━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 No.000 2021/01/18 コロナ禍で深刻化するジェンダーギャップ 世界で最後の「女性差別大国」になるのか? ウェブで読む:https://foomii.com/00065/2022011809000089868 EPUBダウンロード:https://foomii.com/00065-90025.epub ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 世界を見渡して、日本ほど女性を差別・蔑視している国はないと言える。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ指数」で世界156カ国中120位というのに、政治はこの問題を改善しようともしていない。 コロナ禍により、この問題はますます深刻化しているが、政治もメディアも無視し続けている。人口減とともに、女性差別は、現在の日本が抱える最大の問題だ。これが、解決されないかぎり、日本の未来はない。 [目次] ────────────────────────────── ■表面的な取り繕いに過ぎない女性登用 ■「コロナ不況」を「シーリセッション」と! ■コロナ禍で追い詰められたシングルマザー ■テレワークができるのは男性正社員だけ ■イケアのCMが「役割固定」として炎上 ■日本の男性のほとんどは家事をしない ■じつは家庭に収まりたい女性たち ■専業主婦になれる割合はたったの2% ■いくら働いても賃金は男性の8割以下 ■どこに行ってしまった「女性の輝く社会」 ■若い男性は男女平等など望んでいない ────────────────────────────────── ■表面的な取り繕いに過ぎない女性登用 昨年の自民党の総裁戦では、4人の候補者のうち2人が女性。高市早苗氏と野田聖子氏が立候補したので、自民党も変わると思えた。同じく、最大野党・立憲民主党でも党首選で西村智奈美氏が立候補し、その後、幹事長になった。 また、連合では芳野友子氏が女性で初めて会長に就任し、「ガラスの天井」は打ち破られたと報道された。 しかし、これら一連の出来事は、単なる世の中の流れに迎合しただけの話で、本当の意味での女性差別・蔑視が改善されたことを示していない。 東京五輪の組織委の森喜朗前会長が、不適切発言で辞任したことを忘れてはいけない。 「女性理事を選ぶってのは、文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」という発言の根底には、日本社会が抱えている本質的な問題が隠されている。 これにフタをしたままでは、問題は改善されない。 森前会長の辞任後、「それなら会長を女性にすれば問題ないだろう」として、元五輪選手の橋本聖子五輪相(当時)が後任に指名されたが、これと同じことが、自民や立民の総裁選で繰り返されたにすぎない。 つまり、表面的な取り繕い、ゴマカシであって、日本社会が抱える「女性差別・蔑視」はなにも変わっていないのだ。 ■「コロナ不況」を「シーリセッション」と! もう2年も続く「コロナ禍」で、女性差別・蔑視問題は忘れられようとしている。しかし、じつはコロナ禍の影響をもっとも受けたのが女性たちだ。 2021年6月、政府は2021年版の「男女共同参画白書」を公表したが、このなかで、この事実を指摘している。 2020年4月、日本も遅ればせながら緊急事態宣言が発令された。以後、就業者数は男女ともに大幅に減ったが、その数は、男性39万人に対し女性は70万人。圧倒的に女性のほうが多いのである。 非正規労働者が多い女性就業者は、2020年3月以降、13カ月連続で減少。勤務先の休業、雇い止めなどで、とくにシングルマザーの生活が苦しくなったと、白書は指摘。シングルマザーの完全失業率は、配偶者のいる母親と比べて約10倍も悪化しているとした。 しかし、白書は問題を指摘するだけに止まって、具体的な改善策は提示していない。そればかりか、女性が「コロナ不況」の影響をモロに受けていることを、「シーセッション」(女性不況)と名付けたのである。これは、「女性」(シー)と「不況」(リセッション)を組み合わせた造語だが、あまりにも無神経ではないだろうか。 ■コロナ禍で追い詰められたシングルマザー 2020年の自殺統計(厚労省「自殺対策白書」)を見ると、働く女性の自殺者が、前年までの5年間(2015~2019年)の平均値と比べて約3割も増加している。