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山田順の「週刊:未来地図」
No.785 2025/07/15
参議院選の各党の政策は目先だけの一時しのぎ。
これではインフレは止まらず、日本はとことん衰退する!
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今回は、参議院選挙の渦中なので、各政党が掲げた政策が、いかに絵空事で、目先だけの一時しのぎ、単なる選挙対策にすぎないかを嘆述することにした。
野党の「消費減税」vs.与党の「給付金」という図式になっているが、どちらも財源、実現へのプロセス、効果が不明。「物価対策」にもなっていない。
もはや、この国の政治は終わっている。このままでは、とことん衰退していくだけだ。まともに暮らしたいなら、この国を出ていくほかないだろう。私が、20代の若者だったら、なんとしてもそうするだろう。
*今回は、この記事とほぼ同内容の記事を「Yahoo!ニュース」に寄稿しています。
[目次] ─────────────
■「現金給付」も「消費減税」も財源が同じバラマキ
■各党が掲げる「物価対策」は似たり寄ったり
■2万円の現金給付に必要なのは約3.5兆円
■現金給付と消費減税、どちらが効果があるか?
■おカネが増えただけで消費が活発化するのか?
■円安による輸入物価上昇がインフレの原因か?
■政府介入で無理やり給料を上げた結果の物価上昇
■インフレ抑制には政策金利の引き上げが必要
■国債発行はもう限界で、これ以上の発行は無理筋
■政治家の首を切らねば日本は再生しない
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■「現金給付」も「消費減税」も財源が同じバラマキ
現在、日本の国民負担率は46.2%(2025年度見込み)で、江戸時代さながらの「五公五民」である。これに、国の借金(財政赤字)を加えると(=潜在的国民負担率)、「五公五民」どころの話ではなくなる。
もはや、完全な重税国家。これ以上の国民負担は、国民生活を破壊する。
しかも、現状は、物価上昇に給料が追いつかない「スタグフレーション」が進行中。実質賃金は毎月、毎月でマイナスを記録している。
厚生労働省が7月7日に発表した5月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)は、前年同月比で2.9%のマイナスである。
5月の生鮮食品を除いた消費者物価指数(コアCPI)が前年同月比で3.7%も上昇しているのだから、こうなるのは当然。この3%を超える物価上昇は、ここ半年ずっと続いている。
そのため、全政党が「物価対策」を公約の第一に掲げ、「与党:現金給付」vs.「野党:消費減税」という構図になったわけだが、なんのことは、すでに取った税金を配るか、はじめから取らないかの違いだけだ。つまり、どちらも財源は同じである。もっと言うと、「バラマキ」である。
■各党が掲げる「物価対策」は似たり寄ったり
では以下に、ざっと各党が掲げている「物価対策」を見てみたい。
[自民党]
子どもや住民税非課税世帯の大人に1人4万円、そのほかは1人2万円を給付。財源には主に税収の上振れ分を回す。マイナンバーにひもづく公金受取口座をフル活用し、スピード感のある給付に取り組む。
[公明党]
税収の上振れなどを活用し、「生活応援給付」として国民に1人2万円を一律給付。18歳以下の子どもと住民税非課税世帯の大人は1人4万円を給付。
[立憲民主党]
食料品の消費税率を2026年4月から原則1年間ゼロに。「食卓おうえん給付金」として1人あたり2万円を給付。ガソリンの旧暫定税率を廃止する。
[日本維新の会]
食料品にかかる消費税を2年間ゼロに。現役世代対象の勤労所得税額控除を導入。低所得層に支援が行き渡るよう給付付き税額控除を実施。財源は、税収の上振れ分で対応可能とする。
[共産党]
消費税の廃止を目指し、まず5%に減税。財源は、国債に頼らず、大企業の法人税、富裕層の所得税や住民税、相続税などへ課税強化によって対応。
