━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 No.612 2022/06/07 株価はもう上がらない! 世界経済は試練の「長期低迷」へ (上) ウェブで読む:https://foomii.com/00065/2022060709000095414 EPUBダウンロード:https://foomii.com/00065-95503.epub ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 世界中で株価がダウントレンドに入った。コロナ禍が収束に向かっているので、経済が回復すればまた戻すという見方があるが、そうはならない。なぜなら、すでに金融緩和は終わり、市場にあふれたマネーは今後収縮していくからだ。 それなのに、経済メディアは、ウクライナ戦争、インフレ高進、企業業績、雇用情勢など、日々の事象で株価の変動を説明している。 そんななか、驚くべきことに、岸田内閣は「1億総株主」という目標を掲げ、個人資産を株式投資に向かわせようとしている。 はたして、この先、株価はどうなるのか? 今回と次回(明日配信)、2回に分けて、できる限りシンプルに、もう株価は上がらず、世界経済は長期低迷に入るということを述べてみたい。 [目次] ────────────────────────────── ■NYダウも日経平均も反発力が弱まった ■貯蓄から投資へ「1億総株主」になれ ■メディア、専門家には大局観がない ■株価は経済成長と連動して上がる ■経済成長だけでは説明がつかない株価上昇 ■株価を決めるのは「ワールドダラー」 ■第2次大戦直後の最悪期より悪い ■今後年間2兆ドルが市場から消える ■「1億総株主」は「1億総玉砕」ではないか ────────────────────────────────── ■NYダウも日経平均も反発力が弱まった 今年になってから、株式市場は日々乱高下を続けながら、ずっとダウントレンドである。それが、顕著になったのが、5月13日から5月20日までの1週間だ。 この1週間で、NYダウは2.90%下落し、なんと「8週連続続落」という、大恐慌時の1932年以来90年ぶりという記録をつくってしまった。 NYダウの年初からここまで(5月末)の下落率は、14.0%。ナスダック総合指数は27.4%である。これまでは下落してもすぐ反発してきたが、反発力はじょじょに弱まり、下落幅を超えて反発することはなくなってしまった。 そんなNY株に比べ、日本株はそこまで下落はしていない。これまでNYダウと連動してきた日経平均は、連動して下落することが少なくなり、チグハグな動きを見せるようになった。 とはいえ、昨年9月のピーク時に比べると、約3000円は下落している。 ■貯蓄から投資へ「1億総株主」になれ 株式市場がこんな状態なのに、5月30日、自民党の経済成長戦略本部は、なんと「1億総株主」という提言を政府に申し入れ、岸田文雄首相はこれを受け入れた。 「新しい資本主義」「新・所得倍増プラン」政策の目玉に据えたのだ。 日本の家計は、欧米に比べて預金の割合が異常に高い。これを投資に向かわせようというのだ。岸田首相は、国会でこう言った。 「これまで眠り続けてきた1000兆円単位の預貯金を叩き起こし、市場を活性化するための仕事をしてもらいます」 「貯蓄から投資への流れを促進するため、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)を拡充していきます」 これを受けて、さっそくテレビでは、NISA、iDeCoの解説や、投資の仕方の解説が始まった。経済評論家やアナリストからママさん投資家まで、専門家が続々登場し始めた。 しかし、30年にわたって経済低迷を続け、給料が上がらない国で、これはない。もう国には打つ手はない。あとは、個人で勝手に投資で稼ぎ、「所得倍増」をしてくれというのだ。 投資をするかどうかなど、個人の自由である。それを首相自らが勧め、貯蓄を止めて「株主になれ」などという国がどこにあるだろうか。 ■メディア、専門家には大局観がない それにしても、株価が低迷している原因を、ズバリ指摘しないメディアや一部評論家にはあきれる。メディアは、株価の上下を、毎度、ウクライナ戦争、経済制裁、インフレの状況、企業業績、雇用情勢など、日々の事象で解説している。 さらに、「株というのは上がるときもあれば下がるときもあります」などと真顔で言う専門家(?)がいるので、開いた口が塞がらない。 これでは、なんの解説にもなっていない。 「株で利益を上げるには安いときに買って、高くなってから売る、これが原則です」 「株に投資するときに判断する方法としては、2つのやり方があります。