━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順の「週刊:未来地図」 No.014 2012/12/11 いくらおカネを刷っても日本経済はよくならない、その理由 ──────────────────────────────────―――― 大メディアの世論調査によると、選挙は自民党が圧勝し、自公で過半数を制する勢いといいます。とすると、安倍普三総理が誕生し、「2%のインフレ目標、無制限の金融緩和、大型公共投資」が行われることになりそうです。 つまり、おカネを刷るだけ刷ってばらまくわけです。では、はたしてそれで日本はよくなるのでしょうか? 今回は、この問題を徹底して書いてみます。 [目次] ────────────────────────────────── ■おカネを刷ってばらまいて「日本を取り戻す」? ■本末転倒、熱を下げるだけでは病気は治らない ■昭和恐慌の高橋是清「積極財政」の真似なのか? ■物価だけが上がり給料が上がらなければどうなる? ■アメリカに追随して金融緩和しても無意味 ■安倍総裁のブレーンと言われる人々の主張 ■一般国民の暮らしという視点に欠けるシナリオ ■政府がおカネをくれるなら誰が一生懸命働くだろう? ■長期金利が上昇、円安になって輸入インフレが起こる ■利払い費が膨らみ「国家破産」への道をひた走る ■「景気が悪いのは国のせい」と思っている国民 ■政府がいくら支出を増やして雇用は改善されない ■デフォールトして苦しむのはお金持ちでなく一般国民 ────────────────────────────────────── ■おカネを刷ってばらまいて「日本を取り戻す」? 「デフレから脱却し、円高を是正、経済を成長させ、国民を豊かにする経済を取り戻す」 こう、安倍普三自民党総裁は、いま、全国各地の遊説先で言いまくっている。そんな、自民党のスローガンは「日本を取り戻す」だ。つまり、1990年代に国債をどんどん発行し、公共事業におカネをつぎ込んだ。そんな日本を取り戻すということなのだろうか? これまで、安倍総裁は「2%のインフレ目標、無制限の金融緩和、日銀法改正」を繰り返し言ってきた。そうして、「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と発言したことから、批判を呼んだ。これは、日銀による国債の直接引き受けではなく、「買いオペ拡大」ということだったようだが、いずれにせよ、おカネを刷るということには変わりない。 つまり、おカネを刷ってばらまき、それで経済をよくし、デフレから脱却しようというのだ。 ■本末転倒、熱を下げるだけでは病気は治らない そこで、聞きたい。そんな簡単に経済をよくできるなら、なぜ、日本は「失われた20年」を続け、30年に突入してしまったのか? バブル崩壊以後、あれほど公共投資でおカネをバラまいたのに、なぜ景気は回復しなかったのか? おカネさえすれば景気はよくなり、国民みんなが幸せになれるのだろうか? ともかく、デフレが悪い。デフレから脱却するには、インフレにするしかない。それなら、おカネを刷ればいい。こうした単純な発想なのだろうが、毎日、「デフレが悪い」と聞かされていると、インフレのほうがマシだと思えてしまう。この理屈に疑問を感じなくなるから不思議だ。 しかし、デフレは景気がよくない、経済が低迷している結果で、デフレそのものを退治すれば経済がよくなるという理屈はおかしい。というのは、たとえば、熱が出るのはなんらかの病気の結果だ。とすれば、熱を下げるだけでは病気は治らないのと同じだからだ。 つまり、なんの病気か突きとめて、的確な治療をするのが最善の方法である。デフレ脱却のためにおカネを刷ってインフレにすることは、本末転倒と言っていいのだ。 ■昭和恐慌の高橋是清「積極財政」の真似なのか? しかし、安倍氏はなにかに取り憑かれたように、リフレ論、インフレターゲット論をまくしたててきた。断わっておくが、私は安倍氏を批判する意図はない。ただ、次期総理になる人間が、なぜ、こんな効果が疑問な政策を急に連呼するようになったのか、不思議に思っている。 リフレは言うまでもなく「リフレーション」の略で、リフレ政策とは、不況克服の手段として用いられてきた財政・金融政策だ。おカネを刷るのももちろんだが、ともかく、政府が有効需要をつくり出すことで景気の回復をはかるというのが、その目的だ。最近はリフレを「通貨再膨張」とも訳しているようだ。 日本でリフレというと、常に引き合いに出されるのが、昭和恐慌時の高橋是清の政策である。高橋は、事実上のリフレ政策を断行した。安倍氏の主張は、この高橋の積極財政によく似ている。高橋積極財政は、国債を日銀に引き受けさせてカネを刷り、市場にカネをバラまく。そうして、円安に誘導することで、数年でデフレ脱却を果たしている。 ■物価だけが上がり給料が上がらなければどうなる?… … …(記事全文7,562文字)