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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

「想定外」のことが起こっても対処できるための「未来学」とは?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          山田順の「週刊:未来地図」    No.026 2013/03/05       「想定外」のことが起こっても対処できるための「未来学」とは? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  そろそろ、あの東日本大震災から2年を迎えます。そこで、今回は、当時さかんに言われた「想定外」について考えてみることにしました。想定外とは、想像を超える出来事を指しますが、もし、未来が想定外ばかりのことならどうなるでしょうか?  これまで、私たち人間は、想定外を少しでもなくそうと努力を重ねてきたと言えるのです。 [目次] ────────────────────────────────── ■なぜか「最悪のケース」を想定することをしない ■事故を想定すること自体が不吉なこと ■技術の予測はうまいが未来を科学的に分析するのが下手 ■1890年に予測された「100年後」はほとんど実現 ■日本で最初の「未来予測」もほとんどが実現 ■なぜ、最近の「未来予測」は楽観的なのか? ■まったく実現しなかった『二〇〇一年の日本』 ■未来の薄気味悪さを取り除く努力をするのが未来学 ■日本では「希望的な観測」と「技術開発」に突出 ■敗戦後のプランがなかったから講和できなかった ■「先見の明」を持つ未来学者の3つの共通点 ────────────────────────────────────── ■なぜか「最悪のケース」を想定することをしない    3月11日のあの大地震と津波、そして、その後の福島原発の事故は、いまも記憶に新しい。まさに、「想定外の出来事」の連続だったと言えるだろう。  ところが、地震にしても、原発事故にしても「想定できた」という意見がある。だから、「想定外は責任逃れの言い訳に過ぎない」というのだ。  たしかに、そう言われれば、地震の規模も津波の大きさも1000年単位で考えれば想定できるものだった。また、原子炉の事故も電源のバックアップシステムを何重にもしておけば防げたかもしれない。  しかし、これらはみなあとから言えることであり、そこまでやる必要があったかどうかは、「想定外」「想定内」という言葉とは関係ない。単に、未来に起こりうるリスクをどこまで引き受けるかという問題だ。  問題は、私たち日本人が、なぜか不吉なことを考えるのを嫌う傾向が強いことだ。そのため、「最悪のケース」(the worst one of all)を想定することをしない。だから、もしそれが現実化したときは、その被害(経済的損失)は計りしれないほど大きくなってしまうのである。 ■事故を想定すること自体が不吉なこと  この問題は、そのものずばりのタイトルの本『なぜ日本人は、最悪の事態を想定できないのか――新・言霊論』(井沢元彦、祥伝社新書)で詳しく分析されている。井沢元彦氏によれば、その原因は日本人の「言霊(ことだま)信仰」にあるという。  日本人は昔から「口に出したことは実際に起こってしまうので、嫌なこと、あってはならないことは口に出さない、考えない」という生き方をしてきた。これが、「言霊信仰」であり、現代でもこの信仰が続いているというのだ。  この本では、東京電力は、事故を想定すること自体が不吉なことだとして、地震や津波という、十分に「想定される事態」をないことにしてきた指摘している。その一例として、事故処理のために国は30億円を投じて特注のロボットを造ったが、東電は「事故は起きるわけがないのだからロボットはいらない」と言って、完成したロボットの納入を拒否したというのだ。 「言霊信仰」に関しては、かつて故・山本七平氏も述べていた。故・山本氏は、この「言霊信仰」と「空気の支配」があるので、日本では本当のことが言えなくなってしまうと、指摘していた。  空気の支配というのは、たとえば、なぜ戦艦大和は出撃したのか?と考えれば、思い当たるはずだ。  もはや戦局が決したあの時点で、なぜ、大和は出撃したのか? 当然、出撃を無謀とする人々は、それを無謀とする細かいデータ、すなわち明確な根拠に基づいて反対した。しかし、その一方で「出撃すべし」と主張する側には、なんの根拠もなかった。  出撃すれば、米海軍航空機の餌食になり、沖縄に到達できずに撃沈し、船員は海の藻屑と化すのは明白なのに、「出撃すべし」側の主張が通った。  これを決めたのが、空気である。その場の空気が、論理的な反対を押し流し、最終決定を下してしまうのだ。故・山本七平は『空気の研究』で、「そうせざるを得なくしている力をもっているのは一に『空気』であって、それ以外にない。これは非常に興味深い事実である」と書いている。  つまり、日本では、十分な根拠に基づく想定できることも、想定しないですまされてしまうのである。 ■技術の予測はうまいが未来を科学的に分析するのが下手  このようなことが、今後も続くとすれば、日本の未来は危ういと言うしかない。嫌なことに目をそむけない。それが、事実ならなおさらだ。
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