… … …(記事全文10,574文字)● 悲惨な現状と明るい未来の対比は早とちり
前号での私の結論は、以下のとおりでした。
イスラエルは、アメリカが軍事技術開発競争でロシアは言うに及ばず、イランにも後れを取っていることを察知して、なるべく目立たないように戦線縮小に転換した。
したがって、非常に残念なことにガザでのパレスチナ人ジェノサイドはまだ続くが、ロシアとイランが形成する「抵抗の枢軸」に正面から戦争を挑む力はない。
第三次世界大戦は起きず、徐々にイスラエルとアメリカの政治・経済・社会における存在感は低下していくだろう。
しかし、この結論は正面から正規軍同士が対峙する戦争では弱くなっていても、謀略戦争・心理戦争でのイスラエルやアメリカの国防総省(ペンタゴン)・CIAの狡猾さをあまりにも甘く見ていた早とちりでした。
12月初旬の数日間で、中東の政治地図は一変してしまいました。
その直前までシリアの反政府系政治勢力は、次の模式図でご覧いただけるようにまさに群雄割拠状態になっていました。
この中でひとつだけ赤文字で表記しているHTSは、アルカーイダやISISの中でさえ持てあまし者となっていたとくに過激な連中が寄り集まった勢力で、イドリブという町ひとつだけを拠点として支配していましたが、そのうち消滅するだろうと考えられていた極小分派だったのです。
そのHTSが「座して死を待つよりはましだろう」といった捨て鉢な気分からか、それとも資金供与を受けている米軍・イスラエル軍から「大丈夫だからやってみろ」とそそのかされたからか、イドリブよりはるかに大きな都市、アレッポに進軍してみました。
すると、シリア正規軍の兵士たちはほぼ無抵抗でHTSに町を明け渡してしまったのです。この異様な光景はその後ハマ、ホムス、そして首都ダマスカスでもくり返されて、HTSはほぼ無傷で無敵の進軍によってアサド政権を倒してしまったのです。
増田悦佐の世界情勢を読む
増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)