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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

この3人凶悪につき…… 後篇

●   安全性を平然と無視する自動車会社CEO


乗用車は乗っている人の安全確保最優先に考えるべき輸送機器です。

ところが、当初は資金調達を支援するとの触れこみで乗りこんだイーロン・マスク自動車産業についてまったくの門外漢だったにもかかわらず、強引に創業時のCEOとCFO(最高財務責任者)を追い出してCEOの座についた2008年からのテスラ社は、ひんぱんに運転者や乗客にとっての安全性を度外視した自動車づくりをおこなってきました。

アメリカ国民のあいだで信頼性に定評のある自動車業界情報企業、iSeeCars社の調査結果では、ブランド別、車種別の走行10億マイル当たりの事故死者数が以下のとおりになっています。



2018~22年の自動車事故死記録の累計なのですが、テスラブランドの全車種平均の走行10億マイル当たり事故死者数は、全ブランド・全車種平均値の2.8人の2倍の5.6人となっていました。もっと気がかりなことがあります。

それは、テスラブランドの中でも高級車と分類され、少なくとも2022年頃までは全世界でもっとも売れていたEV車種とされるモデルYの平均事故死者数が走行10億マイル当たり10.6人と、全車種平均の4倍近くに達していたことです。

なお、ヨーロッパ諸国でEV補助金が大幅に削減されたり、撤廃されたりするようになった2024年以降では、テスラモデルYはもっとも売れ行きの良いEV車種の座を中国の自動車メーカーBYDの大衆車ソングに譲っているものと思われます。

テスラブランドのEVで事故死する人が多いのは、EVが内燃機関(Internal Combustion Engine、ICE)車に比べて技術的に未成熟だからではないか」という好意的な見方をする自動車業界アナリストもいます。

また、EVを1台動かすリチウムイオン電池のパッケージには、電解質溶液の中に隔壁を隔てて陽極と陰極のセットが何十万個という単位で詰めこまれていて、そのうちひとつでも両極が触れあうショートによって爆発炎上の連鎖反応が起きる危険があります。

こうした構造的な問題から、EVがICE車より事故死者数が多くなるのは仕方のないことだと考える人もいます。

ですが、テスラ社新しい車種を発売するに当たってどの程度乗る人の安全性を考慮に入れた上で市場に投入してきたかを見ると、これらの比較的好意的な見方は完全に事実によって裏切られています

テスラの車種ラインナップの中では価格から見て大衆車とは言えないまでも中級車であるモデル3は、モデルYほど事故死者数が多くありません

この事実も、EV全体の問題というより、テスラ社が「高級車」を製造する際に、どんなところにカネをかけどんなところをおろそかにするかの証拠と言えるでしょう。もっと極端な人命軽視の事例が、テスラ最新の車種、サイバートラックです。

高級車であるはずのモデルYが乗る人の安全性を考えるととうてい高級車とは言えない実態であることも手伝って売れ行きが落ち始めた2023年暮れに、テスラ社は車体をステンレス鋼板で覆った軽トラック、サイバートラックを発売しました。

土ぼこりの舞う荒野で至近距離からこのサイバートラックに散弾銃を撃ちまくっても、まったくびくともせず、中からオプティマスロボットが平然と出て来るというプロモーションビデオをご記憶の方も多いでしょう。

ところが、実際に消費者のところに納車されたサイバートラックは、プロモーションビデオで描き出された堅牢さとは似ても似つかぬ、お粗末な造りでした。

次の4枚組写真でおわかりいただけるように、ステンレスの外板は溶接せず接着剤で貼り合わせただけだったのです。



私は、サイバートラックが直線ばかりを組み合わせたデザインになっているのは、曲面同士のステンレス鋼板を溶接する技術がないからだろうと思っていました。

ですが、まさか直線同士でも溶接する技術がないのか、そのための資金がないのかで、接着剤で貼り合わせただけで済ませていたとは、呆れるほかない無責任さです。

… … …(記事全文15,429文字)
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