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吉田繁治 (経営コンサルタント )

吉田繁治

ビジネス知識源プレミアム:日曜増刊:2024年の社会・金融・経済(3)後編
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<1ヶ月にビジネス書5冊を超える知識価値をe-Mailで>
ビジネス知識源プレミアム(660円/月:税込)Vol.1399

<Vol.1399号:日曜増刊:有料版・無料版共通:2024年の社会・金融・経済(3)後編>

 2024年1月14日:2026年までに通貨の大転換の可能性


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著者へのメール    yoshida@cool-knowledge.com
著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治



玄関に、毎年、正月用に家人が活けるカサブランカの花があります。芳香を放つ百合です。ゆっくりひらいて、満開を過ぎるころが、ほぼ14日目です。正月という気分の晴れた感じがなくなり、日常に戻る時間でしょう。過去の基礎的なことが転換していく「激動の2024年」の幕開けでしょう。

<2024年の社会・金融・経済(3)>の後編をお届けします。
年初は、いわゆる専門家によって、各所で1年後の株価予想が行われます。

最初に、「こうした専門家の予想」が、どれくらいの確度をもつものか検証します。

アナリスト予想は、直近の年度のボラティリティ(年間の価格変動幅)の範囲内での、強気なら少し上、弱気なら下の単純なものであることが明らかになるでしょう。

統計的な標準偏差(=ボラティリティ)の確率を使うので、若干、難しく感じる人がいるかもしれない。しかし株価変動の標準偏差は、株価ではもっとも「基本的なこと」なので、株を売買する人は、理解しておく必要があります。

標準偏差の確率と同じものであるボラティリティを理解していない人が圧倒的に多いので(推計で90%)、アナリストという職業があるのかと思うくらいです。

【身長の予想】
例えば、今日はじめて会う人の身長を予想する。男性の身長の平均が170cm、仮に標準偏差の1倍が7cmと知っていれば(=これが情報)、予想できます。

会う相手が、170cm±7cm=163cmから177cmである確率は、68.3%です(標準偏差=統計的な偏差の1倍の範囲)。

163cm以下である確率は2.3%、177以上の確率も2.3%です(平均+標準偏差の2倍の範囲:マレに起こるテールエンド)。

【成績の偏差値】
学校の成績の偏差値と同じものです。テストの偏差値は、(個人の点数-平均点)÷テストの点数分布の標準偏差×10+50、です。

平均点が60点、点数のバラツキを計算した標準偏差(エクセルのSTDEV)が15点の幅(これが株価のボラティティ=価格の変動幅)、自分の点数が80点なら、80-60=20、20÷15×10=13.3、この13.3に、50を足して63.3が、テスト成績80点の偏差値です。

確か中学か、高校だったか数学の教師が考案したものです。
現在、偏差値は、個人に対して公開されるのでしょうか。



<Vol.1399号:日曜増刊:2024年の社会・金融・経済(3)後編>
2024年1月14日:有料版・無料版共通

【目次】
■1.専門家の株価予想の中身を検証する
■2.あなたにも、容易にできる、2024年の年末株価の予想
■3.原油・天然ガスの危機が迫っているように見える
■4.2023年から24年1月の株価上昇
■5.株価への基本的な認識
■6.米国株に追随する、日本の株価
■7.ファイナンス理論の効率的市場仮説の破綻がリーマン危機だった
■8.行動経済学によるファイナンス理論の修正
【後記】



■1.専門家の株価予想の中身を検証する

【昨年の2023年1月の、23年末への予想】
2023年の年初の、大手証券会社5名の株価アナリスト(Bzスクエア)による、2023年の年末の日経平均予想は、以下でした。

・2万8000円(3名)、
・3万円(1名)、
・3万1000円(1名)

→5者の、アナリストの平均の予想は、2万9000円でしたが、実際の日経平均は、3万3464円(23年12月末)でした。5者平均の予想に対して、誤差は4464円(13.3%)に上振れしていました。昨年の予想は、弱気だったことが分かります。