1つは株価の動向(チャート)から判断する『テクニカル分析』。もう1つ は企業価値から判断する『ファンダメンタルズ分析』です」 「なにに投資するかですが、個別銘柄を選ぶのはリスクが高いので、市場全体に投資するのがいいでしょう。日経平均やTOPIX等の上場市場全体を対象とした指数(インデックス)に連動するETF(上場投資信託)がお勧めです」 こうした解説をテレビでいくら聞いても、株主になって、所得を倍増させることなどできないだろう。もっとも肝心な、大局観が抜け落ちているからだ。 ■株価は経済成長と連動して上がる 株価を動かす最大の要因は、経済成長である。株価は経済成長と連動して上がる。1531年にベルギーのアントワープに世界初の証券取引所が設立されて以来、幾多の変動はあったが、この連動は続いている。 とくに19世紀末から今日まで、世界全体の経済成長が著しかったので、株価も連動して上がった。 ちなみに、経済成長の背景には人口増がある。1990年に16〜17億人だった世界人口は2020年には約78億人に達した。この人口増による経済成長をエンジンとして、株価は今日まで上がり続けてきた。 ここ30年を見ても、NYダウは1990年代前半に3000ドルほどだったものが、いまはその10倍以上、3万ドル台に達している。この間、アメリカ経済は、グローバル化、IT化で年々成長を遂げてきた。新興国の経済も急成長した。 しかし、日本経済だけは「失われた30年」を続けたため、株価は上がらなかった。つまり、日本の株価もまた経済“低迷”と連動していたのだ。 ちなみに、世界人口は2050年に97億人に達し、その後、増加率は落ち、22世紀前にはピークアウトすると推計されているので、そこで世界の経済成長は止まる。つまり、半世紀先は株価が上がらない世界がやってくる。これが、大局的な見方だ。 ■経済成長だけでは説明がつかない株価上昇 ただし、現在は、経済成長以外に株価を上げている大きな要因がある。じつは、これから投資を始めるとしたら、こちらのほうがはるかに大事だ。 1990年、アメリカのGDPは約6兆ドルだった。それが、2021年は約23兆ドルに増えた。つまり、GDPは30年間で約4倍になった。しかし、前記したようにNYダウはなんと10倍以上になっている。なぜ、株価の上昇率は経済成長率をはるかに上回っているのだろうか? 日本株を見てみよう。日本のGDPは1990年、約462兆円だった。2021年は542兆円である。つまり、30年間で1.17倍にしかなっていない。したがって、株価がバブル崩壊以来低迷を続けたのは当然と言える。 しかし、ここ10年はどうだろうか。アベノミクスが始まった2013年、株価は1万円ほどに過ぎなかった。それが、昨年秋には一時的とはいえ3万円台をクリアした。経済はまったく成長していないのに、株価は上昇を続けたのだ。 この理由は、あまりにも単純だ。日米ともに大規模な金融緩和により、市場にマネーが増えたからである。中央銀行が市場に大量のマネーを供給した。その結果、マネーが株式市場に大量に流れ込んだからだ。 ただし、日本の場合は、日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的資金が株を買い続けたことも、大きな要因である。 ■株価を決めるのは「ワールドダラー」 ここ30年、世界の通貨供給量(流通する現金と預貯金などを足したもの)は、実体経済の規模を上回るペースで膨らんできた。 ここ2年余りはコロナ禍による大規模財政支援が加わったため、約100兆ドル(約1.3京円)に達したという推計がある。 これは。 世界のGDP総額よりも20%近く多い。 「ワールドダラー」という指標がある。「これは、米国の中央銀行に相当するFRB(連邦準備理事会)のマネタリーベースと、各国の中央銀行が外貨準備として保有する米ドルを合算したものである」と、日経新聞の解説欄で解説されている 。 このワールドダラーは、1990年には約4000億ドルだった。その後、世界経済の成長とともに伸びて、リーマンショック直前の2008年には約5倍の2兆ドルに達した。 ところが、ここから膨張ペースが加速する。リーマンショック後、FRBをはじめとする各国の中央銀行がいっせいに量的緩和(QE:Quantitative Easing)を始めたからだ。これにより、2020年には9兆ドルに達した。さらに、ここにコロナ禍による財政支援が加わったので、現在は10兆ドルを超えていると思われる。 このワールドダラーの動きは、間違いなくNYダウと連動している。NYダウは、実体経済以上に、ドルの総量が増えたから値上がりを続けてきたのだ。 ■第2次大戦直後の最悪期より悪い IMF(国際通貨基金)によると、コロナ禍のための世界の財政支援の総額は、2020年からの2年間で20兆ドルを超えている。