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増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

連邦準備制度(Fed)が教える銀行と経済の潰し方 前篇

●    大統領選直後の金融市場にご用心


もうアメリカ大統領選1週間後に迫ってきました。これまでは圧倒的に民主党リベラル派びいきのアメリカの大手メディアの主張を請け売りして「カマラ・ハリス有利」などというトンでも情報を流していた日本のマスコミも、やっとドナルド・トランプ圧勝は不可避だとわかってきたようです。

そのトランプ圧勝を前提とした動きも少しずつ表面化してきました。中でもアメリカの中央銀行である連邦準備制度Fed)は、昨年の暮れからその程度の先見の明は発揮していたようです。

そして、中央銀行にあるまじき極端な党派性を発揮して、トランプが大統領になるとどんな金融・経済災害が起きるか、ご親切にもアメリカ国民に教えてやろうとしているらしく、着々と準備を進めています。

去年の1月から3月にかけてアメリカの中堅銀行バタバタと破綻したことをご記憶でしょうか。結局、従来どおりの救済法では危機を乗り切るための救済資金の貸与期間が短すぎるとの理由で、銀行ターム融資プログラム(Bank Term Funding Program、BTFP)という新制度も導入されました。

破綻に瀕している銀行にとって、この制度の利点は2つあります。ひとつはどんなに時価の下がっている債券や不動産担保証券を持ちこんでも額面通りの評価で担保に使えることです。

もうひとつは、最長1年間借りっぱなしでいることができることで、何度も借金を返しては担保を引き取り、また同じ担保で借り直すという煩雑な作業を避けることができます。

というわけで、銀行救済制度としては新顔のこの制度は、発足した2023年3月から危ない銀行からの借り入れ申し込みが殺到しました。そのへんの事情を描き出したのが次の2段組グラフです。



まず上段を見ると、制度そのものがなかったから当たり前ですが2023年2月まではずっとゼロが続いていたBTFP融資が、3月ひと月だけで約800億ドルとほぼ垂直に近い伸び方をして、同年7月には1000億ドルの大台に乗せます。

そして、あまりメディアで報道されることはありませんでしたが、去年の12月後半から今年の1月にかけても、春に比べれば小さな銀行危機があって、このときにも約600億ドル融資残高が増えています。

よく落語で「ツケで買ったものの支払いも、借りたカネの証文も全部大みそかが期限になっているので、年を越せるの、越せないのと大騒ぎ」といった場面が語られますが、表面だけは立派な銀行でも長屋の熊さんや八っつぁんのような資金繰りのところも多いのでしょう。

このBTFPの資金出入りをもうちょっとクローズアップで示しているのが下段です。そして、3月から5月の借り入れ分については、制度上の上限である借り入れ後1年目の返済によって大幅に減少していることがわかります。

2023年3~5月のオレンジ色の縦長の楕円で増えた借入額と、それに呼応する2024年3~5月のオレンジ色の円が示す減少した借入額をご確認ください。この時期の減少額のほうが小さいのは期限前に返済できた銀行もあったからでしょう。

ところが、赤の縦長の楕円で示した2023年12月後半から2024年1月の1か月半にわたる第2次増加分対応する減少分は、これも赤の縦長の楕円ですが、どうやら借入期限が最長の1年ではなく、ちょっと短い10ヵ月になっていたようなのです。

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