[国民民主党]
賃金上昇率が物価+2%の水準に安定して達するまで、消費税を一律5%に引き下げる。所得税・住民税の非課税枠「年収の壁」を年178万円に引き上げる。税収の上振れ分と赤字国債を財源にし、特別会計の剰余金なども使う。
[れいわ新選組]
消費税を廃止し、現金10万円を一律給付。季節ごとのインフレ対策給付金を出す。財源は、法人税を引き上げ、所得税の累進性の強化、赤字国債の発行。
[参政党]
消費税を段階的に廃止し、社会保険料の負担を軽減する。国民負担率は上限35%にする。国債を増発で対応。
[社民党]
食料品の消費税率ゼロを即時に実現。財源は防衛費の引き下げや、法人税・所得税の累進性の強化。国債で対応。
[日本保守党]
食料品の消費税率を恒久的に0%にする。所得税も減税する。とくに財源は示さず。
■2万円の現金給付に必要なのは約3.5兆円
給付金配布、減税となると、必要なのが、その財源。財源をどうするかは避けて通れない。しかし、各党とも財源をどうするかは、まったくのあいまいだ。
税収の上振れ分が真っ先に上がっているが、そんなものは一時的であり、また、どれほどになるかもわからない。
そこで、財源としてどれくらい必要かを、財務省などの試算で見ると、次のようになる。
まず、国民1人当たり2万円の現金給付だが、必要な予算規模は約3.5兆円とされる。自民党はこれに税収の上振れ分を充てるとしているが、財務省が7月2日に発表した2024年度の国の一般会計の決算概要での税収の上振れ額は1兆7970億円。つまり、これでは足りないことになる。
次に、消費減税に必要な額を見ると、食料品の消費税をゼロにした場合は年間約4兆8000億円。 もし、消費税を一律5%に下げると年間約11兆~12兆円。廃止した場合は、少なくとも22兆円以上が必要になるとされる。
ちなみに、現在の日本の教育予算は5兆3000億円、防衛予算は7兆7000億円である。消費税を一律5%に下げたとすると、これらに回す財源がほぼなくなることになる。
なお、消費税収は年間26兆8000億円で、その約9割は社会保障費に充てられている。つまり、消費減税をした場合、社会保障費をどうまかなうかがもっとも大きな問題となる。
■現金給付と消費減税、どちらが効果があるか?
はっきり言って現金給付も消費減税も、税金の使い方をどうするか、そしてそれをどう配分するかという問題である。よって、その効果が本当にあるのかどうかを考えなければならない。
まず、現金給付だが、これは1回きりなので、その場しのぎの効果しかない。与党は消費減税より、すぐに国民の手元に届くことを強調しているが、そうだとしても、消費に回らず貯蓄に回ってしまえば、景気の底上げにはつながらない。
では、消費減税はどうか?
こちらは、現金給付よりは、実際に消費で支払う額が減るために短期的とはいえ物価対策になり、景気浮揚効果が望めると、多くのエコノミストが言う。
しかし、実施するためには税制改正(国会における立法措置)が必要なため、時間がかかる。さらに、財源の手当をしないと、社会保障費に大きな影響が出る。
■おカネが増えただけで消費が活発化するのか?
さて、ここで単純な疑問がある。私は多くのエコノミストや政治家が言う「消費減税により消費が活発化し、景気がよくなる」と言うことを疑っている。というのは、いまの日本の消費が、ほぼ生活に必要なモノとサービスの「必要消費」(衣食住)が中心だからだ。
人々は、日々必要なものを買っているだけである。すっかり“貧乏国”になったこの国では、必要消費以外のいわゆる「贅沢消費」(旅行、外食、趣味など)は、それほど多くない。したがって、消費税を下げても消費は増えないのではないかと思う。
消費が増えるには、不可分所得の増加はもちろんだが、「これはどうしても買わなければならない」と思わせる利便性に富んだモノとサービス、魅力的かつ画期的な新製品と新サービスが増えなければならないと思う。いまの日本にそれがあるだろうか? 単に使えるおカネが多少増えたからといって、モノやサービスをこれまでより多く買うだろうか?
■円安による輸入物価上昇がインフレの原因か?
