━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 No.046 2013/07/23 コンピュータと人間のどちらが大事?機械に敗れた人間に未来はあるのか? ウェブで読む:http://foomii.com/00065/2013072309000016528 EPUBダウンロード:http://foomii.com/00065-17199.epub ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回のテーマは、いったん書こうと思ったものの、今日までそのままにしてきたものです。しかし、最近の日本の論調を見ていると、やはり書かざるをえないと思うにいたりました。というのは、今後しばらく、私たちの社会はいくら景気が回復し、経済成長しようと、雇用は増えないと考えられるからです。もちろん、給料も上がりません。 20世紀の先進国経済は、雇用が安定した幅広い中流層によって支えられてきました。しかし、今後、中流層はますます崩壊し、格差が開いた2極化した社会が進んでいきます。 なぜでしょうか? それは、機械が人間の雇用を奪ったからです。 [目次]─────────────────────────────────── ■ブラック企業をなくすため規制を強化しても無駄 ■マサチューセッツ工科大学の2人の教授が書いた本 ■「ジョブレス・リカバリー」はなぜ起こったか? ■IT革命で便利になったが人間の価値は下がった ■失業は資本主義が成立時から持つ矛盾 ■機械導入で生産性を上げてもモノを買う人がいなくなる ■マルクスはなぜ「革命」と「社会主義」を説いたのか? ■21世紀、今度ばかりは資本主義は崩壊する ■ポール•クルーグマン教授の景気循環説を退ける ■所得格差が「勝ち組」と「負け組」をつくった ■機械と競争するのではなく機械と協調せよ ■じつはアメリカ人らしく未来を楽観している ■『機械との競争』から私たちはなにを学ぶべきか? ─────────────────────────────────────── ■ブラック企業をなくすため規制を強化しても無駄 アベノミクスの目的はただひとつ。景気を回復させ、日本経済を復活させること。そのため、異次元金融緩和により、マネーを大量に市場に供給し、そのマネーが企業の設備投資に回るとしている。企業が設備投資に積極的になれば、新しい雇用が生まれ、給料も上がるというのだ。しかし、そんなことが本当に起こるだろうか? 断言してもいいが、そんなことは先進国経済では起こらない。なぜなら、設備投資は行われても、企業は人間を雇わないし、給料も払わないからだ。 いま日本では、ブラック企業が盛んに告発されている。ブラック企業とは、社員を搾取する会社、つまり、奴隷労働を強いて人間扱いしない会社のことを指す。「ブラック企業大賞」というイベントもでき、この6月28日には、「第2回ブラック企業大賞2013」のノミネート企業8社が発表された。 その8社とは、ワタミ、東北大学、餃子の王将、東急ハンズ、西濃運輸、ステーキのくいしんぼ、ベネッセ、クロスカンパニー。これらの会社の社員は、過酷な労働から「過労死」の危機にあるとさえいう。 こんな状況だから、今回の参院選でも、ほとんどの政党が政策に「ブラック企業」対策を掲げた。ブラック企業と認定した会社は社名を公表し、取り締まっていくというのだ。つまり、労働者の基本的な権利を守らせるよう法の規制を強化するというのである。 しかし残念だが、そんなことをしても無駄だと、私は思う。 というのは、企業がブラック化する原因は、政治家が考えることは別のところにあるからだ。 ■マサチューセッツ工科大学の2人の教授が書いた本 昨年10月、私は『出版・新聞 絶望未来』(東洋経済新報社)という本を出し、その中に「デジタル化は不況を招く」という章を設けた。 その中で取り上げたのが、今回のテーマである「機械との競争」だ。 21世紀経済は、人間(ヒトの労働力)がいらない方向に進んでいる。このまま、デジタル化(コンピュータの進化)が進めば、どんどん人間はいらなくなる。つまり、現在、人間は機械(コンピュータ)との競争を強いられていて、これが続く限り、新しい雇用は生まれない。不況は深まるだけだということを述べた。 機械との競争――これを言い出したのは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のエリク・ブニョルフソン教授とアンドリュー・マカフィー教授だ。2人は、共著『Race Against The Machine』(2011)で、このことを詳細に述べている。コンピュータの進化のスピードは速すぎて、それに人間が追いつけなくなった。その結果、コンピュータは今後、人間しかできないと思われてきた領域にもどんどん侵食していき、人間はごく一部の知的エリートと、肉体的労働に2極化される。これが、この本のポイントである。 私はこの説に大いに共感し、いち早くこの問題を取り上げたのだ。 『Race Against The Machine』は、その後日本でも翻訳され、今年の2月になって、そのままずばり『機械との競争』というタイトルで日経BP社から発売された。しかし、私が思ったほどこの本は売れず、メディアでもあまり取り上げられなかった。 日本のメディアも政治家も、本質的な議論を避ける傾向にある。とくに政治家は、こうした21世紀経済の現実を知らず、大衆受けすることばかりに関心がある。 つまり、ブラック企業対策の強化とか、最低賃金を上げるなどということで、問題を解決しようとする。… … …(記事全文8,412文字)