━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 No.557 2021/06/30 コロナワクチン誕生秘話(2) なぜ日本はワクチン開発ができなかったのか? ウェブで読む:https://foomii.com/00065/2021063009000081866 EPUBダウンロード:https://foomii.com/00065-82101.epub ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 昨日の配信記事で述べたように、ファイザーとモデルナの「mRNA」ワクチンは、ハンガリー人の女性科学者カタリン・カリコ博士の長年にわたる研究がベースになっている。これを、医療ベンチャーのビオンテックとモデルナが促進させて実用化し、アメリカ政府は安全保障の面から最大限のサポートをした。 それを思うと、なぜ日本がワクチン開発をできなかったのか? あらためて検証しないわけにはいかない。 日本は、遺伝子研究の医療分野への適用で大きく立ち遅れ、政府には安全保障を考えた戦略的な思考がまったくなかった。 [目次] ────────────────────────────── ■日本製ワクチン誕生に沸き立つメディア ■欧米ワクチンを超えるものができるのか? ■日本のワクチン開発の「お寒い」現状 ■「ワープスピード」作戦でモデルナに補助金 ■アメリカは常に先行投資を惜しまない ■ワクチン確保のためになにをしたか? ■ワクチンが3つある中国をバカにできない ■さらに強力なウイルスが出現したらどうする? ────────────────────────────────── ■日本製ワクチン誕生に沸き立つメディア 6月 28日、塩野義製薬は、開発中の新型コロナウイルスワクチンについて、年末までに最大6000万人分の生産体制が整うとの見通しを明らかにした。これまでは、3000万人分を目指してきたが、治験の過程で、1人当たりの投与量を抑えて倍の人数に接種できる可能性が出てきたので、可能になったというのだ。 この発表を、多くのメディアは「朗報」として報道した。いよいよ、待ちに待った日本のワクチンができる。これを朗報と言わずとしてなにを朗報というのだといった感じである。 しかし、私は、いまさら日本のワクチンができたとしても、それを接種する気はない。なぜなら、日本製がすぐれているというのは、もはや過去の神話にすぎないからだ。 日本の遺伝子研究の医療分野への適用は、決定的に遅れている。世界では遺伝子治療薬が次々と開発されているのに、日本ではほとんど開発されていない。こんな状況で、日本がファイザー・ビオンテックやモデルナに匹敵するワクチンがつくれるとはとても思えないからだ。 ■欧米ワクチンを超えるものができるのか? 塩野義製薬が、現在、開発・治験中のワクチンは、開発研究の共同相手が旧体質の国立感染症研究所であり、ワクチンも旧来型の「遺伝子組換えタンパクワクチン」である。 遺伝子組換えタンパクワクチンというのは、新型コロナウイルスの遺伝子の一部を組み込んだ「パキュロウイルス」(ヒトに感染しないウイルス)に昆虫の細胞を感染させて、コロナウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」をつくり、それをワクチンとして投与するもの。スパイクたんぱく質が、体内の免疫作用を促進する「抗原」(antigen)となって、「抗体」(antibody)がつくられるという仕組みだ。… … …(記事全文5,443文字)