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山田順の「週刊:未来地図」
No.804 2025/11/11
マムダニ市長誕生でNYは変わるのか?
イスラム教徒、民主社会主義者の「実像」とは?
(前編)
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ニューヨーク(NY)で、若きゾーラン・マムダニ氏(34)が市長に当選したことを、多くの日本人が驚いている。トランプ大統領から「共産主義者」として敵視され、自らを「民主社会主義者」と称する移民で、イスラム教徒。なんで、こんな人物が、世界の中心地のトップになるのかという驚きだ。
私も彼が有力視されるようになるまでは、なぜ彼がそこまで支持されるのか、深く考えていなかった。しかし、知れば知るほど、その理由があまりにシンプルだということがわかって納得した。
NYの変化は、いずれ世界に波及する。はたして、NYはマムダニ市長で変わるのか?
- *今回は長くなるので、前編、後編(明日配信)の2回に分けて配信します。
- *写真:勝利宣言スピーチ、Aol.com
[目次] ──────────────
■ニューススタンドのコーヒー価格ですら日本の2倍
■トランプは中間層・貧困層をさらに貧しくしている
■「EBT使えます」サインが意味する貧困化
■当選の理由はじつにシンプル「暮らしやすくする」
■これなら投票する!感動したマムダニの勝利スピーチ
■日本人はモスリムに対して拒否反応が強い
■日本の報道の多くが「トランプへの逆風」を強調
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■ニューススタンドのコーヒー価格ですら日本の2倍
コロナ禍以後、私はNYに行っていない。コロナ禍になって、それまで6年間マンハッタンに住んでいた娘が帰国したこと、知人、友人もほとんどいなくなったことで、すっかり足が遠のいたからだ。そして、もう一つ、大きな理由がある。
円安である。円安の影響で、高くなった航空券代、ホテル代、飲食代などの負担が大きすぎるからだ。
報道を見ていても、現地の知人、観光・ビジネスで行った知人の話を聞いても、いまのNYの物価は円換算すると異常に高い。
娘がNYにいた頃は、早朝によく、近所のマジソンパークに行き、ニューススタンドで買ったコーヒーを飲みながらベンチに座った。ドッグランを走り回る犬たちやフラットアイアンビルを眺めながら、しばらくぼうっとしていた。
そのコーヒーの値段は1ドル札+クオーター1枚だったが、いまでは、1ドル札+クオーター3枚か1ドル札2枚(約310円、ドル円155円で換算)。この5、6年で1.5〜2倍に上がったという。
日本のセブンイレブンでイートインのコーヒーは140円。それを思うと、本当に高い。ニューススタンドでこれだから、スタバやそのほかのチェーン店、街のカフェとなると、もう5ドル(約775円)越えは当たり前で、そのほかのドリンク、スムージーなどになると10ドルはしてしまう。
そういえば、娘のアパートのそばの街角に、「ワンダラーピザ」(1スライス1ドルのピザのチェーン)があったが、いまは1.5ドルに値上がりしたという。
これら、「庶民の味方」の飲食は、もうNYではなくなったと言っていい。
■トランプは中間層・貧困層をさらに貧しくしている
いま、 NY市民は、物価高に喘いでいる。
トランプが掲げた「MAGA」は、バイデン前大統領が招いたインフレを抑制し、ラストベルトの貧しくなった白人層を中心に、一般国民の暮らしを救うはずだった。 しかし、大統領に返り咲いたトランプは、それとはまったく逆の「富裕層をますます富ませ、中間層・貧困層をさらに貧しくする」ことを平然と行っている。
NY市長選の前、10月31のハロウイーン・デイには、フロリダのマール・ア・ラーゴで、取り巻きと支持者を集めた“ド派手”なパーティを行った。また、ホワイトハウスの内装からガーデンまで、金ピカの宮殿に改装しようとしている。
政府機関が閉鎖され、11月いっぱいで「フードスタンプ」の打ち切りが迫るというのに、これではNY市民ではなくともトランプに反旗を翻す。
一般にフードスタンプと呼ばれる「SNAP」(補充的栄養支援プログラム)は、全米で約4200万人に支給されている。支給がなくなれば、これらの人々はたちまち困窮する。
幸い、連邦裁判所は予備資金により50%の支給を命じたが、これは一時的な措置だ。
■「EBT使えます」サインが意味する貧困化
ブルックリンに住む知人によると、「最近、“EBT使えます”(WE ACCEPT EBT)のサインを多く見かける」と言う。EBT? 恥ずかしながら、それを知らなかったので聞くと、 EBTとは「Electric Benefit Transfer」(エレクトリック・ベネフィット・トランスファー)の略で、いわゆるフードスタンプのことだという。
以前、フードスタンプは紙の券だったが、それが電子化され、いまは電子カードになり、それを店に設置されたマシンにかざすだけで補助金による支払いができるようになった。NYには「デリ」(delicatessen)や「ボデガ」(bodega)が数多くあり、その店先にサインが掲示されているという。
また、最近では、マクドナルドなどのバーガーチェーンでも、サインが掲示されているという。
“EBT使えます”が意味するのは、いうまでもなく貧困化である。コロンビア大学と福祉NGO「ロビンフッド」の調査「Poverty Tracker 」(貧困トラッカー)によると、ニューヨークの貧困率は、過去最高の25%に達している。これは、全米平均のほぼ2倍である。
■当選の理由はじつにシンプル「暮らしを楽にする」
このように見てくれば、ゾーラン・マムダニ当選の理由は、極めてシンプルである。彼は繰り返し、貧困からの脱出を訴えたからだ。
キーワードは「Affordability」(アフォーダビリティ)。要するにフツーにやり繰りができる暮らしをつくる。全米でもっとも生活費が高いNYを、もっと住みやすくする。そのための政策をやるというのだ。
マムダニが掲げた主な公約は、安価な食材を販売する市営スーパーの創設、公営(NYC交通局)のバスの無料化、「ユニバーサル・チャイルドケア」(全家庭への無償保育サービスの提供)、賃貸住宅の家賃の凍結である。
いずれも社会主義的政策だ。公金のバラマキと言ってもいい。ただし、本人は「民主社会主義」(democratic socialism)と言い、この民主主義の枠組みの中で、社会保障制度の拡充や、混合経済、市場経済などを通じて労働者や市民全体の利益を追求するのだという。
とはいえ、これはもちろん、資本主義には相反する。
