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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

イスラエルという病理現象とアメリカ別格主義の狂気 前篇

  1. ● これは断じて戦争ではない!

 

最近眼にしたデータの中でいちばん腹が立ったのが、世界各国の幸福度を国民の自己申告にもとづいて集計したギャラップ社発行の『世界幸福レポート』というデータの2025年版でした。

そこで今回は、なぜこんなに腹立たしい事実が世界各国によって黙認されているのか、この事態を惹き起こした元凶はだれ、何、あるいはどこの国なのか、そして打開策はあるのかといったことを考えてみたいと思います。

まず次の世界地図グラフからご覧ください。

 

 

ヨーロッパ諸国以外は、まったく歴史、言語、そこで培われてきた文明や宗教の差を無視した機械的なぶった切り方をしているところにも、露骨にヨーロッパ中心史観の限界がちらついています。

またオセアニアを見ると、ともに先住民を絶滅寸前まで追いこんでアングロサクソン系の白人中心の「楽園」を築いたオーストラリアとニュージーランドが、かなり高い幸福度を達成して同点となっています。

ですが、いまだに一次産品と観光とラグビー強国であること以外に頼るべき経済・社会分野のないその他多数の国々が1国として調査対象になっていないのも、まことにご都合主義的な西欧諸国による世界植民地化の後始末のしかたと言えるでしょう。

ですが、問題の核心はそこではありません。

この世界地図の中でもっとも支離滅裂な切り分け方で一緒くたにされた「中東・西アジア・中央アジア」の幸福度最大国と最小国を見比べていただきたいのです。

この地域で幸福度最小国と認定されたのは、それまで強引に傀儡政権をでっち上げて居座っていたアメリカ軍がほうほうのていで2021年8月に逃げ出したあと、タリバン勢力が実効支配権を確立したアフガニスタンです。

タリバン政権について「女性には初等教育を受ける権利さえ認めていない」といった欧米諸国からの批判もあり、またそれに同調する現地の知識人もいることでしょう。

しかし、アメリカが擁立した傀儡政権のもとでは猖獗をきわめていた麻薬精製のためのケシ栽培は、タリバン政権に移行してからなんと95%も減少しているのです。

これだけの成果を上げている国について、余計な加入をしてさんざんひっかき回したあとになって、形勢が悪くなると傀儡政権を支持してきた人たちの身の安全も考えずにさっさと逃げ出してしまった国の世論調査会社が、いったいどの口で批判がましいことを言えるのか、その傲慢さと無責任さにはほとほと感心します。

ちなみに、その他諸国では幸福度指数が2.0台にとどまる国さえない中で、アフガニスタンの幸福度指数だけが1.4と1.0台にとどまり、世界全体でも幸福度最小の国と認定されています。

アメリカは、アフガニスタンをここまで不幸な国にした自国の責任について、何かしら償いをしようという意図を表明したことがあるのでしょうか。

ただ、アフガニスタンをこの地域の(そして世界の)幸福度最小国に認定したことは、私が怒りを覚えた最大の原因ではありません。

もっとも腹立たしかったのは、イスラエルがこの地域で幸福度最大国と認定され、しかもその7.2というスコアを上回る国々は、今回の調査対象諸国の中にはたった7ヵ国しかないという事実です。

そして、そのうち6ヵ国(フィンランド、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、オランダ)は北欧に集中し、残る1国は北米大陸で幸福度最大と認定されたコスタリカだけなのです。

北欧諸国やコスタリカがほんとうにそれほど幸福な人ばかりが集まった国々なのかという疑問は、さて置くことにしましょう。

しかし、この幸福度調査の対象国としてイスラエルは選定され、パレスチナは選定されていないのは、いったいどういうことでしょうか。

貧しい暮らしをしている諸国の国民に対して「あなたたちも、隣国で平和な暮らしをしている人たちの領土を奪い、資産を奪い、抵抗する人々を陵辱し、殺傷すれば、幸福になれますよ。あなたたちが蹂躙した人たちのことは心配ご無用。国として認めてやらないので、いくら不幸な思いをしても統計にさえなりませんから」というメッセージを発信しているのでしょうか?

… … …(記事全文8,703文字)
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