日経平均の、変動幅のボラティリティは約15%(5000円幅)でしたから、標準偏差(正規分布)の1倍の標準偏差の幅の出現確率である68.3%の確率として、プラスマイナス5000円の幅での変動を示していたことになます。2023年1月のアナリストの「予想」は、その下部にあったのです。

この予想の、ボラティリテイでの実現確率は、「標準偏差の1倍(1σ)」の、68.3%の範囲です。

◎ボラティリティ(=標準偏差)の性質を知っていれば、専門家ではなくても、誰でも機械的に予想できたということです。

【正規分布と確率】
正規分布は、標準偏差を使う確率計算の方法です。
計算はできなくても、
・1σ(標準偏差の1倍)の範囲にデータの68.3%が入り、
・2σ(標準偏差の2倍)の範囲に95.4%の未来データが入ると覚えておけばいい。
・2σの両端の、実現確率の高い部分は、約2.5%です=40回または40年に1回の発生ということです。ベルカーブの両端ですから実現確率が低い(40年に1度)のテールエンドとも言います。出現することが稀なブラックスワンともいう。

https://kougakukeisan.com/2021/10/09/%E6%AD%A3%E8%A6%8F%E5%88%86%E5%B8%83%E3%81%AB%E5%BE%93%E3%81%86%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%81%AE%E7%A2%BA%E7%8E%87%E8%A8%88%E7%AE%97/

【今年度の予想】
同じメンバーのうち4名による、2024年12月末の日経平均予想は以下です。
・3万5000円(2名)
・3万6000円(1名)
・3万8000円(1名)
→4者予想の平均は、3万6000円です。

実績である3万3464円(23年12月末)に対して、+7.5%です。
(注)ボラテリティは、同じ15%程度と見ていいでしょう。

アナリスト予想は、昨年からの株価の上昇傾向を、ほぼそのまま、2024年に伸ばしたものです。ただし今年は市場の大勢は、
・物価上昇率の低下と、
・米国金利の低下を見込んで、弱気ではなく強気の領域にブレています。

予想価格は、1σ(シグマ)の標準偏差内と狭い(実現の確率は68.3%)。これは、「予想」と言えるもの?。

同じアナリストの、昨年の予想の誤差は4464円(13.3%)でした。今年も、同じ13.3%予想誤差があるだろうと仮定すれば、2024年の年末株価は、68%の確率で、「23年12月末の日経平均 3万3464円±13.3%=3万3464円±4450円=2万9014円~3万7914円」となるでしょう(機械的予想)。

◎24年末の日経平均は、13%の予想誤差を含むと、2万9000円から3万8000円になります。

以上が、身も蓋もない、4者アナリスト予想の、数理的な確率の意味です。

2024年の予想ボラティリティ(価格変動幅)を15%と設定して使えば、誰でも、このレベルの「予想」ができます。この程度のものがアナリスト予想です。

◎あなたの、個人的な予想にも自信をもっていいとする根拠は、こうしたアナリスト予想の構造の検証から得られます。アナリストとの違いは、予想の理由付けに何を示すか、だけでしょう。

■2.あなたにも簡単にできる、2024年の年末株価の予想

(1)過去のボラティリティ参照し、2024年の、日経平均225社の株価のボラティリティと思えるものに、設定する(事例では年間変動率を15%(5000円))。

(2)現在の予想の金利や景気から、上がるだろうと思うときは、1σ(約7%:2500円)の範囲の上部に、予想価格を決める(これがアナリスト4者の3万5000円から3万8000円)。

(3)下がると思うときは、1σの約7%下限の範囲(3万3000円から3万1000円付近)に、予想価格を決める。
この下落予想は、今年は4者にはない。4者のアナリストが2024年は、米国金利の低下によって、米国株と日経平均の株価は上がると思っているからです。

