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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

君よ、国を売りたもうことなかれ 円高推進論

   なぜ強い企業を助け、弱い国民をいじめるのか


つい最近私が主宰するブログ『読みたいから書き、書きたいから調べる――増田悦佐の珍事・奇書探訪』「日本株『謎』の絶好調は謎ではない」と題した記事を投稿しました。

そこでは、一見頼りなげに見える日本企業が、じつは見かけ倒しの虚飾の繁栄に酔いしれているアメリカ企業群よりはるかに堅実で安定した利益成長を続けていることをお伝えしました。

しかし、同時にこの日本企業群の利益成長は、人為的な円安政策によって勤労者を始めとする国民全体の生活水準を落としながら、輸出先現地では円安で値下げするどころか、インフレ分程度は値上げをしながら、利幅を拡大しているからこそ達成できているのだと指摘しました。

そして、末尾にこの現状はたんに日本国民がじりじり貧しくなるだけではなく、日本経済の根幹を揺るがすような災厄を招き寄せていることにご注意いただきたいとだけ述べて、やや唐突に論考を終えてしまいました。

そこで今回は、なぜ企業部門を見れば史上最高益を更新し続けていて、好調そのものの日本経済が国民の生活水準をジリ貧化させる以上の大きな危機を迎えているのかについてくわしく論じたいと思います。

まず次のグラフをご覧ください。



民間の金融業以外に従事している日本の法人企業群が、毎年企業運営に必要な流動性を潤沢に確保できているか、それとも不足があるので融資や起債・増資などで埋める必要があったのかを描いたグラフです。

なんと言っても目立つのは、何波かに分かれてやって来たコロナ騒動の初回に当たる2020年に相当巨額の借入を起こしているという事実です。

でも、下側に大きく突き出した金融機関からの借入とともに、現預金もほぼ同額上側に突出していることにもご注目ください。この巨額借入は不測の事態に備えた「転ばぬ先の杖」であって、結局この杖に頼らなければならないほど日本企業の資金繰りは逼迫しなかったのです。

さらに大きな流れに眼を転じると、日本企業全体として資金繰りが逼迫していたのはグラフ左端の2005~06年だけで、それ以外の年は安定して十分な資金を持ちながら経営を維持してきたことが分かります。

また、2010年代には極力借入を少額に抑えながら、対外直接投資を増やしています。財務は堅実に、そして事業展開は積極的にというスタンスでした。さらに、2020年代に入ると、融資もかなり増やしながら、それ以上の対外直接投資をおこなうようになりました。

2010年代には競争の激しい日本国内で培った技術力と財務力を駆使すれば、海外市場に根を下ろした上で着実に事業を拡大していけるという希望を実現しようとしていた動きが、2020年代には自信をこめて本腰を入れた展開に変わっていったのです。

何がなんでも日本経済については悲観的な見方ばかりしたがる人たちは、「日本市場が萎縮し続けて国内だけでは食っていけないから、仕方なく海外市場に出ていったのだろう」といった受け止め方をしがちです。

しかし、切羽詰まった状態に追いこまれた企業が、初めのうちは財務を堅実に保ちながら積極的な事業展開をおこない、自信がつくにつれて財務でも積極策を採るという余裕のある海外市場進出をするでしょうか。

間違いなく日本企業の海外進出は大成功が続いているのです。ただし、非常に気になることがリます。それは、2007年を最後に兆円単位で手元現預金を取り崩すことはなくなり、ほぼ毎年手元現預金が積み上がっていることです。

単年度のフローで見ると大した金額には見えないかもしれませんが、年々積み上がって行くストックでは、莫大な金額になっています。そのへんの事情を明らかにしているのが、次のグラフです。



まっ先にご注目いただきたいのが、いちばん下の手元現預金が600兆円をわずかに上回った直近の名目GDPの3分の2近い400兆円弱という金額に達していることです。

さらに、少額の債務証券を飛ばした株式のほうはほぼ正確に400兆円、つまり手元現預金と保有株だけでGDPを上回る約800兆円という莫大な流動資産を持っているのです。

加えて対外投資についても、金融情勢次第であっという間に消えてなくなることもある対外証券(ポートフォリオ)投資は無視できるほど少なく、しっかり地に足をつけて拡大しつづけている対外直接投資が約200兆円あります。

つまり、日本の民間非金融部門企業全体として流動資産で約800兆円、毎年確実な利益を生んでいる対外直接投資で約200兆円、合わせて1000兆円もの流動性と堅実な収益性を兼ね備えた資産を持っているのです。

… … …(記事全文15,306文字)
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