… … …(記事全文11,139文字)2025年2月24日発行(通算第811号)
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世界情勢ブリーフィング
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トランプ政権が発足してから1か月が経ちましたが、連日さまざまな出来事が相次ぎ、まだ1か月しか経っていないとは信じがたいほどです。マーケットや日本への影響は今のところ限定的なので、単に騒々しいだけのように思われるかもしれませんが、実際には、米国と世界は恐ろしいほどのスピードで変化しています。
今週は、その中でも特に重要なテーマの一つであるロシア・ウクライナ戦争、そして米国と欧州の関係の変化について取り上げます。また、これと密接に関連し、本メルマガ配信時に行われているドイツ総選挙についても解説します。
トランプ政権に関する動向として、DOGEの行政改革、財政(予算案、国防費)、そして米中関係(台湾政策、高官協議)も目まぐるしく動いていますが、これらのテーマについては、次回以降に取り上げます。
【目次】
1.先週の動き
(1)トランプとゼレンスキーの対立(ロシア・ウクライナの停戦交渉)
(2)米欧の大西洋同盟の危機
2.今週の動き
● ドイツ総選挙
3.近況報告
4.あとがき
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先週の動き
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2/17(月)
・米大統領の日(米市場休場)
・ルビオ国務長官とサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が会談(リヤド)
・ロシアが拘束していた米国人カロブ・バイヤーズを解放したとの報道
・欧州主要国のウクライナ情勢に関する非公式首脳会合(パリ)
2/18(火)
・トランプ大統領が4月2日にも公表する自動車への追加関税は「25%程度」になると発言
・トランプ大統領がウクライナは大統領選を実施すべきと発言
・トランプ大統領が米連邦取引委員会(FTC)等の独立規制機関への監視を強める大統領令に署名
・米ロ高官(米国のルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官、ウィトコフ中東担当特使、ロシアのラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官、ドミトリエフ・ロシア直接投資基金(RDIF)総裁)がロシアとウクライナの停戦交渉に関する初の協議(リヤド)
・米上院がハワード・ラトニックの商務長官就任を承認
・イスラエルとヒズボラの停戦合意の期限(イスラエル軍はレバノン南部の駐留を継続)
2/19(水)
・トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領を「独裁者」と呼んで批判
・米運輸省がNY州の「渋滞税」の認可取消しを発表
・ヘグセス国防長官が国防予算の削減計画の策定を指示したとの報道
・米上院がパテル元国防長官代行首席補佐官のFBI長官就任を承認
・保守政治行動会議(CPAC)(ワシントンDC、~22日)
・欧州主要国とカナダのウクライナ情勢に関する非公式首脳会合(パリ)
2/20(木)
・トランプ大統領とアップルのクックCEOが会談(ワシントンDC)
・ケロッグ・ウクライナ・ロシア担当特使とウクライナのゼレンスキー大統領が会談(キーウ)
・米内国歳入庁(IRS)が職員の解雇を開始
・G20外相会合(ルビオ国務長官は欠席)(ヨハネスブルク、~21日)
・中ロ外相会談(同)
・ハマスが人質4人の遺体をイスラエルに返還
2/21(金)
・トランプ大統領がブラウン統合参謀本部議長の更迭を発表
・トランプ大統領が対米投資の方針に関する大統領覚書に署名
・トランプ大統領が欧州各国やカナダのデジタルサービス税への報復関税の検討をUSTRに指示
・ベッセント財務長官と中国の何立峰副首相がオンライン会談
・米上院が25会計年度(24年10月〜25年9月)の予算決議案を可決
・APがワイルズ大統領首席補佐官、ブドウィッチ大統領次席補佐官、レビット報道官による取材規制の撤回を求めてワシントンDCの連邦地裁に提訴
・ハマスが2月20日に返還した人質4人の遺体のうち1人の身元が想定された人質女性と一致しなかったとイスラエル軍が発表
・アラブ主要国の首脳会議(リヤド)
2/22(土)
・トランプ大統領が保守政治行動会議(CPAC)で演説(ワシントンDC)
・ハマスが人質6人を解放
●トランプとゼレンスキーの対立(ロシア・ウクライナの停戦交渉)
米国とロシアは、ロシアのウクライナ侵攻後初めての公式協議をサウジで行いました。米国からはルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官、ウィトコフ中東特使が、ロシアからはラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官、ドミトリエフ・ロシア直接投資基金(RDIF)総裁が参加しました。
ウクライナは協議に招かれず、ゼレンスキー大統領は自国を抜きにして頭越しに協議が行われたことは「驚きだ」と表明しました。これに対し、トランプ大統領は「失望した」と述べ、ゼレンスキーへの批判を開始しました。
トランプは、ゼレンスキーの国内支持率がわずか4%しかないと主張し、ロシアは停戦合意のためにウクライナが選挙を実施すべきと考えており、自身も同様の見解を持っていると述べました。さらに、ゼレンスキーは戦争をもっと早く終わらせるべきだった、最初から交渉すべきだったなどと主張しました。
これに対し、ゼレンスキーは、トランプは「ロシアが作り出した偽情報の空間に生きている」と反論。するとトランプはゼレンスキーを「独裁者」と呼び、「ゼレンスキーは早く動いた方がいい。さもないと国がなくなるだろう」とSNSに投稿しました。
先週の米ロ協議に先立ち、ベッセント財務長官は2月12日にウクライナを訪問し、ゼレンスキーと会談しました。ベッセントは、ウクライナが重要鉱物資源の権益の50%や重要インフラの運営権を米国に与えることを含む鉱物資源協定案を提示しましたが、ゼレンスキーは、安全保障に関する条項が含まれていないことを理由に署名を見送りました。ウォルツは、ゼレンスキーの対応にトランプは苛立っていると述べました。そして先週末、トランプは鉱物資源に関する合意は「かなり近い」と発言しました。
トランプとゼレンスキーの関係はもともと緊張をはらんでいましたが、ここにきてついにトランプはロシアのナラティブと同調するかのようにゼレンスキーを非難し、ゼレンスキーも応酬せざるを得なくなりました。さらに、イーロン・マスクも「ウクライナ国民はゼレンスキーを嫌悪している」などと述べ、辛辣な批判に及びました。
こうした最新の動きを踏まえ、米国とロシア、ウクライナの関係を中心に、今後のウクライナ情勢の展望を解説します。また、この問題は米国と欧州の関係という、より大きなテーマにも深く関わってきます。この点については次項で詳しく説明します。