年代別では29歳以下が6割増で、30~40歳代も約2割増えている。職業別では事務職や販売店員、医療・保健従事者の増加が目立っている。 日本は「ひとり親世帯」の貧困率が、欧米諸国に比べると極めて高い。OECDに加盟する主要35カ国の平均32.2%を上回り、48.1%にも達し、35カ国中ワースト2位である(令和3年版「男女共同参画白書」)。 このひとり親世帯の9割近くを占めるのが母子家庭、つまりシングルマザー世帯だ。シングルマザーの多くは正社員ではなく、パート、アルバイト、派遣社員など非正規労働者として働いていることが多いため、貧困率は高くなる。 しかも、日本は「同一労働同一賃金」が実現していないので、正規労働と非正規労働の賃金格差が大きい。この非正規労働の多くを担っているのが女性で、G7のなかで日本の非正規雇用率(有期雇用率)の男女差は突出しており、韓国よりもはるかに高い。 ちょっと古いが、「全国ひとり親世帯等調査」(厚労省2016年)によると、シングルマザーの平均年収は約200万円。日本の労働者全体の平均年収の半分以下である。この年収では、満足な子育てなどできるわけがない。日本の少子化が止まらないのも無理はない。コロナ禍により、シングルマザーたちは追い詰められ、一部が人生を悲観して自殺している構図が浮かび上がる。 ■テレワークができるのは男性正社員だけ コロナ禍でテレワークが一般化したが、それを利用できるのは男性正社員たちばかりで、非正規の女性社員たちは出社を余儀なくされている。 テレワークの話をするたびに、「できる人はいいわね」と言うパートや派遣の女性就業者の声を、何度聞かされただろうか。 エッセンシャルワークは、テレワークではできない。それを担っているのは、多くが女性たちで、それによって日本経済が支えられていることを、エコノミストたちは指摘しない。 いまだに、日本はジェンダーギャップが大きい「役割分担」社会である。官庁や企業には、「家計の担い手は男性正社員であり、非正規労働者の賃金は家計を補助する程度で十分」という認識が、根強く残っている。厚労省は「標準家庭モデル」を、いまもなお専業主婦がいる家庭にしている。 採用や昇進、退職勧奨などでの男女差別を禁じる男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから、すでに35年がたった。しかし、この法律はザル法で、企業に「努力義務」を課しただけにすぎない。誰も、男女を平等に働かそう、その待遇を同じにしようなどとは考えてこなかった。 いまだに、一部の大企業の人事担当者は、「新卒採用で女性より男性を優先して採る。女性は結婚すると退社してしまうから」と言う。これにはあきれる。いったい、どんな時代を生きているのだろうか。 ■イケアのCMが「役割固定」として炎上 昨年暮れ、イケア・ジャパンのCMが、SNSで炎上した。一見したところ問題などないと思えたが、フェミニストは見逃さなかった。 CMでは、ある家庭内での光景が描かれていたが、その場面は、まず床に散乱した飲み物などが描かれた後、男性や子供がソファに座っているなかで、母親と思われる女性がポップコーンなどを運ぶという設定だった。 問題は、母親が最後まで座らないで、夫に対してかいがいしく振舞っていたことだ。 これに対して、「女性は召使いじゃない」「ジェンダーギャップを感じる」といった声が起こったのだ。いわゆる性による不平等CMと捉えられたのである。 私も見たが、このCMがネットで炎上するまでは、それほど気にもとめなかった。ステレオタイプすぎると思っただけだ。 しかし、このCMが日本だけであり、制作に当たっては日本法人が直接行ったことを思うと、やはり、日本社会にはジェンダーギャップに対する問題意識が薄いと思うようになった。これはやはりアウトだと思った。 ■日本の男性のほとんどは家事をしない 統計資料を見れば、日本の性別役割分担意識は、欧州諸国と比べるとはるかに強い。男性のすること、女性のすることをはっきり分けて考えている人間が多い。 内閣府が2020~2021年に実施した「少子化社会に関する国際意識調査」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に「反対」する日本人の割合は56.9%だった(「どちらかといえば反対」を含む)。つまり、日本人の半数以上が、役割分担に対しては否定的だ。 しかし、56.9%というのは、じつは低すぎるのである。なぜなら、ドイツは63.5%、フランスは75.7%、スウェーデンにいたっては95.3%だからだ。 