(4)この方法では、予想価格をいくらと決めても、予想誤差は13%付近の幅(4500円あたり)に収束するでしょう。

(注)売買の構造変化の年度、つまり、株価の変動幅のボラティリティで20%以上の年度には、この予想は大きくはずれます。

日経平均の、ボラティリティ指数(VI)の、2015年からの変化の平均は、20%付近でした。価格変化の変動幅が、年間VIで20%と大きかったため、予想をはず人が多かったのが、2015年から2023年の株価だったことを示しています。
https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index/profile?cid=7&idx=nk225vi#section-gist

VIの20%は、年初の価格に対して、±20%の範囲に年末価格の68%が入っていたということです。年初価格が3万5000円なら(24年1月11日は3万5471円と高い)、±7000円=2万8000円~4万2000円の実現確率は、68%だったということです。VIが20%の変動幅は大きい。標準偏差の2倍の範囲が、株価の実現確率68%です。

【2024年の、5つのリスクを考えると・・・】
2024年は、
1)ホルムズ海峡の問題から、上げも下げも変動幅が大きくなる可能性の高い原油・天然ガス価格、
2)上がる予想の円金利(金利の変動はリスクです)、
3)下がる予想の米国金利、
4)米国では2021年と22年で44%上がった住宅価格の問題を含み(欧州では住宅価格が下がっています)、米国商業用不動産の20%の空室を含み、経済と金融に不確定な要素が多いので下げの部分が大きな価格変動になると予想しています。

これらは、アナリスト予想の楽観とは違います。

5)最後の大きなリスク要素は、政治的なものですが、2024年8月から始まる米国大統領選挙です(選挙は11月)。

◎バイデンは不利、トランプが絶対有利という報道が増えてきました(軍産共同体の勢力の衰えがあります)。

米大統領選挙の結果は、米国の財政・金融政策・株価だけでなく、世界にも大きな影響を与えます。とりわけ日本への影響が大きい。株価への影響は不明ですから、リスクです。結果の予想ができないリスクは、ボラティリティ(株価変動率)を大きくします。

日本の岸田首相の退陣(24年4月と予想)より、日本の金融・経済への影響は米国の大統領が大きい。日本の政治と金融は、米国に従属して決まるからです。

米国民主党と共和党(特にトランプ)は、政治、経済、金融政策において逆の方向を向いています。戦争は2週間で終わらせるという。MAGA(米国の経済復興)なので、輸出振興のドル安策かもしれない。バイデン政権の、財政赤字は1年に2兆ドル(290兆円)と大きい。トランプと共和党は、この財政赤字緊縮派です。日米の株価アナリストが考慮に入れていない米国の大統領選挙は、2024年の株価に大きな影響を与えるでしょう。

広報役である株価アナリストには、トレーダーを落第した人がなることも多い。顧客のマネーを賭けるファンドのトレーダーの成績では、100回の売買で55勝45敗なら勝ち、45勝55敗なら負けです。

■3.原油・天然ガスの危機が迫っているように見える

米英軍が、紅海の欧州とイスラエル商船を襲撃し、バブエル・マンデブ海峡(サウジの左側)を封鎖しているフーシ派(イエメン)の首都、サナア空港を爆撃しました(15発のミサイル:1月11日)。

軍人だけでなく一般人の犠牲者も出ています。空港は戦闘機が飛び立つ軍事拠点でもあります。ハマス・イスラエル戦争が、米英とイエメンの戦争に飛び火しました。

◎加えてホルムズ海峡のすぐ南東のオーマン湾では、米国の原油タンカー(セントルイス号)が、イラン海軍に拿捕(だほ)されました。

イランは、イエメンの軍閥のフーシ派と、レバノンのヒズボラに兵器とマネーを提供しているスポンサーです。イエメンの爆撃は、欧州との貿易の動脈であるスエズ運河に通じるバブエル・マンデブ海峡を封鎖しているフーシ派へ、米国の報復です。イランによる米国タンカーの拿捕は、米国への攻撃です(オーマン湾)。
https://www.sankei.com/article/20240112-NPGY42BV5ZK2DDILSBM5GO736M/

