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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

中国経済の前途は洋々……地上最大の産業廃棄物処分場としてなら

⚫    中国コロナ後不況の元凶はなんだったのか?


中国経済は、今もなお2022年夏頃に始まったコロナ後不況から抜け出せていません。抜け出せていないというより、まずますドロ沼に沈みこんでどんどん身動きするのがむずかしくなっています。

そこで今日は、コロナ騒動まっ最中のきびしい都市封鎖の中でさえ新興国らしく高い経済成長率を達成しつづけてきたことになっている中国経済が、今は鉛筆舐め舐めお化粧直しをした程度では覆い隠せないほど低迷しているのかを考察します。

私の見るかぎり、現在進行中のコロナ後不況のきっかけは、2022年の春から初夏にかけて、消費者信頼感指数がまるでテーブルの端からものが落ちるようにストン徒下落したことでした。

ちょうどこの頃、マンション分譲業界最大手クラスの恒大集団の資金繰り困難が業界筋では周知の事実となって、中国の都市住民にとって資産形成と運用利益双方を求める新築マンション購入が激減していました。

そこで、この2つの現象を因果関係で結んで、マンション分譲不振→住宅ローン新規契約激減→消費不振という説明をする方が多いように思います。

実際に次の2段組グラフをご覧いただくと、この説明にはとても大きな説得力がありそうに感じます。



まず上段ですが、ほんとうに引力の法則どおりにものが落ちるような下落が、2022年春から初夏に起きています。

下段に眼を転じると、ちょうどこの頃に新規ローン契約の締結から関西嫌破綻を差し引いた住宅ローン残高の増減額が、限りなくゼロに接近し、同年後半からはほぼゼロ近辺、翌2023年後半には残高の減少に至ったことが分かります。

とても明快な説明ですが、私には気になることがふたつあります。

ひとつは、特定の時期にマンションを購入する世帯はどんな時代、どんな世相でも同じ年齢層で同じ所得水準の世帯の中で少数派です。その少数派世帯がマンション購入を断念したとしても、それが消費全体をこれほど冷えこませるものでしょうか。

ふたつ目は、春から初夏というタイミングの問題です。中国の学年歴はアメリカを真似たもので、新学期が夏休みを終えた9月に始り、翌年の7月にその学年度が終ります。

そして、4月頃にはその年の7月に卒業を予定している大学新卒者たちのところに内定通知が舞いこみます。もちろん、景況が避ければ大勢の学生が内定通知を受取、悪ければ内定通知を受け取れる学生数は減少します。

実際に上段に戻って、消費者信頼感指数の細目を見ると、消費意欲より、雇用の安定に関する信頼感のほうが大きく下がっています

ここで「特定の年に大学や高校を出て就職しようとする若者がいる世帯の数も、同年齢層、同じような収入レベルの世帯の中でごく少数なのではないか」と疑問を感じた方もいらっしゃるでしょう。

しかし、大学・高校新卒者の就職難は特定の年に卒業する若者たちの運不運の問題ではなく、中国経済の宿痾ともいうべきもので、これから社会に出て働こうとする子どものいる世帯にとって慢性的な頭痛のタネなのです。

次の2段組グラフがそのへんの事情を見事に描き出しています。



上段は、政府公表のGDP成長率目標が年率6.5%とまだそうとう高かった、2018年から、コロナ後不況の深刻さが見え始めた2023年までの中国失業率推移のグラフです。

右軸で読み取れる、4~7%という比較的穏やかな水準に収まっているのが、全体失業率、25~59歳失業率、そして中国では民工と呼ばれる農村部から都会に出てきて働いていて、何十年住んでいても出稼ぎ扱いにとどめられている人たちの失業率です。

この民工の人たちでさえ、あらゆる分類で失業率が激増した2023年春に一過性で6.5%をほんの少し上回っただけで、それ以外の時期には6.0%以下にとどまっていました。

今度は9~23%という高水準で目盛ってある右軸の若年層(16~24歳)の失業率推移をご覧ください。2018年の暮れから2019年初めにほんの少し、10%台を割りこんだだけで、ほぼ一貫して2ケタで推移しています。

もう少し具体的にこの紫の折れ線を追うと、2022年初めのほぼ15%から、2023年半ばの21%超まで、凄まじい勢いで上昇していました。

下段をご覧いただくと、この上昇ぶりはアメリカ、イギリス、ユーロ圏といったかなりくたびれの来ている先進諸国の若年層失業率が2010~15年でピークを打って緩やかに減少に転じたのとは、対照的な動きだと分かります。

… … …(記事全文9,472文字)
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