━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 No.047 2013/07/30 あなたの街は大丈夫? デトロイトと同じ自治体破産はあるのか? ウェブで読む:http://foomii.com/00065/2013073009000016672 EPUBダウンロード:http://foomii.com/00065-17343.epub ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 選挙でねじれを解消した自民党政権下では、「選挙に勝ったのだから予算をよこせ」という声が強まり、今後は国土強靭化政策が加速するでしょう。となると、またもやいらない公共工事が繰り返され、国や地方の借金は膨らむ一方となります。 そこで、思うのが、先日のデトロイト市の破産。日本でも過去に夕張市が破産した例があります。今後、日本でも自治体の破産があるのでしょうか? 今回はこれを検証してみます。 [目次]─────────────────────────────────── ■エミネム主演映画『8 Mile』が描いたデトロイトの荒廃 ■人口180万人の大都市から100万人が消えた ■破産手続きの焦点は、公務員の年金給付カット ■ゴーストタウン化するのを救う必要があるのか? ■日本ではデトロイトのような自治体破綻は起こらない ■日本には貸し手の責任を問う自治体破産法がない ■あれから5年、夕張市はいまどうなっているのか? ■再建はうまくいかず、結局ゴーストタウンになる? ■国も地方も借金漬けでまるで悪夢を見ているよう ■「財政力指数」と「実質公債(負担)比率」をチェックせよ ────────────────────────────────────── ■エミネム主演映画『8 Mile』が描いたデトロイトの荒廃 7月18日、デトロイト市は連邦破産法第9条の適用を申請した。アメリカの自治体の破綻としては過去最大で、その負債は180億ドル(約1兆8000億円)という。 このニュースに、日本のワイドショーの司会者やコメンテーターは驚いていたが、私はその驚きぶりのほうに、もっと驚いてしまった。というのは、アメリカでは、もう何年も前からデトロイトが再建不可能なのは周知の事実だったからだ。 今回の破綻で思い出すのは、エミネム主演の映画『8 Mile』(2002年封切り)である。エミネムはデトロイト出身の白人ラッパーで、『8 Mile』というタイトルは、デトロイト市の中心部と郊外を分ける道路“エイトマイル•ロード”から取ったものだ。 この映画つくられる前から、デトロイトは、自動車産業の没落とともに貧困化が進み、麻薬が蔓延する貧困シティと化していた。それを象徴するのが“エイトマイル•ロード”である。この道路を挟んで、デトロイトは、中産階級の白人が多く住む郊外と貧困層が多数を占める都心部に分断されていた。 『8 Mile』の主人公ジミー(つまりエミネム)は、この貧困地区で無職の母と幼い妹の3人でトレイラー・ハウスに暮らしていた。そうした境遇の中から、彼は全米一のラッパーになったのである。 だから、映画ではデトロイトの荒廃した様子が、これでもかこれでもかと描かれていた。 ■人口180万人の大都市から100万人が消えた 全米で最も荒廃した都市デトロイト。それは、アメリカ人なら誰もが知っていることで、いつ破綻するかは時間の問題だったのである。 デトロイトは1950年には人口180万人を擁する大工業都市だった。GM、フォード、クライスラーのビッグ3は、みなデトロイトを拠点としていた。しかし、このビッグ3は、日本車の興隆で軒並み窮地に追い込まれ、GMは破綻してしまった。 自動車産業の没落とともに市街地の人口流出は深刻化し、現在の人口は71万人。60年間で人口が100万人以上も減少したことになる。アメリカの大都市は、デトロイトに限らず、たとえば、ロサンゼルス、ピッツバーグ、フィラデルフィアなどで、80年代からドーナツ現象という都心空洞化に襲われている。 これは荒廃した都心部から、白人の中流層が郊外に出て行ってしまうという現象で、都心部には黒人を中心とした貧困層が取り残され、その結果、街はさらに荒廃し、一部は無法地帯と化す。デトロイトの中心部では放火事件や暴力事件が絶えず、いまでも街の街灯の半分は電気が灯っていないという。 ■破産手続きの焦点は、公務員の年金給付カット では、今後デトロイトはどうなるのだろうか? 今回の破綻の最大の問題点は、デトロイトには債権者に与えられる資産がほとんどないということ。さらに、公務員でつくる年金基金がどこまで年金カットを受け入れるかということだという。 破産申請から1週間後の24日、連邦破産裁判所は連邦破産法第9条の適用を認めるかどうかの審理を始めた。米メディアが伝えるところでは、最終判断は10月中旬になるという。が、この審理に先立って、年金基金は、財政破綻に伴う年金給付の削減はミシガン州法に違反するとゴネ出した。つまり、デトロイトの破産手続きの焦点は、公務員の年金給付に切り込めるかどうかである。 GM破綻のときは、年金債務や医療費負担が一掃された。だから、GMはV字回復に成功した。しかし、今回は自治体であり、公務員は雇用契約どおりに年金や医療費を受給する権利が法律で手厚く保護されている。… … …(記事全文7,601文字)