━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 No.048 2013/08/06 「円安で景気回復」と「今後給料が上がる」は美しい誤解にすぎない ウェブで読む:http://foomii.com/00065/2013080609000016722 EPUBダウンロード:http://foomii.com/00065-17393.epub ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 政府も首相ももうすぐ夏休み。しかし、日本経済に夏休みはありません。そこで あと3年選挙はないと言われるいまこそ、私たちは、アベノミクスの先にある未来を、改めて考えるときに来ています。 ここでのポイントは2つ。「円安で景気が回復する」と「今後給料が上がる」かどうかということでしょう。これが起こればアベノミクスは成功なのでしょうが、本当にそんなことが起こるのでしょうか? [目次]────────────────────────────────── ■円安効果でインフレから景気回復へ? ■円安にはメリットとデメリットの両面がある ■まだ円安の効果は現れていない ■日本の輸出依存度は14%と低い ■円安によるメリットよりデメリットのほうが大きい ■日本は貿易立国でも輸出依存国でもない ■給与所得者の平均給与は1997年から減少中 ■給与減少の原因はデフレでなくフラット化 ■サラリーマン社会、終身雇用、年功序列は崩壊 ■なぜ労働生産性とROEが低いのか? ────────────────────────────────────── ■円安効果でインフレから景気回復へ? ではまず、「円安で景気が回復する」は本当かどうかを検証してみよう。 その前に、私事で恐縮だが、私の家内も娘も、そして友人たちも、「円安になって海外旅行の費用が上がった」と、今年の夏は不満タラタラだ。この先、円安がさらに進めば、少なくとも海外旅行はいままでよりも減るだろう。 さて、安倍政権は「円安・株高」をアベノミクスの効果としてきた。今後、これにより、日本の景気は回復し、デフレがインフレに変わり、その後、給料が上がるとしている。 実際,7月26日に日銀は、6月全国消費者物価指数(生鮮食品除く、コア)が1年2カ月ぶりに前年比プラスに転換し、期待インフレ率が上がり始め、物価上昇の勢いが継続する兆しが見え始めたと発表した。 また、7月23日に公表された平成25年度の経済財政白書と7月の月例経済報告はともに、アベノミクスの効果を強調し、今年に入ってから景気が回復しつつあるとしていた。 となると、今後は、本当に景気が回復していくのだろうか? やはり、日本経済には、円安がプラスということなのだろうか? ■円安にはメリットとデメリットの両面がある じつは、円安効果といっても、それはものごとの一面にすぎない。円安にはメリットもあるしデメリットもあるからだ。だから、メリットがデメリットを上回る場合のみ、円安は景気回復に効果を発揮する。 ところが、日本のメディアはなぜか「円安のほうが円高よりいい」と一方的に思い込んでいる。 それで、私は知り合いの大手紙の若手経済記者に、「なんでそんな偏った見方で記事を書くのか?」と聞いたところ、こんな答が返ってきた。 「円安で業績が回復したという記事のほうが、円安で物価が上がって生活が苦しくなったという記事より、上に喜ばれるんですね。それだけです」 じつはこの答は予想どおりだった。私の経験上、日本のメディアは時々の社会のムードで記事ネタを取捨選択しているからだ。 では、円安のメリットとデメリットを検証してみよう。 円安になると、海外で日本の製品は安くなる。これまで1ドルが80円だったとき、海外で1ドルで売ったものは80円しか入ってこなかったが、1ドルが100円になれば、100円入ってくるのだから、輸出企業はこの為替差益だけで儲かることになる。円安が進むと、日本製品は海外で安く買える状態となり、結果的に日本からの輸出量が増す。したがって、輸出企業とその周辺の国内企業は潤うことになる。これがメリットだ。 しかし、日本は資源がない国である。モノをつくるために必要な石油などのエネルギー、金属などの原材料などは、円安で逆に値上がりしてしまう。また、日本は食料自給率が低く、食料を大量に輸入しているため、食料品の値段は上がる。これがデメリットである。 ■まだ円安の効果は現れていない では、メリットとデメリットを天秤にかけるとどうなるだろうか?… … …(記事全文6,907文字)