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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

円滑化法が切れても倒産は増えない。演出される景気回復のカラクリ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          山田順の「週刊:未来地図」    No.027 2013/03/12        円滑化法が切れても倒産は増えない。演出される景気回復のカラクリ ──────────────────────────────────────  3月いっぱいで切れる「中小企業金融円滑化法」は借金猶予を認める法律。切れると倒産が激増するため、政府はあの手この手の救済措置を実施します。夏の参議院選までは、なにがなんでも景気回復をアピールしていくようです。  実際、倒産件数、失業率、自殺者数などの数値は、みな改善しています。  しかし、それは本当なのでしょうか? 今回は、統計数字のウソについて考察してみました。 [目次] ────────────────────────────────── ■倒産件数が増えたら7月の参院選でマイナスに! ■またも問題は「先送り」され中小企業は生き延びる ■96兆円もの借金の返済が猶予されている ■アベノミクスによるバラマキで生き延びる ■倒産件数が13年ぶりに1万3000件を割ったものの ■実際の統計に現れない「見えない倒産」は激増中 ■なぜ日本の失業率は4%台と実感と違うのか? ■「就職できない」とあきらめる人は失業者ではない ■アメリカ式にカウントしなおせば10%を超える ■自殺者数の推移にもカラクリが隠されている ■右肩上がりで増加している「変死体」の数 ■マスコミに出た統計報道を鵜呑みにしてはいけない ────────────────────────────────────── ■倒産件数が増えたら7月の参院選でマイナスに! 「中小企業金融円滑化法」(円滑化法)が3月いっぱいで切れるということで、大騒ぎが続いている。 「これは返済猶予法だから、切れた後は倒産が続出する」というのだ。「そうなると、せっかくアベノミクスで景気がよくなったというムードが吹き飛んでしまう」と、自民党政権のなかからも危惧する声が上がっている。いっぽう、これまで円滑化法によって生き延びてきた中小企業は、「今後どうすればいいのか?」と、資金繰りに奔走しだしている。  しかし、財務・金融相を兼ねる麻生太郎副総理は、就任直後から「延長はない」と発言してきた。それに対して公明党は、再延長を求めたが受け入れられなかった。これ以上、引きのばしても存続不可能な中小企業が生きながえるだけで問題は解決しないのだから、麻生副総理の決断は当然だった。  ところが、2月8日の記者会見で、菅義偉官房長官は「期限到来後も中小企業の経営支援を図っていくためにはさまざまな政策が必要だ」と述べた。やはり、ここで一気に倒産件数が増えたら、7月の参議院選挙のマイナス材料になると判断したようだ。 ■またも問題は「先送り」され中小企業は生き延びる  その後、自民党内での調整が行われ、麻生副総理は2月22日の閣議後会見で、円滑化法終了を前に、全国の財務局に、中小企業からの相談を受け付ける窓口を設置すると発表した。  この相談窓口は全国53カ所に設置。取引金融機関との借り入れや返却で、問題がないかなどの聞き取りや、企業の経営改善や事業再生の支援策活用などのアドバイスを行うことになった。  つまり、ここに駆け込めば、「たただちに融資引き揚げ(貸しはがし)にはあわない」ということ。現在、窓口に多くの中小企業の経営者が訪れている。金融庁では、昨年の11月の段階で、期限切れ前に返済を迫る貸しはがしなどが起きないように金融機関に促す「大臣談話」を発表している。この談話の強化措置である。  また、独立行政法人中小企業基盤整備機構は、官民が出資する計29ファンドに総額987億円を出資し、各ファンドが全国の201社に投資を実施し始めた。  さらに政府は、4月に、企業再生を担ってきた官民出資ファンドの「企業再生支援機構」を改組し、「地域経済活性化支援機構」を発足させる。この新機構は、企業への直接支援を続ける一方で、地方銀行や信用金庫などが中小企業再生のためにつくるファンドにも出資することになった。  ようするに、すべての問題を「先送り」したわけだ。これで、円滑化法が終わっても、状況は変わらなくなった。この法案で、これまで4年生き延びて来た中小企業は、とりあえず「まだ生きていていい」ということになったわけだ。 ■96兆円もの借金の返済が猶予されている  中小企業金融円滑化法は、「亀井法」とも言う。民主党政権で金融担当相を務めた亀井静香氏の肝いりで、2009年12月に施行された。中小企業が金融機関に返済の軽減を求めた際に、できる限り貸し付け条件の変更を行うよう金融機関に求めた法律だ。要するに、「返済を待ってやれ」と、国は金融機関にお達しを出したのである。  この円滑化法は、当初は2年間の時限措置だった。そのくらいで、リーマンショック後の景気後退は元に戻ると考えたのだろう。しかし、そうはいかなかった。それで、その後2度延長され、今年の3月末でとうとうその期限も切れるのだ。
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