… … …(記事全文4,927文字)
━━━━━━━━━━━━━━━━━
山田順の「週刊:未来地図」
No.755 2024/12/24
「先送り」は日本の国民病
なにも解明・解決されない先になにがあるのか?
━━━━━━━━━━━━━━━━━
とうとう今年も暮れていく。はたして今年はどんな年として、後世、語り継がれるのだろうか? そんな思いで、ふり返ってみると、なに一つはっきとしない。
さまざまなことがあったが、あったというだけで、どれもが解明・解決されていないからだ。とくに政治課題はそうである。
古くは「モリ・カケ問題」「統一教会問題」、今年の「裏ガネ問題」など、いったいどうなっただろうか? 結局、「先送り」されただけではないだろうか?
「先送り病」は、政界ばかりではなく、いまや日本全体に広がっている。
[目次] ─────────────────────
■「103万円の壁」をめぐる茶番劇
■「裏ガネ」対策も「金利」アップも先送り
■防衛費ほか3つの財源を決めずに岸田退陣
■「先送り」システムはいずれ限界が来る
■「見て見ぬふり」と「やったふり」が助長
■「先送り症候群」(PCN)というビョーキ
■年間約90万人が減る「人口減」は止まらない
■「やる」「やらない」の2択で決まる未来
─────────────────────────
■「103万円の壁」をめぐる茶番劇
ついこの前まで、政界の最大の課題は「政治とカネ」、つまり「裏ガネ問題」だった。それが、ここに来てメディアは「年収103万円の壁」問題ばかりやっている。まるで、これが日本を揺るがす大問題とばかりに、連日、自公と国民民主の話し合いがどうなったかを伝えている。
12月20日、与党の税制改正大綱で、2025年から「123万円に引き上げる」ことが明記されたが、国民民主はこれに反発。当初からの要求額「178万円」からみて話にならないとして、話し合いからの離脱をほのめかした。
すると、自公は国民民主に擦り寄り、話し合いは再開されることになったが、24日の7回目の話し合いは直前にキャンセルとなった。これでは、ただの茶番劇である。
このような経緯で思い出すのは、昨年末のガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の発動(凍結解除)騒動だ。自民はこれをやるとチラつかせて国民民主党と手を組んだが、補正予算案が通過するやすぐに反故にし、協議は雲散霧消となった。
今回もまた、こうなるのは間違いない。結局、この国はではなにも進まない。進んでも一歩か二歩で、問題は「先送り」される。
■「裏ガネ」対策も「金利」アップも先送り
今年は、元旦の能登地震で始まった。そして、じつにいろいろなことがあったが、どれもこれもただ過ぎ去っただけ。なにも解明されなければ、なにも解決されていない。
政界に限って言えば、最大の問題は「裏ガネ問題」だったが、ほぼウヤムヤにされただけで、本丸である「企業献金の禁止」はまったく進んでいない。しかも、ここに来て「年収103万円の壁」報道ばかりで、このまま忘れさられようとしている。
思えば、安倍政権時の「モリ・カケ問題」、そしてその後大騒ぎになった「統一教会問題」も同じだ。解明・解決されず、単に騒いだだけで終わっている。
今年の歴史的な円安も、アベノミクスの量的緩和、国債大量発行の後遺症なのに、放置されたままだ。円安が物価高騰を招いたのだから、日銀は本来なら金利を上げ、緩和を手仕舞いしなければならない。しかし、ほぼなにもしなかった。
12月22〜23日の金融政策決定会合でも、植田総裁は常套句の「見守っていきたい」と、利上げを先送りしてしまった。
■防衛費ほか3つの財源を決めずに岸田退陣
「年収103万円の壁」の財源問題だけが騒がれて、もっと大きな問題が先送りされていることを、メディアはまともに取り上げない。
それは、岸田政権が先送りした3つの財源問題(=増税)である。3つとは、防衛費増、少子化対策増、脱炭素化予算だ。どれも財源を決めずに、この先、大幅に増やすことだけを決め、岸田は勝手に退陣してしまった。
まず防衛費だが、これは5年間で段階的に増やし、2027年度は2022年度比で3.7兆円多い8.9兆円にする。少子化対策は、2028年度までに国と地方の予算を3.6兆円増額。さらに、脱炭素化は、2032年度までの10年間で20兆円を投じることが決まっている。
しかし、財源の手当がない。既存財源だけではまかなえるはずがないので、当然、増税になるか、赤字国債の発行に頼ることになる。これは、とんでもない話だから、誰も言い出さない。103万円を178万円にするには財源の手当がないと言っているが、こちらのほうがよほど深刻だ。