… … …(記事全文2,782文字)これも米国のシナリオなのか -。台湾有事に関する高市首相の発言が日中関係を急速に悪化させている。だが、高市首相は裏ではほくそ笑んでいるかもしれない。安倍元首相の悲願「憲法改正」実現にまた一歩近づいたからだ。
●高市首相「聞かれたので答えた」
<2025年11月7日 日本経済新聞>
ことの発端は、11月7日の衆議院予算委員会において、立憲民主党岡田克也氏の台湾有事を絡めた集団的自衛権行使に関する質問に、高市首相が「日本の存立危機事態にあたる(集団的自衛権を行使する)」と答えたことだ。
この発言に関し、中国はもとより、国内でもいまだに賛否両論で議論されている。
発言の良し悪しは別として、高市首相の発言は、「中国が台湾を海上封鎖し、米軍が介入した場合、日本は自衛隊はどう動くのか。」という質問に対し、高市首相が自ら「(中国が)戦艦を使って台湾を封鎖し、それが武力の行使も伴うものであれば」という仮定を上乗せしたものに対する回答であり、内容としては間違っていない。「存立危機事態」の概念は安倍政権下の2015年に成立した安全保障関連法に規定されており、岡田氏の質問と高市首相の仮定は、明らかに存立危機事態に該当する。さらに言えば「重要影響事態」に該当する可能性もある。
<岡田氏の質問と高市首相の仮定は「存立危機事態」に当たる>
高市首相の発言は内容的には正しいが、適切だったかどうかと問われると、立場や見方によって変わる。当の本人は、「具体的な事例を挙げて聞かれたので、その範囲で私は誠実に答えたつもりだ」とあっけらかんだ。
<2025年11月26日 日本経済新聞>
これに対し中国は内政干渉だと猛烈に抗議し、薛剣(せつけん)駐大阪総領事の「首斬り」投稿の非礼は脇に置いて、執拗に高市首相の発言の撤回を求めている。
<2025年11月26日 日本経済新聞>
<2025年11月8日 薛剣(せつけん)駐大阪総領事Xポスト>
客観的に論じるならば、高市首相の発言は必ずしも内政干渉には当たらない。中国の人民解放軍が台湾を占領して台湾に常駐すれば、台湾から100キロ程度しか離れていない与那国島は日本の「最前線」になり、“中国”台湾の数分以内の攻撃圏内に入る。
<台湾と与那国島の距離はわずか111キロ>
<気象条件がよければ与那国島から台湾の山々が見える>
こうした中国と日本の物理的な急接近は、台湾の地位(中国領か独立か)とは無関係に、日本国民の生命・財産を直接脅かす「存立危機事態」の要件を満たす。高市首相の発言は、このリアリズムに基づくものであり、「内政干渉」という中国のクレームは的外れと言える。
これまで日本と米国は、「台湾は中国の不可分の領土」「一つの中国」という中国の主張に対し、「理解し尊重」しつつ、「承認する・認める」ことはしない「戦略的曖昧さ」を取り続けてきた。岡田氏のような質問に対しても長年日本政府は明確な回答を避けてきた。「戦略的曖昧さ」にはそれなりにメリットがあった。
<戦略的曖昧さのメリット>
だが、中国の経済力・軍事力が増すにつれ、「戦略的曖昧さ」は中国の台湾侵攻に対する抑止力として低下しつつある。
仮定の話とはいえ、高市首相は存立危機事態に該当する具体的なケースを明示し、従来の「戦略的曖昧さ」から一歩踏み出した。それが、日本の手の内を晒したとして批判されるべきか、あるいは、中国の台湾侵攻に対する新たな抑止力になったと評価すべきか、国内でも意見が割れている。
どちらの意見も相応に理解できるが、筆者は、高市首相はなぜこのタイミングで「戦略的曖昧さ」から踏み込んだ発言をしたのか、その背景に関心がある。
高市首相は長年の政治経験から、今回の発言は、日米が足並みを揃えてきた「戦略的曖昧さ」から逸脱することを十分に理解していたはずだ。加えて高市首相は安倍元首相の一番弟子だ。安倍元首相の親米保守路線の継承を自認する高市首相が、米国の意向を無視して「戦略的曖昧さ」を逸脱するとは考えにくい。
●高市発言はトランプの指示?