これには、驚きました(同日)。西側では、パニックを恐れるのか、報道管制が敷かれてますが、イランは報道しています。

年間で、3400隻(1日平均10隻)のタンカーが、ホルムズ海峡を航行し、日本の原油の80%、天然ガスの40%は、航路の幅が3キロしかない海峡から来ています。日本経済の、エネルギー物流の首根っこが、ホルムズ海峡です。

万一イランまたはフーシ派によって、吸着地雷がまかれるとタンカーは通行できません。(ホルムズ海峡:Wiki-Pedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%82%BA%E6%B5%B7%E5%B3%A1

イランによる米国タンカーの拿捕は、懸念されていた「米・イラン戦争」の、部分的開幕です。

イエメンを空爆した米英は、「原油価格とドルを上げる対イラン戦争」をしたいのか? 米国は原油・エネルギーの輸出国(350万バーレル/日)なので、原油価格の高騰はドルを強化します。ただし、GDPの70%を占める個人消費の需要は不況に向かっているので、「不況下のサプライサイドからの物価上昇、つまり、スタグフレーション」です。

◎原油・天然ガス(液化ガス)の航路であるペルシャ湾のホルムズ海峡の封鎖危機が、突然、高まりました(1月11日)。ただし、原油価格(米国WTI)は、1バーレル73ドルから75ドルに動いただけで落ち着いています(22年2月のウクライナ戦争のときは120ドル)。

◎天然ガスは、この危機により先週比で8.4%、先月比で42%上がっています。発電に多く使われる天然ガスの価格反応は、原油より速い。

中東危機の拡散により、エネルギー価格が上がると、スイスフランよりも安全な資産とされている金価格も上がります。
(注)円は、異次元緩和の前の2012年まで、1ドル80円台の安全資産でしたが、その後の50%から75%の円安(120円~140円台)により、安全資産から外れています。

ホルムズ海峡がイラン海軍の機雷によって封鎖されると、瞬間に、エネルギーは2倍から3倍に上がるでしょう。世界インフレ(スタグフレーション)を惹起します。

2024年は下がるとされている米国の金利も、再び上がるでしょう。株価は大きく下がり不況下の金利上昇になります。

イスラエルの北部では、1500発のミサイルをもつヒズボラとイスラエル軍が戦闘状態を続けています。 アラビア半島の南部では、フーシ派です。南部のホルムズ封鎖の可能性は、今日の時点ではまだ何%か判定できない。

24年1月末までには分かるでしょう。

◎原油・天然ガスの高騰は、輸出国のロシアと米国のエネルギー・メジャーにはプラスです。2024年の金融・経済の大きなリスク要素です。

エネルギー輸出国の、米国石油産業とドルにとっても、「ホルムズ海峡封鎖」はプラスになるので、危険なのです。

軍産共同体には、原油が上がると儲かるエネルギー・メジャーと、原油やエネルギーに先物投資をするウォール街金融も含まれています。先物を買っていると、満期までに上がったときは、レバレッジのかかった大きな利益が出ます。

■4.2023年から24年1月の株価上昇

2023年1月から24年1月初旬の、日経平均の上昇(2万6000円→3万5000円:+35%)を主導したのは2つの要素です。

1)高い配当と高い株を要求する、株主ガバナンスが強い米国を追って(追随して)、日本でも増えた、自社株の買い越し(4.9兆円円)、
2)ガイジンファンドによる買い越し(約3.1兆円)です。個人は、2.9兆円売り越しています。

(注)データは安藤証券、投資家主体別の買い越し/売り越し(2023年年合計を見てください)。
https://www.ando-sec.co.jp/market/movement.html

3)2023年12月からは、新NISAによる個人買いが加わっています(個人の累積株投資1800万円までの株式利益に対しては、非課税;1800万円以上の投資分の利益には、20%の分離課税)。まだ、個人買い全体の増加ではない。週間売越額の2000億円台への減少として現れています。