その結果、先進国の政府債務残高のGDP比は2021年には120%を大きく超え、これは第2次大戦直後の1946年の124%と同レベルだという。 アメリカの状況は世界全体よりも悪い。連邦政府の債務残高のGDP比は130%を超え、第2次大戦直後の最悪期の119%を超えている。ドルの供給量(マネーストック=M2)は、過去10年間の平均量を5兆ドル近く上回り、アメリカのGDP総額の20%を超えた。 このドルの過剰が、NYダウをはじめとする金融資産のほぼすべてを値上がりさせてきたのである。 アメリカ人は日本人のように預貯金をしない。その結果、マネーは市場を駆け回り、資産価格の上昇、物価の上昇を招いた。ただし、現在の過激なインフレは、コロナ禍とウクライナ戦争による供給不足に大きく起因している。 したがって、各国の中央銀行は、いっせいに金利を上げ、金融政策を量的緩和から量的引き締め(QT:Quantitative Tightening)に転換した。 ■今後年間2兆ドルが市場から消える QTでは、保有する債券の売却や、満期を迎えた債券を再投資しないなどして、市場に供給したマネーを吸収する。 FRBはすでにQTを始めているが、今月からは、月475億ドルを上限に、償還を迎えた国債などの再投資をやめることを始めている。そうして、9月には、その上限を月950億ドルに拡大する。 これにより、資産圧縮額は、年間で約1.1兆ドルとなるという。 すでに、イングランド銀行もカナダ中央銀行もQTを始めている。ECB(欧州中央銀行)も7~9月期の早い時期に資産の買い入れを終了し、QTに転換するとしている。 これらにより、全世界における資産圧縮額は約2兆ドルになると、アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」は、試算を公表している。 2兆ドルが市場から消えれば、株価がどうなるか説明するまでもないと思う。 ところが、主要な中央銀行のなかでただ1行、日銀だけが、まだ量的緩和を続けている。相変わらず、日銀はETFを大量に買い入れている。 これで、日本円とドルとの金利差が拡大し、円安が止まらなくなっている。 ■「1億総株主」は「1億総玉砕」ではないか そんなか、岸田政権が進めようとしているのが、「貯蓄から投資」だ。インフレが高じれば、マネーの価値は下落する。よって、預貯金はどんどん目減りするので、価値が下落しないなんらかの資産に投資しないと生活は苦しくなる。 しかし、その投資先が株式中心でいいはずがない。 ネットでは、「1億総株主」に対して批判の声が数多く上がっている。 「なにー! 1億総株主と来たか!」 「首相は庶民生活をわかっていない」 「1億総株主…そう言うなら投資費用くれ!」 「なんで国に金の使い道を指図されるんだ」 こうした声の極め付けは、「1億総投資でなく、1億総玉砕の間違いではないのか」というものだ。 いくら、投資はギャンブルではないとはいえ、現状では、その可能性はある。 (*この続きは、明日、配信します) 【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、以下の私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com ────────────────────────────────── 山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。 http://foomii.com/00065 有料メルマガの購読、課金に関するお問い合わせは、info@foomii.comまでお願いいたします。(その他のアドレスですと、お返事できない事がございます。御了承下さい) 配信中止、メールアドレスの変更はfoomiiのマイページから変更できます。 ログイン時に登録したID(メールアドレス)とパスワードが必要になります。 https://foomii.com/mypage/ ────────────────────────────────── ※このメールはご自身限りでご利用下さい。複製、転送等は禁止します。 ────────────────────────────────── ■著者:山田順(ジャーナリスト・作家) ■個人ウェブサイト:http://www.junpay.sakura.ne.jp/ ■Yahoo個人 山田順コラム:https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadajun/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━