━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順の「週刊:未来地図」 No.034 2013/04/30 アベノミクスが進展しているのに なぜ、富裕層は日本を脱出するのか? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ いまのところアベノミクスは効果を上げています。しかし、この先は飛躍的に財政破綻リスクが高まるのは間違いありません。 このカントリーリスクを回避するには、自分の人生設計、資産を、日本という国から切り離すしか方法がありません。それを富裕層は実行しているのです。 [目次]─────────────────────────────────── ■円安、株高になったいま、いまさら日本から出て行く理由はない? ■財政破綻すると言うと「オオカミ少年」扱いに ■財政破綻が起きれば、日本での人生設計は成り立たない ■国債と通貨(紙幣)は、両方ともただの「紙切れ」 ■「誰かの債務」(借り)は「誰かの債権」(貸し)になる ■デフレで金利が低く抑えられたから破綻が先送りに ■野放図な借金による放漫財政でなにが起きているのか? ■日本政府がやるべきことは財政支出を大きく削減すること ■「人は自分の信じたいことだけ信じる」 ────────────────────────────────────── ■円安、株高になったいま、いまさら日本から出て行く理由はない? 「なぜ、富裕層は日本を出て行くんですか?」と、最近、よく聞かれるようになった。経済誌、週刊誌の「富裕層特集」があると、決まって現場の記者の人たちから、この質問が飛び出してくる。さらに、「アベノミクスが始まって日本経済が復活すると言われています。円安になったうえ、株価も上がったのに、いまさら日本から出て行く理由はないと思うんですが」と、突っ込んでくる記者の人もいる。 で、私は「うーん、それはですね、アベノミクスで日本のカントリーリスクが逆に高まってしまったからですよ」と答える。 実際、最近プチ富裕層と言われる人たちの日本離れは加速している。本物の富裕層は すでに多くが資産を国外に出してしまったが、これに続くのがプチ富裕層だ。彼らが目指すのは、シンガポールやマレーシアなどの東南アジア地域である。もちろん、欧米を目指す人々もいる。 東京23区のなかでも富裕層比率が多いとされる港区、世田谷区などでは、以前から、こうした高額納税者の国外流出が問題になってきた。というのは、それによって税収が減ってしまうからだ。 実際、港区では、昨年、ある大金持ちが国外に出たため税収が数億円も減った。 ■財政破綻すると言うと「オオカミ少年」扱いに 「カントリーリスクというのは、やっぱり、今後予想される増税のことですか? 富裕層はそれが気に入らないのですか? とすると、同じように税金を払っている一般国民がいるのに、ずいぶん身勝手な話だと思うんですが?」 「カントリーリスクというのは増税もあるけど、やはり、最大のリスクは日本という国家が破綻するリスクですよ」 「ああ、また、その話ですか。財政破綻するかしないかは、いまや神学論争。どっちもどっちと思えて、どっちを信じていいのかわかりません。ただ、最近は、破綻派が“オオカミ少年”扱いされているようですけど」 「申し訳ない。これは論争というレベルの話ではない。極めて単純な財政の話だから、論争する意味なんてない。家庭も国家も借金を重ねればいずれ破綻する。それが、いつかになるかだけという話です」 「では、破綻するということですか?」 「いまのままでは、そうですね。アベノミクスはこの解決になっていないばかりか、破綻を早めるかもしれないのです。オオカミ少年の話しの結末は知っていますよね?」 ■財政破綻が起きれば、日本での人生設計は成り立たない 以上、ある記者とのやり取りを書いてみたが、ここで驚くのは、この記者が財政破綻を一つの論争と捉えていることだ。政治論争と同じような感覚、たとえば「憲法96条を改正すべきか否か」のように考えていることだ。 だから、どっちもどっちというとらえ方になる。これはとんでもない間違いだ。だから、富裕層やプチ富裕層、それに続く目覚めた若者たちが、なぜ、国外に出て行ってしまうのかがわからなくなる。彼らにとって財政破綻は近未来に考えられる最大のリスクで、その影響から少しでも逃れる。そうして、自分と自分の資産と、もっと大きく言えば「自由」を守りたいと考えているのだ。 もし、財政破綻が起きれば、日本国内に留まるという人生設計は成り立たない。また、起きないとしても、政府債務の大きさから、このまま日本は限りなく衰退していくだけなので、同じく人生設計は成り立たない。 ■国債と通貨(紙幣)は、両方ともただの「紙切れ」 現在、日本国家が財政でやっていることはペテンである。国債発行による借金で国を運営し、それで調達したお金をバラまいている。アベノミクスは、この規模をさらに大きくしただけだから、いずれ日本円(お金)の信用は崩れ、人々が「円」を持つのを恐がる日がやって来る。もちろん、そんな日は来ないにこしたことはないが、当分来ないとなっても、日本経済の復活はない。 なぜなら、国債発行を続けないと、本当に破綻してしまうからだ。… … …(記事全文5,915文字)