の国籍は与えられない。

 国籍法によると、日本国籍を取得するには、次の3つの方法がある。 

 

(1)日本国民である父または母からの出生(第2条)

(2)日本国民が認知した子による届出(第3条)

(3)帰化(第4条)

 

 このうち、外国人が日本人になるための(3)帰化には、さまざまな要件が設けられている。 

 

・引き続き5年以上日本に住所を有していること

・18歳以上で、本国の法律によっても成人の年齢に達していること

・素行が善良であること

・生活に困るようなことがなく日本で暮らしていけること

・日常生活に支障のない程度の日本語能力(会話及び読み書き)を有していること

 

 しかも、日本に帰化すると、母国の国籍を失う。

 つまり、日本は、血の繋がりを重視する「血統主義」(jus sanguinis:bloodline principle)の国であり、血統が違う日本人以外の外国人が日本人になるためのハードルは極めて高いのだ。

 

 これに対してアメリカは、国内で生まれた子供は親がどこの国の人間であろうと、原則としてアメリカ国籍を得られる「出生地主義」(jus soli:birthright citizenship)の国である。

 アメリカの領土内で生まれれば、それだけで国籍を得られるのだから、外国人でもアメリカ人に容易になれる。

 

■無条件の出生地主義国はアメリカとカナダぐらい

 

 このように血統主義と出生地主義は大きく違うもので、国家・国民のあり方を規定する。

 ただし、世界のほとんどの国は一方の方式のみを採用していない。どちらか一方を原則としたうえで、補完的にもう一方の方法を採用している。

 

 たとえば、血統主義一辺倒だったら、親が無国籍であったり、特定の条件を満たさなかったりした場合、子供は無国籍になってしまう。そのため、条件付きで出生地主義を採用している。

 たとえば、EU諸国はほとんどが血統主義を採用しているが、移民受け入れにより、条件付きで出生地主義を取り入れている。

 

 アメリカは、ほぼ無条件の出生地主義の国だが、国籍法で補充的に血統主義を採用している。それは、アメリカ国外で生まれた両親ともアメリカ人の子供、アメリカ人と外国人の親から生まれた子供に対して、国籍を付与するということである。

 

 ちなみに、日本と同じように血統を重んじている血統主義の国は、中国、韓国、ドイツ、イタリア、スイス、ロシアなど。出生地主義の国は、アメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、アルゼンチンなどがある。血統主義か出生地主義かで見ると、世界の国々は多くが血統主義であり、ほぼ無条件の出生地主義の国は、アメリカとカナダぐらいである。

 

■中国人「出産ツアー」激増に頭に血が上った 

 

 トランプは、「人種差別主義者」(racist)であり「白人優位主義者」(white supremacist)である。したがって、これ以上白人以外の移民が増えて、アメリカが白人社会でなくなるのが許せない。

 とくに、中国人が出生地主義を利用して、次々にアメリカ人になっていくのを見て、頭に血が上ったと言っていい。

 

 そのため、前政権のときから、「出生地主義を再規定する」(redefining birthright citizenship)と言ってきた。

 

 なにしろ、中国人の「出産ツアー」は2010年代に激増した。北京、上海に、中国人の妊婦をアメリカで出産させるためのツアー会社が次々に誕生し、多くの中国人妊婦がアメリカに渡った。

 この出産ツアーは「赴美生子」(フゥメイションズ:アメリカに赴いて子供を生む)」と言われ、中国で流行語となった。

 

 正確な統計はないが、「赴美生子」の数は、2010年代に毎年1万人以上に上ったとされる。とくに多かったのが、中国に最も近いアメリカ領のサイパンで、サイパンでは毎年、地元で生まれた子供の数をはるかに上回る数のチャイナベイビーが誕生した。

 カリフォルニアでも、ニューヨークやフロリダでも、中国人の出産ツアーは激増し、ついにアメリカ移民税関捜査局(ICE)は2015年からに出産ツアー業者の摘発に乗り出した。

 

 こうした背景から、トランプは前回の大統領就任時も、出生地主義の禁止を訴え、外国人妊婦の入国を拒否するため、短期ビザの発行を取りやめた。これは、バイデン政権でも引き継がれた。

 したがって、今回の出生地主義廃止の大統領令は、敗者復活戦である。

 

… … …(記事全文6,585文字)
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