2020年3月からの、「コロナ危機対策の超金融緩和のとき」に似た上昇でした(20年2月の2万4000円→21年3月の3万700円:+28%)。

◎株価は、金融・経済のファンダメンタルズより大きく、
・誰が買い越して上がるか、
・誰が売り越して下がるかという観点で、予想しなければならない。

その後の、1年9か月の日経平均は、2022年12月まで3万700円から2万7000円に下がったのです。

(データは下の日経平均、1σ、2σのボリンジャーバンド付き)
https://kabutan.jp/stock/chart?code=0000&ashi=1

2023年の、1)膨らんだ自社株買いと、2)ガイジンファンド買いが、2024年も続かないと日経平均の上昇はない。

■5.現在の、世界の株価への、基本的な認識

現在の株価は、2020年から22年のコロナ対策が財政になった約2000兆円(14兆ドルのマネー増刷:FRB+ECB+日銀)による「株価バブルと不動産価格」と認識しているからです。このマネー増発は、リーンマン危機の銀行救済をはるかに超えて世界史上最大です。
(米国S&P500(主要500社)の長期チャート:
2020年2月3275→2023年11月4685:1年9か月で+43%:平均年率+21%))
https://nikkeiyosoku.com/spx/chart/

現在の世界株価は(不動産市場が崩壊した中国を除いて)、デリバティブの破裂から始まった、2008年9月15日のリーマン危機の前の2007年までを、はるかに超える上昇です。
(S&P500の長期チャート:2003年4月900→2007年10月1500:4年6か月で+67%:平均年率+12%))
https://nikkeiyosoku.com/spx/chart/

■6.米国株に追随する、日本の株価

株価予想として米国のS&Pについて書いている理由は、日経平均は、S&Pの株価を後追いするからです。

東証は、国内で自律した市場ではない。東証での株の売買(4兆円/日くらい)では、米国のファンドによるオフショアからの短期売買が1日に約3兆円であり75%を占めています。国内の投資家と金融期機関の売買は、1兆円/日に過ぎない。

◎米国ファンドが日本株を買うとき上がり、売るときは下がります。

米国ファンドの日本株の買いは、米国株が上がって日本株のポートフォリオ(投資構成比)が下がったとき、ポートフォリオの維持のため自動的に買われる(コンピュータ・プログラム)。米国株が下がったときは、逆に日本株も売りになります。

四半期決算に合わせて、分散投資のポートフォリオは、3か月では期首に変更した一定率を維持するのがファンド運用の基本です。(1-3月、4-6月、7-9月、10-12月)

日本の株価を動かす、米国市場の株価時価総額は、60兆ドル(8700兆円)と巨大です。日経平均が3万5000円に上がっても、日本株の時価総額は900兆円であり、約1/10の市場に過ぎない。

◎米日では比較を超える、資金量の差があります。

(注)1989年の、日本の株価バブル崩壊前(日経平均3万8900円:PERでは40~60倍)のときは、現在とは逆に、日本の株価時価総額(600兆円)が米国市場を上回っていました。

米国ファンドの、日本株の3兆円/日の売買のうち、約70%は、プログラム化したコンピュータ・アルゴリズムでのHFT(超高頻度売買)です。

【方法の変化】
戦争の方法が、精密誘導のミサイルとドローン爆弾に変わったように、株式、債券、国債、金や原油先物でもコンピュータ売買が増えたのです。

古典的な「場立ち」は、世界の市場から、すっかり消え、売買と価格形成は、市場のコンピュータに連結された、証券会社のコンピュータで行われています。

2026年ころからは、マネーそのものもデジタル通貨になっていき、現金を見ることは、少なくなるでしょう。現在、近所のラーメン・チェーンでも、デジタルマネーの支払いがたぶん70%くらいです。決済は早い。

