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渡邉哲也(作家・経済評論家)

渡邉哲也

第3398回 台湾訪問のご報告と日台の政治史
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★GW外遊

様々な議員が各国や地域を訪問しています。日本では、国会議員が国会開催中に外遊するには、国会の同意(各院の議長の承認)が必要です。実際には、これを決定するのは衆参の国会対策委員会(国対)であり、国対委員長の合意が必要となります。慣例として基本的に合意されますが、議員の優先すべき職務は国会への参加であり、外遊は国会運営に影響を与えない範囲で行われるべきものです。

このため、国会が休会となるGWは外交週間となります。6月下旬以降の国会終了後は、欧米諸国が長期休暇に入るため、スケジュール調整が難しくなります。日本では10月中旬以降に臨時国会が予定されており、臨時国会が終了する12月中旬以降は、欧米がクリスマス休暇に入るため、これもスケジュール調整が困難になります。そのため、GWと10月初旬が外遊の主要な時期となるのです。私は議員ではありませんが、議員とともに活動する場合、このスケジュールが重要になります。

そして、6月4日から6日までの議員訪問団の一員として、台湾訪問をお手伝いさせていただきました。2泊3日という強行スケジュールでしたが、台湾の頼清徳総統、蕭美琴副総統、および主要閣僚の方々との謁見を賜り、意見交換の場に参加させていただきました。

台湾の場合、正式な国交がないため、外務省の関与に制約があり、政治家にも様々な難しい問題が生じます。これは、1972年の日華断交に起因し、「国交はないが、民間による経済・文化交流を継続していきたい」という日台間の自然合意による外交関係の継続という、いわゆるグレーゾーン外交の影響が大きいのです。

また、この状況により、閣僚や閣僚経験者は台湾を訪問してはならないという「不文律」が生まれました。国と国の間では外交ができませんが、政党間外交や無党派の議員外交は可能であるため、これらの枠組みが発展しました。自民党では、若手議員(閣僚未経験者)が参加する自民党青年局がカウンターパートとなり、台湾側は当時の国民党がこれを受け入れる形となりました。また、議員外交の枠組みとして、無党派の日華議員懇談会が外交を担ってきました。


 そして、日本側は交流協会(外務省、経産省の外郭団体)台湾側は、亜東関係協会(外交部の外郭団体)が「実務外交の調整」を行ってきました。

これは■日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明 1972年9月29日

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html

「三    中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。 」


 によるものであり、日本は中国による台湾領有を認めているわけではなく、中国(共産党政府)は台湾を自国の領土であると宣言し、日本はその立場を理解し、尊重するとしているに過ぎません。しかし、日本政府はこの立場を維持してきました。

簡単に言えば、「中国は台湾は自国の領土だと主張し、日本はそれに手出ししない」という構図です。ただし、この合意は徐々に形骸化し、中国政府はその都度遺憾の意を表明し、日本政府の対応を批判してきました。しかし、日本政府は「議員の自由な行動を制御できない」という立場を取ってきました。

また、自民党内には二つのルートが存在してきました。一つは、日華断交に反対し続けた岸信介元首相の血脈を継ぐ安倍家の存在です。岸信介氏の娘であり、安倍慎太郎氏の妻である安倍洋子氏、その息子である岸信夫氏、そしてその背後にいる安倍晋三元総理が関係しています。岸信夫氏は日華議員懇談会の顧問として、この関係を支えてきました。

もう一つのルートは、将来の総理候補を輩出してきた自民党青年局ルートです。これは派閥を横断する形となり、小渕恵三元総理、麻生太郎元総理など、安倍氏以外のルートが形成されました。

台湾側にも大きな変化が訪れました。1982年の戒厳令解除、1988年の李登輝総統の誕生により、蒋介石・蒋経国という蒋一族と国民党による支配からの脱却が進みました。1984年、李登輝氏は蒋経国氏により副総統に選ばれ、1988年には「継承第7期総統」となりました。その後、李登輝氏は改革を進め、1996年には普通選挙が実施されました。これにより、国民党による一党独裁体制は終焉を迎えました。

