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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

山田順の「週刊:未来地図」No.752:英国もついに容認、法制化に! 「安楽死」を議論さえしない日本の欺瞞


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  山田順の「週刊:未来地図」                 

   No.752 2024/12/03

 英国もついに容認、法制化に!

「安楽死」を議論さえしない日本の欺瞞

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 11月29日、英国の下院で「安楽死」を認める法案が可決された。世界の多くの国では、終末期患者は苦痛から逃れて、尊厳を保ったまま最期を迎える権利があるとしているが、英国もついにそうした国々の仲間入りをすることになる。

 しかし、この日本では、「安楽死」は論外で、「尊厳死」ですら法制化されていない。そのため、終末期の「寝たきり老人」は増え続け、本人も家族も望まない濃厚な「延命治療」が延々と行われている。メディアも政治も、エセヒューマニズムに染まり、議論しようとさえしない。こんな異常な状況をいつまで続けるのだろうか?

     写真©︎NBC News

[目次]  ───────────────

■世論は7割が賛成、議会では自由投票で採決

■賛成派、反対派、それぞれの主張とは?

■終末期患者の延命は人間に対する冒涜

■安楽死とは医師介助による「自発的な死」

■日本で言う「尊厳死」は欧米とは違うもの

■世界の安楽死を合法化している国々

■日本では議論も法制化もされていない

■国民民主党が尊厳死の法制化を提唱

■「寝たきり老人」が数百万人も存在する国

■欧米を比べると異様な日本の「老人施設」

■家族側の「丸投げ主義」と医療側の「商業主義」

■延命治療で儲けている医師会は反対の立場

■一部の生活保護受給者も病院もワル

■ガイドラインがないため医者が殺人罪に!

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■世論は7割が賛成、議会では自由投票で採決

 

 11月29日、英国の下院で可決された「安楽死」を認める法案は、賛成が330、反対が275だった。法案可決前に行われた世論調査では、賛成が7割に達していた。

 今後、法案成立のためには、もう1回の下院採決を経て、上院でも可決される必要がある。しかし、世論の状況から見て、法案成立はほぼ間違いない。

 

 今回の英国の安楽死法案は、イングランドとウェールズに適用され、その対象者は余命6カ月未満の終末期患者。あくまで本人の意思が条件で、医師2人と裁判官の承諾が必要とされ、薬物の投与などによって死を選ぶ権利が与えられる。

 

 英国では2015年に同様な法案が提出されたが、否決。今回は、世論の動きを見て、労働党のキム・レッドビーター下院議員が議員立法で提出。キア・スターマー首相も支持を表明し、労働党は自由投票を選択し、可決された。

 

「多くの人が苦痛のなかで死を迎えている。患者はよりよい死を選ぶ権利を持つべきだ」

 というレッドビーター下院議員の主張が通ったと言える。


■賛成派、反対派、それぞれの主張とは?


 下院での採決を目にして、議会前では、賛成派と反対派の集会が開かれ、それぞれ、プラカードを掲げて、議員とメディアに呼びかけた。 

 

 賛成派のプラカードには「私たちに選択を」「幸福な人生には幸福な死を」などというフレーズが、反対派のプラカードには「死ぬためではなく生きるための支援を」「医者を犯罪者にするな」などというフレーズが書かれていた。

 

 反対派の総本山は、カトリック教会である。カトリックは自殺を認めておらず、安楽死を自殺と同様なものとして猛反対してきた。ローマ教皇庁は、安楽死を「人間の生命に対する犯罪だ」と公式声明で発表している。

 しかし、すでにスペインでは、2021年に合法化されている。

 

■終末期患者の延命は人間に対する冒涜

 

 ただし、反対派の懸念も、もっともなところはある。この法案により、高齢者や障害者が「死を選ぶよう圧力を感じてしまうだろう」と、自由民主党のエドワード・デイヴィー党首は反対した。また、介護する家族に負担をかけたくないと、「早めに死のうとする患者が多くなる」との意見もあった。

 

 しかし、もう助からない終末期患者を医療の力で延命させるのは、人間の尊厳に対する冒涜だという声のほうが強かった。

 安楽死実現のキャンペーン組織「Dignity in Dying」(ディグニティー・イン・ダイイング)では、英国人の84%が終末期患者による安楽死の選択を支持しているとし、議会前に多数の支持者が集まった。

 

■安楽死とは医師介助による「自発的な死」

 

 ここで、安楽死について整理しておくと、英国では安楽死を一般的に「assisted dying」(介助して死なせるという意味)と呼んでいる。メディアもこの言葉を使っている。

 もっと踏み込んだ「mercy killing」(慈悲殺)、「assisted suicide」(自殺幇助)、医学用語としての「euthanasia」(安楽死)もあって、その線引きは難しいが、いずれも、治癒の見込みがない重篤患者の希望により、医師がクスリなどを用いて死へ至らしめる行為を指す。

 

 共通しているのは、患者が望むこと。つまり、「自発的」(voluntary)であることで、「自発的な死」と言える。

 

 となると、反対に「非自発的」(involuntary)な死もあるわけで、こちらは「非自発的安楽死」となり、これはある意味で殺人である。

 また、患者の意思に反して治療を中止したり、差し替えたりするのも、これに含まれる。

… … …(記事全文8,041文字)
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