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山田順の「週刊:未来地図」
No.807 2025/11/25
高市発言で日中対立激化。
いまこそ、冷静に中国との彼我の差を見つめよ
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これでいったい何回目か。高市発言を契機に、日中対立がヒートアップしている。中国は発言撤回を求めているが、日本は応じず、事態の沈静化をひたすら待つ構えである。
そんななか、勢いづいているのが若年層を中心とした高市応援団と強硬保守の議員や一部識者たちだ。彼らは「高市発言はなにも間違ってはいない」「撤回など絶対するな」「大阪総領事をペルソナノングラータ(追放)せよ」などと、火に油を注ぐ発言を続けている。
そこで、今回は、「もっと冷静になれ」という願いを込めて、日本と中国を比較してみたい。彼我の差を知れば、対中強硬言論がいかに虚しいか、そしてリスクが大きいかを改めて知る必要がある。
私たちは、もっともっと賢くなければならない。
[目次] ──────────────
■首相という立場では言うべきではなかった
■若年層は日本の立ち位置を理解しているのか?
■時代は逆行し、いまや「弱肉強食」の世界に
■中国の国力(GDP)を無視した強硬言論
■成長を続ける中国、圧倒的に衰退した日本
■1人あたりのGDPはもう日本と変わらない
■環境汚染のひどさで中国の未来を見誤る
■1人あたりのGDPはもう日本と変わらない
■インバウンド制裁のダメージはどれくらい?
■貿易の中国依存度は輸出入全体で約2割
■日本の海運のほぼすべてを中国が握っている
■中国市場がないと成り立たない日本企業は多い
■中国が日本を捨てきれない最先端技術
■ミサイルの飽和攻撃とドローン攻撃でお手上げ
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■首相という立場では言うべきではなかった
“強硬保守”が高市早苗首相支持の看板だから、引くに引けないのかもしれない。しかし、今回のことは本当に日本を危うくする。
なぜなら、中国の激怒は超弩級だからだ。あらゆる手を使って「圧力」をかけ続けるのは間違いない。
「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」という発言は、あまりにも素直な発言だが、中国から見れば明らかに度を超えている。
発言の真意が伝わっていない。発言自体は間違っていないなどということは、この際、どうでもいい。高市首相が首相という立場で、これを言ってしまったことが問題だ。
(*話は本筋から外れるが、ちなみに中国は戦艦を持っていない。世界中の海軍でいま戦艦を持っているところはない)
日本の首相は自衛隊(=日本軍)の総司令官である。その総司令官が、台湾有事の際に日本(自衛隊)は参戦すると宣言したと、中国は受け止めてしまった。
あの「TACO」と呆れられるトランプでさえ、「台湾有事参戦」は口が裂けても言わないで、「曖昧戦略」をとってきた。本当に残念極まりない。うちに秘めておけばなにも起こらなかった。
■若年層は日本の立ち位置を理解しているのか?
ところが、若年層を中心とした高市応援団と強硬保守の議員や一部識者たちは、今回のことを、私のようには理解していない。高市首相は言うべきこと、正しいことを言った。だから、中国の反発はただの言いがかりにすぎない。「撤回など絶対するな」と、強く反発している。
とくに最近、右傾化を指摘されている若者層ほど、中国への反発が強い。
SNSを見ると、「勝手に言わせておけばいい」「謝る必要なんかない」「中国人が来なくなってかえってよくなる」「オーバーツーリズムはこれで解消だ」「これで、中国は世界でさらに嫌われる」「中国なしで日本は十分やっていける」などという投稿が溢れている。
こうした投稿をする若者たちは、いったいこの世界がどうなっているのか?日本の立ち位置がどうなっているのか?知っているのだろうかと思う。スマホ一つで世界のあらゆる情報に接することができるというのに、いまだに“ガラパゴス・ジャパン”に生きているとしか思えない。
■時代は逆行し、いまや「弱肉強食」の世界に
いまの世界、とくにトランプが登場して以後の世界は、自由、人権、公正、正義、独立などという価値観はすっ飛んでしまった。これは、ウクライナ戦争を見ればわかる。
もともと世界は「弱肉強食」だった。それを「法」が支配する世の中にしようと、これまで人類は努力してきた。しかし、いまはそれが逆行している。
こんな世界では、パワーがすべてになってしまう。強い者が勝つ。もともと、世界は「ロジック・オブ・イベンツ」(logic of events事実の論理)で動いてきたが、このことを私たちは再認識する必要がある。
つまり、過去に起こった事実の積み重ねが、現在、未来を決めるのであり、帝国主義時代はこれがすべてだった。「正しいか正しくないか」は関係ない。国際法は20世紀の2つの大戦を経て整備されたにすぎない。
つまり、反発する、強硬なことを言うなら、それを実行できるパワーがなければならない。ないのに言うことは、自身を危うくするだけだ。
■中国の国力(GDP)を無視した強硬言論
悲しいかな、いまの日本の国力(GDP)は、中国の4分の1に過ぎない。かつての中国は日本のはるか後方、世界でも貧しい国の1つだった。それが、この半世紀ほどで世界最速、最高の成長を成し遂げ、それとともに世界におけるパワーバランスが大きく変わってしまった。
しかも、いまの日本経済は中国経済に大きく依存しているうえ、産業力、技術力で追い抜かれている。
この冷厳な事実を見据え、私たちはどう生きるべきかを考えなければいけない。それなのに、この事実を指摘すると、「国力、経済など関係ない」「中国と経済交流しなくとも日本はやっていける」「中国経済はもうダメではないか」「中国の経済統計なんかデタラメ」などと言ってくるので、議論するのを諦めることが多い。
■成長を続ける中国、圧倒的に衰退した日本
保守強硬派は、なぜか、中国ばかりか、世界を客感的に見られない。世界は日本と中国を、この国力の差を基にして見ている。どちらの主張が正しいかは、あまり関係ない。つまり、「小国の日本が大国の中国を怒らすのは賢明ではないのではないか」と見ているのだ。
以下は、日本と中国の名目GDPの推移を比較したもの。これを見れば、成長を続ける中国に比べて、日本がいかに衰退したかがわかるだろう。
1980年 日本:1兆1290億ドル 中国:3030億ドル
1990年 日本:3兆1860億ドル 中国:3970億ドル
2000年 日本:4兆9680億ドル 中国:1兆2200億ドル
2010年 日本:5兆7590億ドル 中国:6兆1390億ドル
2020年 日本:5兆0540億ドル 中国:15兆1034億ドル
2024年 日本:4兆1860億ドル 中国:18兆7480億ドル
中国は2010年に日本を抜き(日中逆転)、アメリカに次ぐ2位となり、日本は今年、インドにも抜かれ5位に転落した。また、円安により名目GDPはドルベースでは縮小を続けている。
ちなみに、台湾のGDP(2024年)は7820億ドルで世界22位である。これは、中国の省の中で、広東、江蘇、山東、浙江、四川の6省より小さい。
