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山田順の「週刊:未来地図」
No.789 2025/07/29
早くもトランプはレームダックか?(3)
イーロン・マスクの「アメリカ党」は成功するのか?
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就任して半年、最大のサポーターだったイーロン・マスクと喧嘩別れし、エプスタイン問題で窮地に立たされたトランプ“独裁”大統領。いずれ失権し、レームダック化するだろうが、その鍵を握るのが、イーロン・マスクが立ち上げる「アメリカ党」(America Party)だ。
第3党は成功した試しがないというが、はたしてどうかか? そして、マスクはアメリカをいったいどうしたいのだろうか?
写真:テスラ車の前で記念撮影に応じるマスクとトランプ ©️ Official White House Photo
[目次] ──────────────
■喧嘩別れの原因はトランプ自慢の「減税法案」
■共和党、民主党の間に切り込む第3党をつくる
■マスクの「アメリカ党」はなにを目指すのか?
■「エプスタイン問題」が追い風になるという目算
■アメリカの政治史で第3政党の成功例はない
■第3政党は求められているがマスクは不人気
■アメリカ党の最大の課題は人材を確保できるか?
■トランプは執念深く、批判者に対して復讐する
■ NY 州司法長官の勇気とマスク追放の可能性
■マスクはトランプの秘密を握っているのか?
■スペースXから一直線につながるマスクの行動
■まず「タイプⅠ文明」の達成を目指す
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■喧嘩別れの原因はトランプ自慢の「減税法案」
トランプとイーロン・マスクの喧嘩別れは、もうはるか昔の出来事のように思える。初めから、考え方がまったく違う2人が合うわけがないと思っていたからだ。
それでも、ここで振り返ってみると、その発端は、6月初めに、トランプが「一つの大きな美しい法案」(One Big Beautiful Bill Act)と自慢した減税法案を、マスクが批判したことだった。
マスクとしては、政府効率化省(DOGE)を率いて連邦政府のムダの削減に取り組んできたというのに、それを無にし、政府債務を拡大させる法案を許せなかったのである。
「法案はアメリカの数百万人の雇用を破壊し、国に莫大な損害を与える。完全に正気ではなく、破滅的だ」「我慢の限界だ。ひどく醜悪だ」と「X」に投稿したため、トランプの怒りが爆発した。
昨年の大統領選でトランプは、彼から2億8000万ドルもの献金を受け、キャンペーンでも多大なサポートを受けた。このときは、トランプはマスクを「天才だ」と絶賛していた。しかし、いざ批判されると、「補助金がなければ、イーロンはおそらく事業をたたんで、南アフリカに帰らざるを得なくなるだろう」と、国外追放までほのめかしたのである。
■共和党、民主党の間に切り込む第3党をつくる
イーロン・マスクの思想は、リバタリアニズムに近い。経済においては市場万能主義で、規制を嫌い、自由に企業活動、社会活動ができることをベストとする。そのため、政府はできる限り「小さな政府」であるべきだとする。
このような思想が、「自分こそが天才」と豪語する“自己愛性人格障害”の疑いがあるトランプと合うわけがない。2人は、減税法案をきっかけに非難の応酬となった。
そして、減税法案が議会で成立すると、マスクは、かねてより表明していた新党「アメリカ党」(America Party)の立ち上げを宣言した。
共和、民主の2大政党の間に切り込む第3の政党をつくり、共和党のマジョリティを阻止し、トランプをレームダック化しようというのだ。
■マスクの「アメリカ党」はなにを目指すのか?
マスクの狙いは極めてシンプルだ。
「X」への投稿で明らかにしたのは、下院で8〜10議席、上院で2〜3議席を確保すること。そうして、議会内に一定の影響力を確保し、キャスティングボードを握るというのだ。
上下院の現在の勢力分布(上院:共和党53議席、民主党47議席、下院:共和党220議席、民主党215議席)を見れば、この狙いは的確だ。
マスクの狙いが実現できるかは、ひとえに有権者の投票にかかっているが、マスクが期待しているのは、民主、共和いずれの政党に対しても不満を抱く無党派層である。
6月にCNNが実施した世論調査では、有権者全体の40%が無党派層となっている。
さらに、マスクが期待するのが、トランプに不満を抱く共和党支持者だ。彼らが、アメリカ党に流れる可能性は十分にある。
■「エプスタイン問題」が追い風になるという目算
さらにもう一つ、イーロン・マスクが密かに思っているのは、急浮上した「エプスタイン・ファイル」の問題で、トランプが追い詰められていくことだろう。すでに、この問題で、トランプの岩盤支持層「MAGA」派は、不満を爆発させている。
イーロン・マスクは、トランプと決別した際に「X」で、「エプスタインの顧客リストにはトランプの名前もある」と述べ、それが第3の政党を立ち上げた理由の一つだと明かした。
そして続けて、「エプスタインのファイルを公開しないなら、国民にトランプを信じろというのは無理がある。ペトファイルを守るなら、それは『国民に敵対する政府』だ」と述べた。
後にこれは事実だと判明する。トランプの名は確かにファイルにあり、それを『ウォール・ストリート・ジャーナル』が記事で暴いた。
■アメリカの政治史で第3政党の成功例はない
イーロン・マスクは、これまでの言動から見るに、常に楽観的で、その行動は直線的だ。決めたら、突き進む。したがって、アメリカの政治史において、数多くの第3政党(third parties)が誕生したものの、ことごとく失敗してきたという現実を顧みない。
これまでのアメリカで、一定の支持を得た第3政党は、「リバタリアン党」(Libertarian Party)と「緑の党」(Green Party)くらいしかない。
リバタリアン党の大統領選挙一般投票での最大得票率は、2016年大統領選での3.28%、得票数は489万票。これまで、連邦議会選挙や州知事選挙での当選例はない。ただ、州議会選挙や自治体議会選挙では、数人の当選者を出したことがある。
これは、アメリカの選挙制度が、小選挙区制と単純多数決を採用しているからである。
