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増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

軍事技術開発競争に未曽有の大逆転劇発生 後編

⚫    イスラエルにイランと戦う資格はあったのか?


前篇でご説明したとおりの理由で、意気揚々とイランとのミサイル撃ち合いに乗り出したイスラエル軍士気が萎えるには、ほぼ正確に1週間しか必要としなかったのです。

サードを中心とする防空システムは、イランが最新鋭の極超音速滑空型ミサイルをくり出す前に小手調べとして実施した旧式ミサイルの飽和攻撃だけでボロボロの穴だらけだと分かってしまいました。

しかもサードに配備された1基1500万ドルもするアロー3型迎撃ミサイルの在庫は、12~14日で底をつくと判明。

弾道型であれ、滑空型であれ極超音速ミサイルを戦略的拠点に向けてこれ以上撃たれていれば、経済も社会も崩壊すると分かってイスラエル首脳陣がトランプに泣き付いたのが、戦端を切ってから7日目か、8日目の6月19日か、20日のことでした。

泣き付かれたトランプは「よし、分かった。イランなんて一撃で叩きのめしてやる」と豪語して、深夜こっそりイラン国内の原子力関連施設3ヵ所をバンカーバスター爆弾で爆撃するや否や、戦果も確認せず慌てて逃げ帰ったのが21日のことでした。

3ヵ所の中でも地中80~100メートルの大深度に設営されたフォルドウのウラン濃縮施設爆撃については、ほとんどかすり傷程度のダメージしか与えられないことは、もう15年も前から分かっていたのですが、そのへんの経緯はあとで詳述します。

ここで一度立ち戻りたいのが、そもそもイスラエル中東最大の軍事力を擁するイランに正面戦を挑むほどの軍事力経済力、そして人口力を持っていたのかという基本的な問いかけです。

軍事行動ではイスラエル・英・仏連合軍が勝ったけれども、戦略的・政治的にはエジプトによるスエズ運河国有化を国際社会が承認するかたちでアラブ諸国連合が勝った1956年の第二次中東戦争は、大義名分のある戦争でした。

そして、わずか6日間アラブ諸国連合を壊滅的な敗北に追いこんだ1967年の第三次中東戦争でも、イスラエル側の主観では立派に大義名分のある戦争と位置づけることができていたのです。

いかに怪しげな根拠にもとづくとは言え、とにかく誕生した祖国を一斉に敵に回った周辺諸国が攻めてくるから、なんとかして守る必要があるという「祖国防衛戦争」と言えたからです。

しかし、第三次中東戦争以降のイスラエル軍は、たまには劣悪な装備でなんとか抵抗を試みるゲリラ部隊も混じっている周辺諸国の民衆、とりわけヨルダン川西岸地区とガザに追いやられた非武装のパレスチナ一般人から土地を奪い資産を奪い命を奪う武装ゴロツキ集団に変貌していたのです。

どんなイデオロギーで洗脳されていようと、ここまで倫理性を失った凶暴な武装集団が、最低限むやみに非武装の民間人を襲撃してはいけない程度の軍律を心得ているまっとうな軍隊に対抗しようとすること自体が、とんでもない思い上がりです。

具体的にイスラエルの軍事力がどのくらいイランに劣っているかを、確認していきましょう。まず総合力財政・金融力の比較です。



左側の総合力でイスラエルが勝っているのは、空軍力地理的特徴2項目だけとなっています。

… … …(記事全文11,139文字)
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