また、別の調査によると、意識はあっても行動としては、日本男性は家事をほとんどしないという結果が出ている。家事は夫婦共同で行うものとしながら、実際はほとんど家事をしていないというのだ。 最近は、「イクメン」などという言葉が広く使われるようになったが、育児にいたっては、1割もしていないという。 ■じつは家庭に収まりたい女性たち このような「男が先で女が後」(男性優位社会)をつくっているのは、男性ばかりが悪いのではない。女性にも、それでいいとする考え、願望があるからだ。 やや古い統計だが、内閣府が2014~2015年に実施した「結婚・家族形成に関する意識調査」では、結婚を望む20~30代の未婚者に「結婚相手に求める条件」を聞いている。それによると、結婚相手に「経済力があること」を挙げた男性が7.5%にとどまったのに対して、女性は52.5%にも上っている。 つまり、女性は男性に、なによりも経済力(食べさせてくれること)を求めているのだ。この調査では、結婚後に「夫が家計の担い手になる」のが理想と答えた20~30代の女性の割合は、未婚・既婚を合わせて68.4%に達している(「どちらかというと夫が担い手になる」を含む)。 この調査からわかるのは、日本女性が、経済的的自立を望んではいないことだ。経済的な自立よりも、家庭に入って暮らしたいのである。この意識の延長は、子育てにも現れている。 内閣府が2020~2021年に行った子供を持つ女性に対する調査で、自分自身の育児負担を減らすために民間のベビーシッターや家事支援サービスを利用することへの意識を聞いたところ、62.9%が「抵抗あり」としたのだ(「抵抗が大いにある」「抵抗が少しある」の合計)。これは、スウェーデンの43.3%、ドイツの33.2%、フランスの26.0%を大きく上回っている。 つまり、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という価値観を、いまだに持っていると言える。男女とも、まだこの価値観のなかにいるのが、日本社会と言えるだろう。 しかし、それは、女性にとって最悪の結果、残酷な結果をもたらす。 ■専業主婦になれる割合はたったの2% 日本女性の半数以上は、経済的的自立を望んではいない。となれば、男女同権社会の実現などほど遠い。 しかし、日本の現実は、女性にそんな願望を抱かせないところまできている。日本社会は、もはやそんな豊かな社会ではない。女性が夫の収入だけで暮らしていける社会ではなくなっている。 ここ半世紀、女性を取り巻く状況は大きく変わった。1970年と現在を比べてみると、女性の平均寿命は74.66歳から87.45歳へと、なんと10歳以上も伸びた。その一方で、女性の平均初婚年齢は24.2歳から29.4歳と5歳以上上昇し、平均第1子出生年齢は25.6歳から30.7歳と、こちらも5歳以上上昇した。 そうしたなか、日本はバブル経済時の「1億総中流社会」をピークとして、四半世紀にわたって経済衰退を続けてきた。この間、たしかに日本女性の社会進出は進んだが、それは女性が望んだのではなく、そうしなければ生きていけなくなったからだ。そのため、専業主婦は激減した。 専業主婦になるためには、夫は高収入でなければならない。では、その収入はどれくらい必要だろうか? ネットで検索すると、その最低条件は「30歳時点で年収700万円(夫婦2人だけなら500万円)、退職金2000万円、30歳時の貯蓄額300万円」と出てくる。 そこで、この条件に合う男性がどれほどいるかというと、30歳男性の2%ほどにすぎない。つまり、この2%の男性と結婚しなければ、その時点で専業主婦にはなれないのだ。 ■いくら働いても賃金は男性の8割以下 日本の女性差別・蔑視の最大の問題は、男性との賃金格差が大きすぎることだ。政府は、1月14日、この問題を追及した日本共産党の山添拓参院議員に対し、詳しいデータを提示した。 それによると、勤続年数別では、勤続「1~2年」で男性の84.2%だった女性の賃金水準が、年数を経るごとに低下し、勤続「10~14年」では77.4%落ち込み、以降も7割台にとどまっている。 また、役職別では、「係長」で88.4%、「課長」で88.8%、「部長」では86.5%と差が開く。管理職の女性比率は課長級で12.1%、部長級で9.1%と、登用される女性が圧倒的に少ないなかで、役職に就いてもなお格差があり、昇格するほど格差が広がっていた。 ただ、これは主に正規労働の話であり、非正規労働にいたっては、女性はほとんど使い捨ての低賃金ワーカーとして扱われ、賃金は男性の6割程度にとどまっている。 ■どこに行ってしまった「女性の輝く社会」 国際労働機関(ILO)によると、日本の女性管理職の比率は11.1%で、調査した108カ国中96位。内閣府によると、研究者に占める女性の比率は16.9%で欧州・米州・アジアの主要39カ国のなかで最下位。列国議会同盟(IPU)によると日本の女性国会議員の比率は9.9%で、188カ国中165位となっている。 こうしたことから、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」(2021年版)での日本の順位は、156カ国中120位。アジア諸国のなかではフィリピンが17位だから、もはや絶望的に低い順位である。 かつて安倍晋三内閣は、「女性が輝く社会」というスローガンを掲げた。「すべての女性が輝く社会づくり」を進めると宣言した。そうして、政策の目玉として挙げられたのは、「2020年までに官民の指導的地位に女性が占める割合を30%程度とする」ということだった。 しかし、この目標はいつのまにかうやむやにされ、現在の岸田文雄内閣は、ジェンダーギャップの改善に対してなんの政策も示していない。 ■若い男性は男女平等など望んでいない 昨年の11月、電通の社内シンクタンク「電通総研」が公表した「男らしさに関する意識調査」は、衝撃的である。 なぜなら、若い男性ほど「女性活躍推進に反対」「フェミニズムが嫌い」という傾向が明らかになったからだ。男性3000人を対象に行った調査では、18~30歳の男性の4割以上が「フェミニストが嫌い」と答えたという。 具体的には、女性に対する考え方を4段階で尋ねたところ、「フェミニストが嫌いだ」について「とてもそう思う」「そう思う」を選んだ18~30歳は約43%。31~50歳が約39%、51~70歳が約32%と、若い世代ほど高かった。また、「女性活躍を推進するような施策を支持する」は18~30歳が約63%、31~50歳約62%に対し、51~70歳が約79%で、中高年が若い世代を大きく上回った。 つまり、若い男性ほど女性差別・蔑視する傾向が強かったのだ。 さらに、「男の子が料理や裁縫、掃除、子守の仕方を教わるのは、よいことではない」との設問に「そう思う」と答えたのが18~30歳で24%、31~50歳で16%、51~70歳で11%。「男性は家事をしなくてもいい」に「そう思う」と答えたのが18~30歳で16%、31~50歳で11%、51~70歳で9%となっていた。この数字には、目を疑った。 しかし、もっとも衝撃的だったのは、回答者男性の約半数が、「最近は男性の方が女性よりも生きづらい」と回答したことだ。 いったい、日本社会はどうなっているのだろうか? 女性が生きづらいうえ、男性も生きづらい。本来なら、男女が協力して、新しい社会、幸せになれる社会をつくっていくべきなのに、まったくそうなっていない。このままいくと、日本は世界で最後に残る「女性差別大国」になるのは間違いないだろう。 【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、以下の私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com ────────────────────────────────── 山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。 http://foomii.com/00065 有料メルマガの購読、課金に関するお問い合わせは、info@foomii.comまでお願いいたします。(その他のアドレスですと、お返事できない事がございます。御了承下さい) 配信中止、メールアドレスの変更はfoomiiのマイページから変更できます。 ログイン時に登録したID(メールアドレス)とパスワードが必要になります。 https://foomii.com/mypage/ ────────────────────────────────── ※このメールはご自身限りでご利用下さい。複製、転送等は禁止します。 ────────────────────────────────── ■著者:山田順(ジャーナリスト・作家) ■個人ウェブサイト:http://www.junpay.sakura.ne.jp/ ■Yahoo個人 山田順コラム:https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadajun/ 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