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山田順の「週刊:未来地図」
No.753 2024/12/10
トランプラリーはいつまで続く?
インフレ再燃、金融バブル崩壊、ドル危機も!
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NYダウは一時4万5000ドルを超え、ナスダックは2万ドル目前と、アメリカの株式相場は絶好調を続けている。他地域と比べると、まさに一人勝ちで、トランプ次期大統領の鼻息も荒い。しかし、この「トランプラリー」は、来年の就任後も続くのだろうか?
トランプがこれまで公言してきた政策を考えると、とてもだが、これ以上ラリーが続くとは考えづらい。そればかりか、インフレ再燃、金融バブルの崩壊が起こり、ドルが危機に陥ることまで考えられる。一部投資家はすでにそうしたシナリオの元に動き出している。
[目次] ─────────────
■トランプラリーは「ノーランディング」
■BTC10万ドル突破と金融規制の緩和
■インフレ再燃を招く長期金利の上昇
■「債務の上限」は回避されるも赤字は拡大
■トランプの政策では財政赤字拡大は必至
■懸念されるのは「金融バブル」の崩壊
■ドル防衛にならないBRICSへの無用な挑発
■ドルの価値を担保しているものはなにか?
■中国、ロシア、インドの動きを警戒せよ
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■トランプラリーは「ノーランディング」
トランプの勝利確定後から、「トランプラリー」は勢いづき、NYダウは史上最高値を更新し続け、ついに4万5000ドルを一時的だが突破した。コロナショックのときに2万ドルを割り込んだことを思うと、夢のようである。ナスダックも2万ドル目前だ。
いまや、アメリカの株式市場は絶好調で、他地域と比べると、完全に「一人勝ち」状態である。
こうしたトランプラリーの背景にあるのは、イーロン・マスク率いるテスラやハイテックのエヌビディアなどの株価の高騰。そして、トランプ減税や大型予算による財政出動によって好景気は持続するという期待感だ。トランプの言葉どおり「MAGA」(アメリカを再び偉大に)は実現するという見方だ。
そのせいか、最近は「ノーランディング」まで囁かれるようになった。まさに、楽観が市場を支配し始めた。
しかし、いまの相場はどう見てもバブルだろう。
トランプが言っていること、やろうとしていることを考えれば、アメリカの財政赤字はさらに拡大し、インフレは再燃するはずだからだ。
■BTC10万ドル突破と金融規制の緩和
トランプラリーを象徴するのが、仮想通貨(暗号資産:crypto currency)のビットコイン(BTC)が、12月5日に10万ドルの大台を突破したことだ。トランプはアメリカを「地球上の仮想通貨の首都にし、ビットコインの国家備蓄を構築する」と言ってきたのだから、こうなるのは必然なのかもしれない。
なにしろ、仮想通貨に否定的だったSEC(米証券取引委員会)のゲイリー・ゲンスラー委員長は来年の1月20日に退任する。後任の委員長に、トランプは仮想通貨推進派として知られるポール・アトキンスを指名した。
アトキンスは、自由金融論者で、仮想通貨ばかりか、ヘッジファンドやPE(プライベートエクイティ)に対する規制を緩和・解除するとしている。
仮想通貨に関して私は詳しく知らない。投資家ではないので、仕組みを理解している程度である。しかし、仮想通貨は現状ではあくまで民間が発売する投資商品であり、現在、世界中の中央銀行が進めている「CBDC」(Central Bank Digital Currency:中央銀行が発行するデジタル通貨)とは違うものだ。なにより国家による信用保証がない。
■インフレ再燃を招く長期金利の上昇
現在、アメリカの財政は、史上最大の赤字を抱えている。
アメリカ国債(財務省証券)の発行残高は、2023年に過去最高の23兆ドル(約3450兆円:1ドル150円換算)を記録し、2024会計年度末には28兆1776億ドルと試算されている。このうち、これから3年間で財務省は15.5兆ドルの債務を借り換えなければならない。
この返済コストは、長期金利が上昇するとかさむ一方になるので、FRBはいずれまた量的緩和(QE:国債買い入れ)やることになるだろう。しかし、そうなるとインフレは再燃する。
さらに、「債務の上限」(debt ceiling)という大問題が、目前に迫っている。アメリカでは連邦債務の上限が1917年以来法律で定められているが、昨年1月にこれが上限に達した。そのため、バイデンは政権6月に「財政責任法」(Fiscal Responsibility Act of 2023)を成立させ、危機は回避された。
しかし、この財政責任法は来年1月2日までに新たな合意が成立しなければ失効する。