20代や30歳代はもちろん、60歳以上に見える女性も携帯電話での電子決済をしています。マネーのデジタル化は、マネー価値と金融を変容させます。

滞留が多い現金紙幣(日本では1万円札が123兆円)より、デジタルマネーの流通速度は高まるので、少しずつですが、これも長期のインフレの要素になっていきます。

95%以上をクレジットカード(電子決済)で使う米国人の、所得以上の、借金よる消費が大きいことからも判断できます(クレジットカード負債は1.3兆ドル:188兆円:1人平均6000ドル:87万円)。

■7.ファイナンス理論の効率的市場仮説の破綻がリーマン危機だった

少し難しい話ですが、株価を代表とする金融商品についてのファイナン理論の破綻と修正について書きます。

【2008年のリーマン危機までのファイナンス理論】
ファイナン理論では、当初、効率的市場を前提にして、株価は規則性のないランダム・ウォークをするというものでした。規則性のないものの、未来の動きをとらえる方法としては「確率」しかない。

サイコロを振って、1から6のうちどの数字が出るかの予想はできない。しかし1000回振って出た数字を記録すれば、1や6が出る確率は、限りなく1/6に近づくと想定できる(大数の法則)。

立方体のサイコロの目は予想できなくても、確かさを1/6とすることはできる。これが「確率」です。ファイナンス理論が前提にした効率的市場では、「株価は、正規分布(ベルカーブ)の確率的な変動をするだろう」と展開されたのです。

ここから作られたものが株価変動のボラティリティ(確率的な変動幅)です。ボラティリティは、
・株価がランダム・ウォークするということを前提に、
・標準偏差の確率に従うとして作られたものです。
(効率的市場仮説ともいう)

(注)製造、医療、流通、株価の業務で、実務的な応用の範囲が広い標準偏差の確率は、高校の数学で教えるべきだと思いますが、文科省は鈍感です。株価では、価格変動のボラティリティが標準偏差です(推計の統計学)。部品では、性能・精度の計測で使います。医薬でも治験は標準偏差です。症状の診断やウイルスの計測でもっ標準偏差の確率を使います。

標準偏差の確率は、正規分布で得られます。
(正規分布の解説:このページの3の「正規分布におけるデータ分布のベルカーブを見てください」
https://data-viz-lab.com/normal-distribution

平均値を中央値として、中央値より上の価格と下の価格は、遠ざかるほど、出現確率が急激に低下します。これが、正規分布のカーブです(中央値から離れた両端が低いベルカーブ)。

株価では、20日移動平均の値を中央値とします(これを1万円とします)。20日間の、変化した株価の標準偏差(エクセルにあるSTDEV函数)をとると、500円と計算されたとします。

過去20日間の標準偏差(≒20日間の価格変動のボラティティ=平均的な変動幅)が500円という意味です。これは何を意味するか。

20日先(株価では市場の開場日で1か月)までの、株価変動では、「移動平均値1万円±500円=9500円~1万5000円」の間に分布する確率が68.25%ということです(推計の統計学)。

これが、株価の予測値であり、20日間での5%(500円)のボラティリティです。実際に、株式市場で計算されているボラティリティは、「株価の分散(標準偏差の2乗)の加法の定理」を使って、12か月(1年間)とします。

過去20日間のボラティリティ(日経平均ではVI:S&P500ではVIX)だった。この5%に√12≒3.5をかけた「5%×3.5=17.5%」が、年間の価格変動です。

12倍ではなく、12の平方根倍であることに注意が必要です。標準偏差は、分散の平方根だからです。(注)株価のボリンジャー・バンドの、1σ(シグマ)の幅がこれです。
(日経平均と、平均指標の各種)
https://kabutan.jp/stock/chart?code=0000&ashi=1

以上の条件で、先行き1年間での株価の分布を、予想をすると以下になります。

(1)先行き1年で、「中央値1万円±1倍×標準偏差17.5%(=17%=1750円)=8250円~1万1750円」の価格が出現する確率は68.25%と予想できる(これが推計の統計学)

