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山田順の「週刊:未来地図」
No.738 2024/09/03
トランプ再選は日本にとって悪夢。
ハリスのほうが中国に対して強硬になる!
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ドナルド・トランプvs.カマラ・ハリス。まだ微妙な情勢だが、どちらが次期大統領になっても、日本にとっていちばんの関心事は、対中政策がどうなるかだ。
これまでの経緯から見ると、トランプは対中強硬派で、バイデン路線を継承するハリスはそこまで強硬派ではないとされるが、はたして本当か? 日本は嫌中派が多いから、トランプを歓迎する向きがある。しかし、むしろ、ハリスのほうが中国に厳しくあたり、中国は詰んでしまう可能性がある。
まだ、はっきり見えてこないハリスの対中政策を検証する。
[目次] ─────────────────────
■習近平と短時間会話し「対話維持」を伝える
■北京は注視中だがトランプより期待を!
■ハリスの会合姿勢を説明にサリバン訪中
■はっきりしているトランプの対中政策
■「台湾を守らない」「ウクライナ戦争を終結」
■トランプよりバイデンは対中強硬派だった
■横須賀基地で「台湾を守る」とスピーチ
■検事で人権派の議員だったことと「TPP」
■副大統領候補ウォルズは「親中派」なのか?
■対中強硬派エマニュエル駐日大使の政権入り
■米中戦争の本当の敗者は日本になるかも
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■習近平と短時間会話し「対話維持」を伝える
トランプは「中国製品の関税を60%に引き上げる」などと言ってきたが、ハリスはこれまでほとんど中国に関しては言及していない。ハリス陣営関係者は、「バイデン路線を継承するだろう」と言っているだけで、具体的なことはなにも語っていない。
バイデン撤退でハリス指名となったとき、ハリスの外交政策担当の側近幹部であるフィル・ゴードンは、メモに「(ハリスは)中国との競争を責任を持って管理する取り組みの一端を担ってきた」と記述した。そのため、トランプほど強硬な路線は取らないだろうと見られているが、本当にそうなるのかはまだわからない。
はっきりしているのは、バイデンはカーター元大統領以来、在任中に中国を訪問しなかった初の米大統領になりそうだということ。したがって、ハリスも習近平とは1度も公式に会談したことはない。
ただし、2022年11月にタイで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議で、ハリスは習近平氏に会い、短い時間、会話した。そのとき、ハリスは中国側に「開かれた対話」を維持すると伝えたという。
■北京は注視中だがトランプより期待を!
こんな状況だから、北京はこれまでハリスに関してはなんのメッセージも発していない。彼女が正式に大統領候補になったときも沈黙したままだった。
ただし、北京政権内部では、ハリスの言動は注視され続けている。なにしろ、中国にとってアメリカは貿易相手国第1位であり、昨年(2013年)の貿易額は5060億ドル(前年比13.0%減、シェア14.8%)である。*ちなみに、2位は香港で2787億ドル(7.8%減、8.1%)、3位は日本で1581億ドル(8.7%減、4.6%)。
いくら欧州、ロシアやグローバルサウスなどがあるとはいえ、アメリカは中国にとってかけがえのない存在である。そこで、北京が期待しているのが、ハリスの出身州カリフォルニアの民主党知事ギャビン・ニューサムと言われている。
ニューサム一行23名は、2023年10月23~29日、香港、深圳、広州、北京、塩城、上海を巡り、習近平と会談した。このとき、経済はもとより文化面、気候変動対策などでも交流を強化するとしたため、中国側から大歓迎された。したがって、北京はハリスにもニューサムと同じような対中政策を期待していると言える。
大統領候補になるまで、副大統領としてのハリスの評価は低かった。とくに外交面においては、同盟国を訪問するだけで成果に乏しいとされた。ハリスの外交を支えたのは、アントニー・ブリンケン国務長官である。
2021年1月に副大統領に就任後しばらく、彼女はブリンケンと毎週昼食をともにしてレクチャーを受けたという。また、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)からも、レクチャーを受けたとされる。
■ハリスの会合姿勢を説明にサリバン訪中
サリバン大統領補佐官は、8月27日から3日間、初めて中国を訪問し、習近平国家主席や王毅外相および張又侠・中央軍事委員会副主席らと会談した。そして、ハリスの外交姿勢について中国側に説明した。
29日、記者会見に臨んだサリバンは、こう述べた。
「米中間の競争が紛争や対立に繋がらないよう責任を持って管理することが不可欠だというバイデン大統領の考えを共有している」
サリバンによると、会談で習近平は、「両国関係の安定的、健全かつ持続可能な発展に対する中国の目標は変わらない」としたうえで、「互いの発展をチャンスと見なし、2つの大国としての正しい付き合い方をともに見つけることを希望する」と述べたという。
中国外務省が公開した会談記録もほぼ同じ内容だ。
アメリカの安全保障当局者と中国軍関係者が会談するのは、2018年以降、今回が初めてだが、このように、会談は終始友好的だったという。しかし、米中の間には、経済安全保障による貿易問題以外に、南シナ海問題、台湾問題、ウイグル人権問題など、妥協できない障壁がある。
今回の会談は、この障壁にはほとんど触れず、経済が悪化している中国側がアメリカに対して務めて友好的に振る舞った節がある。とくに、次期大統領をハリスと想定してサリバンとの会談に臨んだようだ。
いずれにせよ、今後、11月10~16日のAPEC閣僚会議・首脳会議(ペルー・リマ)、11月11月18日~19日のG20サミット(ブラジル・リオデジャネイロ)には、バイデンも習近平も出席する。
そのときは、アメリカの新大統領も決まっているので、状況はもっとはっきりするだろう。