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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

中国ビッグプロジェクトの背景にちらつく「気候ファシズム」

●    ナチスが「健康ファシズム」だったのは知る人ぞ知る事実だが


ナチス(ドイツ国家社会主義党)と言えば、ユダヤ人、ロマーノ(昔はジプシーと呼ばれていた、おそらく中央アジアの遊牧民起源で、ヨーロッパ各地でも定住生活より放浪生活を好んでいた人々)、そして同性愛者といったマイノリティを弾圧、迫害していたことは周知の事実です。

しかしナチスが、短かったワイマール共和国時代末期のハイパーインフレで疲弊しきっていたドイツ国民の信任を得て、選挙でも得票率を高めていった頃強調していたのは、青少年の心と体の健全な発育を促すための諸政策、いわゆる健康ファシズムでした。

ボブ・フォッシーが初めて振り付け師としてではなく映画監督として成功し、アカデミー監督賞も受賞したミュージカル映画『キャバレー』(1972年封切り)をご覧になったことのある方は、ぜひ思い出していただきたいのです。

往年の大ミュージカルスター、ジュディ・ガーランドの実の娘であるライザ・ミネリが演じたしがないキャバレーシンガー、サリー・ボールズと丁々発止で渡り合ったマスター・オブ・セレモニー役のジョエル・グレイ退廃の権化のような、そして両性具有的な倦怠感のにじみ出た一挙手一投足を。

そして、一転して当時のナチスが推進していた健康そのものの青年男女の透き通るような「清潔さ」に満ちた合唱すがすがしさを。

大ヒットミュージカル『三文オペラ』の脚本・作詞を担当し、戦闘的社会主義者でもあったベルトルト・ブレヒトや、そのシンパでこのミュージカルの作曲をしたクルト・ヴァイルや、その妻で主演をしたロッテ・レーニャといった人たちは、よどみきった戦間期キャバレー世界にどっぷりひたった中からの革命を夢見ました。

あの場面転換を見て「これじゃやっぱり、ナチスが政権を握り共産主義者社会主義者転向するか殺されるか亡命するかしかなかったのも無理はない」と思いませんでしたか。

どうも私には、現代中国で健康ファシズムならぬ「気候ファシズム」とでも呼ぶべき運動が、力を得つつあるように思えてしかたないのです。

今、世界中でいちばん真剣に「気候変動・地球温暖化を防ぐためには二酸化炭素排出量を削減し、再生可能エネルギー源だけで人間生活を賄うことだ」という「福音」を真に受け、実践しようとしているのは中国共産党の幹部たちと、中国の意識高い系の人々ではないかと思います。

たとえば「つい最近まで有害廃棄物量産と地球温暖化の元凶と見られていた中国が、今では緑の革命の先頭に立っている」といった自画自賛で環境問題を語る中国の知識人が増えています。

去年のちょうど今頃、2024年8月28日におそらく現在にいたっても世界最大規模であることはほぼ間違いない巨大風力発電機が、島ひとつが省となっている海南省の沖合で実用運転を開始しました。

風車の羽根1枚の長さが128メートル、沖合の海中に浮かぶブイの吃水線からの高さが242メートル、そのバカバカしいほど大きな風車をひとつだけではなく、V字型の支柱の上端2ヵ所に設置するという大きいことずくめ新しいことずくめのプロジェクトです。



果たせるかな、この巨大洋上風力発電機稼動した直後から、周辺地域の気温風力・風向降水量などが微妙に変化し、それに連れて水鳥水生動物海草などの生態系にも影響が生じているようです。

かなり深刻な変化らしく、いろいろ関連文献をチェックしても具体的にどんな変化が生じているのかは明記していません

ただ「地球温暖化を防ぐには、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーだけで電力需要をまかなうしかないのだから、再生可能エネルギーによる発電の普及を避けて通ることはできない。できるかぎり弊害を除去するか、除去できなければ緩和しながらこの道を突き進むしかない」という決めつけは非常に危険だと思います。

そして、この再生エネルギー発電による気候や生態系の変化について、とうとう私が懸念していた通りの議論をする人たちが出てきました。

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