(2)中央値1万円±2倍×標準偏差(=35%=3500円)=6500円~1万3500の価格が出現する確率は、95.4%と予想できる。
 ↓
(3)先行き1年間に、35%以上下がって、6500円以下になる確率は左の尻尾の2.3%(4.6%÷2)が示すであろう。
  ↓
(4)先行き1年間に35%以上上がって、1万3500円以上になる確率は、右の尻尾の2.3%であろう。

正規分布で、中央値(1万円)±2×標準偏差(=3500円)≒6500円以下、または、1万3500円以上が出現する確率は2.3%と小さい。正規分布が描くベルカーブでは、ネズミの尻尾に見えるので、テールエンドとも言います。

◎低い方のテールエンドが、株価の暴落=金融危機の発生です。

株価変動を正規分布とすれば、ダウや日経平均のような指数株が35%以上暴落して、金融危機を引き起こす確率は、2.3%であると予想できる。これが効率的市場仮説でした。

(注)任意の一定の価格で買う権利、売る権利を買うオプション料を計算するブラック・ショールズ方程式は、未来の価格の、ボラティリティの採用において、価格の正規分布変動を前提にしています。

確率の2.3%は、年数に換算すると「1÷0.023≒43年」です。ここから、金融危機になる株価の暴落(30%以上)は、効率的市場の正規分布なら、43年に一度と想定できる

【2008年のリーマン危機】
ところが・・・長期間の株価を調べると、2.3%以下としていたテールエンドは、5%から8%の確率で起こっている。

◎つまり株価の分布は、数学的な正規分布ではなく、ファット・エンドであった(太い尻尾)。正規分布よりも、尻尾が2倍から4倍は太い。35%以上の株価の暴落は、2.3%より高い確率で発生している。(注)30%以上の暴落の発生頻度は、43年サイクルではなく、12年から16年に一回のサイクル。

近年では、効率的市場仮説に反する、もっとも大きなものが、2008年のリーマン危機でした(株価は-50%)。リーマン危機のあと、効率的市場を前提にしていたファイナンス理論に、修正を加えなければならなかった。

リーマン危機は、ファイナンス理論の危機でもありました。医学に例えれば、過去の病理学が有効でない病気が、発生したのです。

■8.行動経済学によるファイナンス理論の修正

行動経済学は、人間に対する実験によって、投資行動に関連する判断の原理を発見していく、経済学の新分野でした。

ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』が名著でしょう。(注)カーネマンと、エイモス・トペルスキーは2002年ノーベル賞を受賞しています。

1)ファスト(速い判断)とは、経験的で直観的な判断(ヒューリスティックな判断という)を、
2)スロー(遅い計算)とは、数字で計算した上での数理的な判断を言います。

人間は、両方の判断をしている。確かに、そうです。ヒューリスティックでファストな判断と、計算した数理的な判断は一致しないことも多い。

瞬間的なヒューリスティックな判断は、音楽の好き嫌いや美人の判断と同じものです。どんな基準か、自分では不明なままに、われわれは経験的・直観的に判断しています。

音楽では冒頭を30秒聞けば、好きか嫌いか分かる。絵画の好き嫌い、商品の購買決定でも同じです。

多くの場合、この経験的・直感的でファストな判断が売買の決定になり、株価を変動させています。

感情を含む人間的な売買のため、数理的な確率が2.3%以下の、株価暴落が、オプションがカバーできない2.3%より高い頻度で起こる(ベルカーブのファット・テール現象=リーマン危機など)。

当時のCDS(債券がデフォルトしたとき、元本を保証する保険)がかかった債券の破綻確率は、事前の数理・保険的な破産確率(1%程度)より高かった。

リーマン危機のときの、正規分布の、数理的なCDSを多額に引き受けていたAIGとリーマンブラザーズの破産がこれです。(注)1999年の、ロシア国債のデフォルトによるLTCMの破産と金融危機も、これです。

