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増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

プライベート信用市場崩壊の危機

●    9月に起きたふたつの企業破綻を10月中旬に市場が認知?


今年の10月中旬頃から、「プライベート・クレジット」という何やら怪しげな分野で不穏な動きがあるとの報道が相次いだことはご存じかと思います。

なお本稿ではこのprivate creditというフレーズにプライベート信用という和洋折衷の不細工な訳語を宛てることにしました。

Privateを民間のとか私的なと訳すと、「秘密の」とか「隠しておきたい」というニュアンスが消えてしまうし、creditをそのままカタカナに移すだけだと、日本でではクレジットカードとの連想が強すぎるからです。

ことの発端は、次の2枚組写真でご覧いただく、どちらも自動車産業がらみの企業破綻に関する報道でした。



トライカラー社は、テキサス州を中心にアメリカ南西部の数州で、中古車の販売とサブプライム自動車ローンの供与を兼営するチェーンを展開していた企業です。

とにかくローン申請の書類に日本で言えばマイナンバーに当たるソーシャルセキュリティナンバーも信用点数も記入しなくていいと言うことで、南西部に多いメキシコからや、メキシコ経由の中南米からの非合法移民に人気のあった企業でした。

ということになれば、発足以来、非合法移民の取り締まりと言うより迫害と表現した方が良さそうな強引な方針を打ち出している第2次トランプ政権成立後めっきり客足が落ちてしまったのも、当然かもしれません。

トライカラー社が再建を断念してチャプター7による企業清算を選んだのもまた、自然の成り行きだったと思います。同社のチャプター7申請は9月上旬のことでした。そのころはまだ、純然たるローカルニュースにとどまっていました。

ところが、それから2~3週間後、こんどはファースト・ブランズ――有名企業ばかりを集めましたよ、という社名です――という自動車部品製造業者十数社を傘下に従えた企業が、再建を目指して債権者からの資産保全を求めるチャプター11(日本の会社更生法に相当)を申請したのです。

この会社はトライカラーに比べれば、自己資本も債務総額も大きかったのですが、自動車部品という成熟分野で巨額の借金をしょいこみながらそこそこ知名度の高い部品製造会社を次々に買収する経営スタンスが不思議がられていた会社です。

チャプター11を申請した結果、どのような企業に対してどの程度の債務があるのかも開示されることになりました。

その結果、自動車部品会社ばかりを糾合したミニ・コングロマリットは表向きの姿で、実態は預金を集める資格なしで他社に融資をするNon-Depository Financial Institution (NDFI)だったことが判明しました。

社債発行や銀行などからの融資で確保した資金を他社への融資に回すわけですから、低金利で預金を集めることができる銀行や信用金庫などに比べて、リスクを承知で高金利のとれる融資対象を探す「危ないのは覚悟の上」という金融機関です。

サブプライム自動車ローンを提供していたトライカラー社にも、その資金源としてかなりの金額を貸しこんでいたわけです。この報道で、ファースト・ブランズ社の社債価格は、次のグラフでご覧のとおり急落しました。



一番抵当社債の額面1ドルに対して50セント台半ばという時価もそうとうきついですが、二番抵当の1ドルに対して12セントとなると、これはもういくらかでも返ってくればめっけものという水準です。

… … …(記事全文10,635文字)
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