━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順の「週刊:未来地図」 No.037 2013/05/21 「贅沢禁止令」で落ち込む中国経済。「ざまあみろ」と思っている場合か? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 中国経済の落ち込みが鮮明になってきました。空気と水の汚染に、鳥インフル、豚大量死などが続き、撤退する外資も多いようです。そこに、贅沢禁止令、相続税の導入と、北京の政権維持のための「民衆受け」政策が重なり、「中国経済は自壊する」という報告書も登場しています。 [目次] ────────────────────────────────── ■「もう上海では暮らせない」と帰国した知人 ■習近平・新政権が打ち出した「贅沢禁止令」 ■北京の高級レストランは閑古鳥が啼く状況 ■「発票(領収書)族」が支えてきた高級品市場 ■南京では式典、会議の自粛で花屋が潰れている ■庶民の不満をそらすために相続税の導入を検討中 ■相続税に反対する富裕層、国外脱出が加速化 ■「やがて中国は自壊する」という北京政府の内部文書 ────────────────────────────────────── ■「もう上海では暮らせない」と帰国した知人 最近、上海を引き払って帰国した知人が言う。 「いま上海では食べるものがない。鳥インフルエンザで鶏肉がダメ、豚の死骸が流れ着いたので、豚肉がダメ。当然だが、タマゴもダメだ。で、野菜はどうかというと、上海近郊の有機栽培野菜類まで汚染されているのがわかってからは、食べる気がしない。 魚なんか、君もよく知っている思うけど、近海のものは全部汚染魚ときている。なら、食べ物は全部輸入品だけにするしかないが、そんなことを続けていたら、家計がパンクしてしまうよ」 昔から私は、中国は住むところではないと思っていたが、ここまでひどくなるとは思わなかった。数年前までは、水と空気に注意し、食べ物も汚染していると思われるものは避ければよかった。また、ニセモノをつかまされないよう用心すればよかった。 しかしいまや、聞けば聞くほど、もうダメのようだ。 「外資系で残っているのは、カネが稼げんるんだから仕方がないといる人間ばかり。それでも、家族は国に帰しているね。カルフールに行っても、豚肉やタマゴは売れ残っていて、中国人ですら信用していないんだから、こっちはなにを買っていいんだかわからない。ついに、うちのカミサンは切れた」 と、知人はぼやく。 「上海の景気はよくない。習近平になってからは、がたがただ。とくに、贅沢禁止になったから、高級品は売れず、高級レストランは閑古鳥。潰れるところも出ている」 ■習近平・新政権が打ち出した「贅沢禁止令」 中国人は景気が悪いのを「不好」と言う。どうやら、本当に不景気になったようだ。それでも、今年の成長率は7.7パーセントなどと予測されているのだから、ある面、すごい国である。 このメルマガでも書いてきたが、中国経済はピークを過ぎたのは確実だ。ついこの間まで中国の発展を礼賛していた日本の経済評論家も、最近は軒並み論調を変え出した。しかし、中国が低迷してもっとも困るのは日本だ。 中国の不景気の始まりは、環境汚染、鳥インフルエンザ、豚肉汚染などにもあるが、最大の原因とされるのが、知人がぼやいた贅沢の禁止だ。これによって、消費が大きく落ち込んだ。 通称「贅沢禁止令」、「中国共産党中央八項規定、六項禁止」は、共産党の綱紀粛正策である。2012年11月に開催された共産党大会で、習近平が新総書記に就任した際に新指導部の初仕事として打ち出された。 「官費の節約」「官官接待と贈答行為の禁止」などが柱で、汚職の摘発をして、人民の不満のガス抜きをしようというものだ。胡錦濤政権誕生時にも綱紀粛正策が取られたが、今回はそれを大きく上回るスケールで実施されてきた。 ■北京の高級レストランは閑古鳥が啼く状況 中国では官官接待、民官接待、贈答、賄賂は当たり前だ。こうした消費市場は、おそらくGDOPの2割以上はあるだろう。共産党幹部、役人にモノを頼むには、すべて接待と贈答品がつきものだ。彼らの飲食から、乗り回す高級車、ガソリン代まで、本人が払うなどということは、ほぼありえない。 官といっても国営企業、人民解放軍も含まれている。 たとえば、北京の紫竹橋にある有名な高級レストラン「芙蓉庭」は、軍の幹部の直営店で、軍ナンバーの高級車で出入りする幹部でにぎわっていた。それが、贅沢禁止令以降、ぱったりなくなったという。 「目立つと逮捕されるからです。北京はいま軍関係者の汚職を厳しく追及しています。その象徴がすでに汚職で逮捕されている谷俊山中将。彼は死刑まであるとされ、軍関係者は戦々恐々なのです」(北京特派員) ■「発票(領収書)族」が支えてきた高級品市場 贅沢禁止令の効果が絶大だったのが、今年の春節(旧正月:今年は2月9~15日)。 この期間の外食ビジネスは大きく落ち込んだ。春節は、宴会の季節。連日、どんちゃん騒ぎが行われる。… … …(記事全文5,529文字)