米国による相互関税が発動されました。単なる脅しなのか、それとも本気なのか不透明とされていた相互関税ですが、今回、実際に実施されることとなりました。また、対中国向けの関税は、中国が制裁関税を行うと表明したことを受け、34%から50%、さらに84%へと引き上げられました。そして、フェンタニル関税やその他の関税を加えると、総計で約138%にも達します。
ただし、この関税措置には猶予が設けられています。発動までに米国向けの輸出が行われたものや、5月27日までに輸入通関が完了したものに関しては、関税の対象外とされています。現在、船舶などで米国に向けて輸送中の商品は、関税の適用を受けない形となります。
つまり、5月27日までに貿易協議が実施されれば、関税の軽減措置が適用される可能性があります。逆に、協議に応じない場合、さらなる関税の引き上げもあり得る状況です。
■米税関、相互関税のガイダンスを更新
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/04/e17f5934dfc20577.html
現在、70の国と地域が米国との協議を開始しており、これはある意味で踏み絵となる可能性があります。米国は、協議に応じるか反発するかを各国の対応から見極めようとしているのです。
その一方で、中国は米国との関税戦争に最後まで付き合う姿勢を示しています。このため、今後も関税率が上昇し続ける可能性があり、中国から米国、そして米国から中国への輸出入がますます困難になるでしょう。
国際貿易において、船舶輸送や通関代行業者は「乙仲」と呼ばれ、船舶輸送と空輸の両方を行う業者は「フォワーダー」と呼ばれます。また、通関のみを担当する通関代行業者も存在します。しかし、これらの業者にとって、中国からの荷物を引き受けることはリスクが高く、恐れられているのが現状です。基本的に関税は輸出側(荷出側)ではなく、輸入側(荷受側)が支払う仕組みですが、通関業者が税を仮払いし、荷受人に請求する形を取ることが一般的です。商品価格の100%以上の関税を支払える業者は少なく、貸し倒れのリスクが高まるため、中国から米国向けの輸出は事実上ほぼ停止状態にあると考えられます。
さらに、この状況は米国内のチャイナコミュニティーに深刻な影響を及ぼすでしょう。米国で中国製品を販売する業者の多くは中国人経営であり、新たな入荷が止まることで事業運営が困難になります。これは米国内のEC代行業者にも同様の影響を与え、チャイナコミュニティーの瓦解につながる可能性が高いといえます。
また、免税対象とされていた800ドル以下の直送小包に関しても、5月2日から適用される関税率が変更されました。当初30%だったものが90%に引き上げられたことで、中国の米国向けECビジネスはほぼ運営不可能な状況に陥っています。
このような状況は、中国本土だけでなく、米国内のチャイナコミュニティーを破壊することを目的としている可能性があります。米国沿岸部の民主党が強い地域では、中国からの移民が多く、大規模なコミュニティーが形成されており、それが民主党のスポンサーであり支持基盤となっています。レッドパージやグリーンパージに続き、今回の強硬策は「パンダパージ」として、米国内のチャイナコミュニティーの破壊を目指していると考えれば、合点がいくのです。
中国はこれまで、輸出で得たドルを基準に通貨量を増やし、管理変動相場制を維持してきました。しかし、コロナ禍以降、特にバブル崩壊後は、この基準を無視して通貨量を増やす措置を取っています。その結果、人民元の裏付けが希薄化している状況です。その上で、多額の外貨借り入れを維持するために通貨高政策を採用してきましたが、今回の関税措置により外貨調達が困難となり、通貨の維持が難しくなる可能性があります。
ただし、中国は民間企業であっても共産党の管理下にあり、大量に保有する海外資産の売却を命じることが可能です。これが隠れた外貨準備となっており、中国企業に対してこれらの資産の処分を命じる可能性が高いです。特に米国資産については、最優先で売却される可能性が高く、チャイナコミュニティの崩壊とともに資金的なデカップリングが進むと考えられます。
この状況は、日本の銀行や企業がバブル崩壊後に経験した道と類似しているとも言えます。バブル崩壊後、不良債権整理の過程でロックフェラーセンターやハリウッドの映画会社などの売却を迫られ、多くの資産を失いました。また、その後のアジア通貨危機では、日本が保有するアジア資産の売却を迫られ、それを米国が買い叩いた歴史があります。米国はこれを意図的に行うことで、中国の排除と米国支配、ドル支配の強化を図っていると考えられます。
しかし、このプロセスには米国側にも痛みが伴いますが、バンブーカーテンを降ろすためには必要な措置とも言えます。そして、この動きはまだ始まったばかりに過ぎません。
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著者:渡邉哲也(作家・経済評論家)
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