◎統計数理的なブラック・ショールズ方程式を作った天才トレーダーは、ロシア国債について。偏りのあるヒューリスティック判断をしていました。ロシア国債のデフォルトの確率は1%として、市場の評価が低かった(=金利が高かった)。

LTCMはロシア国債を100倍のレバレッジ(信用借り)をかけて買っていたのです。当初は、市場の歪みを突いたことから、巨大利益が出ていた。しかし負債が大きかったので、1年後には、米銀に金融危機を起こすスケールで破産。

株や債券を、ヒューリスティックな判断から売買している人間は、AI(中身は数理計算)で計算して動くロボットではない。

ヒューリスティックな判断では、
・買うときの、100万円の利益の可能性は過小に評価し、
・売るときの、100万円の損の可能性は高く評価する(利益と損では非対称な判断の傾向がある:プロスペクト理論)。

ここから、
・買っていた株が上がって利益が出ると、すぐに利食いをし、
・損失が出ると、損切りをためらって、そのまま持ち続けるという人間的な傾向が生じる。たぶん、90%の人がこれでしょう。

このため、相場に負けることが多い。これが人間の自然な心理です。

◎株価には、社会の領域(市場の集合知の次元)で、正のフィードバックが働く時期と、負のフィードバックが働く時期が、不規則に訪れる。2024年1月は、「正のフィードバック」の時期です。

正のフィードバックが働くときは、多くの人が、株価は上がると予想し、株への投資が増えるので、ベルカーブの確率頻度を超えて、株価は上がる。

◎j2022年12月からは、米国と日本の株式市場は、こうなっています。

逆に、株式市場で負のフィードバックが働いている時期は、株価は下がり、下がった株価によって売りが増えて、もっと下がるという暴落が来る。この時期は、まだ来ていません。

(注)個人的な、しかもヒューリスティックな判断しかありませんが、2024年の6月ころは危ないと見ています。

近々(万一)ホルムズ海峡が封鎖され、原油・天然ガスの高騰が起こると、そのときから世界の株価は売りが売りを呼ぶ「暴落相場」になるでしょう。

【情報の受容への、人間の傾向】
人間は、
・自分にとって都合のいい情報は、高く評価し、
・都合の悪い情報は低く評価するか、否定します。

社会の情報の、個人への作用は、人によって効果と影響が非対称だということです。

行動経済学の起点になったカーネマンの直感は、「人は、すべての利用可能な情報をもとに合理的に意思決定または判断するのではなく、特定の情報や思考パターンに従って、直感的な(=ヒューリスティックな)判断を下しているということです。

判断には、個人のバイアス(偏向)が存在する」ということでした。同じ情報に対しても、個人の判断がしばしば異なります。
これは当たり前の、常識的なことでしょう。

われわれは、不完全情報の世界で、「個性的な偏向をもった意思決定」をしています。

同じ症状に対して、同じ医学を学んだ医師でも、異なる診断を下すこと同じ現象です。

以上が、行動経済学の「正規分布の効率的市場仮説」に加えた修正です。

統計的にマレに起こることは、正規分布の確率より何倍か高い頻度で起こることがあるという「マーフィーの法則」にも通じるものです。科学である地震にも、大地震の連続としてその傾向があります。

【後記】
個の現象は合理的でも、メタ領域である社会の現象(株価)には、非合理性があります。

多くの人間の判断と行動が作ってきた社会の歴史も、数値合理的なものではなく突然変異を含んで非合理的でしょう。個人の人生の行方(ゆくえ)も、合理的なものではない。

2024年は、歴史的には、FRBの設立の1913年以来、110年スケールの、通貨の転換期の入り口になると思っています(2024年~2026年)。

【再記】
これから2026年までの、世界のマネーの問題を歴史的、未来予測的に書いた書籍(『金利と通貨の大転換』:352ページ)は、アマゾンにリンクしています。
https://www.cool-knowledge.com/

紹介した『ファイナンス理論大全』と併せて読むと、金融が動く原理の深いところまで、分かるでしょう。


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