そして、2000年には野党・民進党の陳水扁氏が総統となり、民進党政権が誕生しました。しかし、議会である立法院は国民党が抑えていたため、民進党陳水扁政権は生まれながらのレームダック政権でした。その後、国民党は勢力を盛り返し、2008年の選挙で国民党の馬英九政権が誕生しました。

国民党内でも中国の勢力拡大により、大きな変化が生じました。大陸からの亡命政権である「中国国民党」は、現在も「中国大陸の正当な統治者は中華民国(国民党)であり、大陸反攻(大陸を再び支配する)を目指す」という立場を維持しています。しかし、馬英九氏は中国との関係改善と経済協力を進めました。このため、ビジネスとして中国との関係を重視する支持者も多い構造となっています.


国民党支持者の多くは、大陸にルーツを持つ蒋介石とともに台湾へ移住した外省人(台湾人口の約二割)であり、現在も大陸に親族がいる人も少なくありません。しかし、時間の経過とともに親族間の交流は途絶え、外省人の中にも台湾生まれ・台湾育ちの人が増え、台湾人としてのアイデンティティを持つ人が増加しています。また、本省人(元々の台湾人)の中にも、中国ビジネスで利益を得ている人が多く、単純な二極化では語れない複雑な状況となっています。

当然、カウンターパートとなる日華議員懇談会や自民党青年局も、この変化に揺れ動いてきました。李登輝氏の変化(国民党からの離脱と台湾民族の自立)に寄り添う安倍派を中心とした勢力、外交関係は与党同士でしか成立しないため国民党との関係を重視する勢力など、親台湾の議員グループも一枚岩ではない構図となっています。また、これは安倍氏(民進党重視)と麻生氏(歴史的に国民党との関係が深い)の関係の縮図とも言えます。ただし、これは対立関係ではなく、並立する関係であり、互いに尊重し助け合う盟友関係にあるのです。

2011年の東日本大震災における台湾からの支援による日台間の信頼醸成、2012年の自民党政権回復と安倍総理の存在、そして2016年の民進党・蔡英文政権(国民党時代の李登輝氏の愛弟子)の誕生、民進党による立法院支配による権力掌握、2020年の再選による政権の長期化と台湾アイデンティティの醸成など、台湾の民進党・国民党双方が日本との関係を重視する姿勢を強めています。国民党内には依然として日本に否定的であり、中国を重視する勢力も存在しますが、それは少数派となっています。最新の世論調査では、台湾国民の83%が日本に友好的な感情を持っているとされ、日本側も76%が台湾に好意的な感情を抱いています。

また、2023年7月、麻生元総理は自民党副総裁として台湾を訪問し、「事実上の頼清徳支持」(明示はしない)を表明しました。これは安倍総理の遺志を継ぐものとも言えます。

日台の政治情勢は非常に複雑であり、決して単純なものではありません。しかし、日台関係は確実に前進しており、それを民間人として支えていきたいと考えています。

今回、多くの旧友と再会し、同時に新たな出会いもありました。この関係を大切にし、さらに深めていきたいと思います。


★GWの間の情報の欠如と時間の関係上、通常のメルマガは本日正午を目途に配信させていただきます。取り急ぎマーケットサマリーのみ配信します。


■アジア株式市場サマリー:引け(6日)

https://jp.reuters.com/markets/asia/ZA4CJQWTLVLJLBUOLPMXXWSUQE-2025-05-06/

■欧州市場サマリー(6日)

https://jp.reuters.com/markets/europe/LEQ3VNPGLJISVKIQU2TZP3ZULY-2025-05-06/

■NY市場サマリー(6日)株続落、ドル下落 利回り低下

https://jp.reuters.com/markets/commodities/PYFYG23JVRORNPQEFA4PHBJWGI-2025-05-06/


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