さらに、私が疑問というか、情けないと思うのは、給付金も消費減税も目先の物価対策、バラマキのためか、財源に対しての真面目な議論がないことだ。各党とも、思いつきのように、大企業や富裕層に対する課税の強化、赤字国債の増発などを挙げているが、これは消費減税をするためにほかの税を上げるということ。つまり、税を取るところを代えただけに過ぎない。
しかも、なぜいま、日本の物価上昇率が欧米先進国以上で、経済がスタグフレーション(景気低迷下のインフレ進行)に陥っているのかの分析がない。多くの政治家は、円安で輸入物価が上がったためと思い込んでいるが、それは一昨年ぐらいまでの話だ。
歴史的円安が始まったのは、2022年3月。それ以降どんどん円安が進み、2023年10月にはついに150円を突破した。そして、このレベルの円安はすでに定着して2年は経過している。
したがって、現在の3%を超える物価上昇は、円安だけでは説明がつかない。
■政府介入で無理やり給料を上げた結果の悪循環
日本が陥ったインフレは「コストプッシュ型インフレ」である。景気がよくて人々の消費意欲が高まり、モノやサービスの需要が増加するために起こる「ディマンドプル型インフレ」ではない。
コストプッシュ型インフレは、原材料費や人件費などのコストが上昇し、企業がそのコストを製品価格に転嫁することで起こる。つまり、円安による輸入物価の上昇が犯人である。しかし、それはもう終わった話だ。
輸入物価の上昇は、すでに製品価格に転嫁されている。
とすると、犯人はもう一つのコスト、人件費の上昇ということになる。日本の労働生産性は、長期にわたって低下を続けている。それを無視し、ここ数年、政府が賃上げに介入するという資本主義ではありえないことをやったため、人件費の上昇がついに物価上昇を招いたと言える。
その認識がなく、全政党が、バラマキという“目先対策”に走るのは異常であるばかりか、かえって経済を衰退させる。
経済運営をするなら、短期的政策と長期的政策を分けて、その役割分担をはっきりさせねばならない。しかし、今回の各党の対策は短期的視点しかなく、そもそもの現状認識がなっていないのだから、話にならないと言っていい。
■インフレ抑制には政策金利の引き上げが必要
物価対策は、言い換えればインフレ対策である。インフレ対策というのは、インフレの抑制であり、経済学の常識では、中央銀行が政策金利を引き上げることが基本政策になる。
また、給付金や減税は、本来、インフレ対策にはならない。全政党が言うように、これで消費が喚起されるのなら、それによってインフレは加速してしまうからだ。
ところが、日本では、基本政策である政策金利を上げられない。あまりに国債残高が巨額で、金利を上げたら利払い費がかさみ、財政が逼迫し、最終的に破綻してしまう可能性が高いからだ。したがって、日銀は現在の政策金利(無担保コール翌日物の誘導目標)を0.5%に留めている。
アベノミクス以来、日銀は、インフレ目標を2%と言って量的緩和を続けてきた。しかし、それが達成され、物価上昇率が2%を超えたにもかかわらず、「基調的な物価上昇率はまだ低い」などとごまかして、金利を上げないできた。その理由は、ひとえに政府の財政サポートと、アベノミクスという失政の隠蔽のためである。
金利が0.5%で物価上昇率が3.0%を超えている状況では、どんなに賃上げをしても追いつかない。いくら現金を給付しようと、減税しようと、物価上昇が続く限り、現金所得は目減りする。それなのに、全政党とも、自党の政策こそが国民生活を救うと言っている。ジョークとしか思えない。
■国債発行はもう限界で、これ以上の発行は無理筋
消費減税の財源論で、国民民主、れいわ、参政などが、「財源は国債発行でまかなう」と言っているのは、正気の沙汰とは思えない。なぜなら、国債の返還は税金であり、将来の増税を意味するからだ。
しかも、日銀が金利を上げられない状況を見ればわかるように、国債発行はもう限界である。すでに、日本国債の格付けは引き下げられ、かろうじて「A」格を維持しているが、「B」格転落もあり得る状況だ。
今年の4月、満期までの期間が30年の国債、40年の超長期債に猛烈な売り圧力がかかり、価格がみるみる下落するということが起こった。国債の信認が薄れ、買い手がいなくなったのだ。
これに慌てた財務省は、最終的に長期国債の発行を減額することになった。
こんな状況で、減税の財源のための赤字国債を発行したらどうなるか? 金利は一気に上昇し、債券市場は深刻なパニックに陥るだろう。このようなことにまったく触れず、「財源は国債発行で」と言うのは、口先だけの“言うだけ詐欺”である。
■政治家の首を切らねば日本は再生しない
それにしても、今回の選挙の争点が、詐欺に等しい物価対策に絞られてしまったことは嘆かわしい。ついこの間まであれほど騒いだ「統一教会問題」「裏金問題」はどこに行ってしまったのか?
給付金、消費減税はやらないよりはやったほうがいい。しかし、各党が言っているやり方では、日本経済はさらに落ち込むだろう。
これを救う方法は、ただ一つ。民間経済に手を突っ込み、悪手ばかり連発する政府を縮小することだ。すなわち、議員数を減らし、その給与と歳出を大幅にカットする。同じく、公務員の数を減らし、給料とボーナスを大幅にカットする。さらに、余計な省庁などの政府部門を統廃合・縮小し、不要な行政法人などは解体する。そうすれば、必ず財源は生まれる。要するに、「小さな政府」を目指すべきだ。
トランプ政権はなにもかもデタラメだが、イーロン・マスクを起用して「政府効率化省(DOGE)」をつくり、連邦政府のスリム化を目指したことは正しかった。
しかし、日本ではそんなことを言い出す政治家は1人もいない。自分たちのクビを切らなければならないからだ。
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■著者:山田順(ジャーナリスト・作家)
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