… … …(記事全文11,511文字)● アメリカは先進諸国でも成長鈍化がひどい国
読者の皆さんは「アメリカは政治や社会、あるいは軍事や外交では難点も多いけど経済はしっかり成長している国」という印象をお持ちではないでしょか。
ショービジネスの本場だけに、アメリカは自国がどんなに立派な国かというイメージを世界に発信することは、とても上手です。
だからこそ「現代世界でも経済発展に重要な技術革新の大半はアメリカ人か、アメリカにやって来た一流の科学者たちがやっていて、時価総額が巨額にのぼるハイテク超大手は全部アメリカで創業した企業なのはその証拠だ」と思っていらっしゃる方も多いのです。
でも、ちょっとお待ちください。その「いろいろ文句を言いたくなることはあっても、やっぱり経済はアメリカがナンバーワン」という思いこみ、具体的なデータで裏付けることができるでしょうか。
経済で大事なのは、規模や水準より、どの程度のスピードで成長しているかという動きです。
そして成長率という動きの尺度で見ると、アメリカ経済がすばらしかったのはせいぜい1950~60年代ぐらいまでで、あとは先進諸国の中でも減速が顕著な部類に入るのです。
そのへんの事情を次の2段組グラフからご確認ください。
上段は20世紀以降のアメリカの10年代ごとのGDP成長率をまとめたグラフです。アメリカの経済成長率がいちばん高かったのは、前半は第二次世界大戦が続いていた1940年代だったことが分かります。
また、20世紀から21世紀最初の25年間を通じたGDP成長率平均値は3.2%なのですが、平均値より上だった時期は1960年代以前で、1970年代以降は2度長期平均と同じ成長率になった以外は、一貫して長期平均を下回っていました。
下段は1960年代からの世界のGDP成長率を10年代ごとの平均値にしてまとめたグラフです。こちらも年代が進むにつれて成長率が下がる傾向はありますが、アメリカほど大きく鈍化しているわけではありません。
なぜ「先進諸国はほぼ軒並み経済成長率が下がっているけれども、アメリカだけは今でも高い成長率を保っている」と思っている人が多いのでしょうか。
アメリカでは経済成長率が下がりつづけている中で、企業利益率は下がるどころがむしろ上昇気味だという事実が、アメリカ経済はうまく行っていると思っている方が多い一因だと見ています。
世界全体とアメリカでは、企業利益のGDPに占める比率が天と地ほども違っているのです。
次の2段組グラフでは上段と下段で利益率の考え方が違っていますので、ちょっと注意する必要はありますが、企業利益が国民経済全体の中でどのような比重を占めているのかを検討するためにはとても役に立ちます。
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上段は世界中で企業の売上に占める利益率がどう動いてきたかを示しています。1960年代半ばの15%をピークに、その後なだらかな下降傾向が続き、20世紀末には12%を割りこみ、このグラフの最新データである2019年には11%未満に下がっています
一方、下段のアメリカの利益率は通常の売上高に占める比率としてではなく、アメリカ経済全体が生み出した付加価値の中に占める比率として利益率を捉えたものです。
毎年その年に国内で生み出された付加価値の総額をまとめたものがGDPであり、その中のどの程度の部分が資本の貢献分として企業利益に振り分けられていたかを示すグラフです。

