… … …(記事全文4,394文字)FIRE前とFIRE後では、投資の"前提"がまるで違う
ブログでも書きましたが(記事タイトル:【衝撃の結論】「年齢とともに株を減らす」が資産寿命を縮める真犯人だった)、現役時代とFIRE後では、同じ「資産運用」でも実はまったく別のゲームをしているのをご存知ですか?
現役時代は、毎月の給与という安定した入金があり、運用している資産を取り崩すことはありません。そのため、もし大暴落が来ても慌てて売る必要はなく、ただ「相場の回復を待てばいい」だけでした。むしろ、暴落は安く買い増せる大チャンスですらあります。
ところが、FIRE後は違います。生活費をまかなうために「定期的な取り崩し」が発生します。もし暴落が起きても、生活費のために安値になった株や投資信託を泣く泣く売らざるを得ない局面が出てくるのです。
しかも、FIREをする時点では「これだけあれば一生大丈夫だろう」というギリギリの想定で資金を準備していることが多く、大暴落に耐えられるほどの潤沢な余裕資金があるわけではありません。
つまりFIRE後は、現役時代よりもずっとシビアで慎重な資産管理が求められるのです。
FIREした瞬間、投資のルールは「リセット」すべきか?
ここで多くの人がやってしまいがちなのが、「100-年齢 = 株式の保有比率(%)」のように、年齢を重ねるごとに機械的に株式の比率を下げていく戦略です。現役時代からこのルールで運用してきたなら、FIRE後もそのまま続ければいいと考えるのは自然なことです。
ですが、これから紹介する論文の結論から言うと、これは 「NG」 です。
FIREという「資産の取り崩しが始まる転換点」を迎えたら、それまでの「年齢とともにリスクを下げる(右肩下がり)」という発想を、一度リセットして考え直す必要があります。
FIRE後、本当に怖いのは「暴落」ではなく「順番」
FIRE後の資産運用で本当に恐ろしいのは、「暴落」そのものではありません。
「シーケンスリスク(収益順序のリスク)」 と呼ばれるものです。
これは簡単に言うと、「リタイア直後の数年間に、たまたま悪い相場が来てしまうリスク」のことです。
平均リターンが同じだったとしても、良い相場が先に来るか、悪い相場が先に来るかで、資産の寿命はまったく変わってしまいます。取り崩しと運用を並行する以上、リタイア直後の10〜15年に大暴落が続くと、資産が大きく目減りした底値の状態で取り崩しを強いられます。そうなれば、その後どれだけ相場が回復しても取り返しがつきません。
逆に言えば、リタイア直後に良い相場が来てくれれば、その後多少の暴落があっても、資産は十分に積み上がっているので大きな問題にはなりません。
FIRE後の資産運用は、「平均的に儲かるか」ではなく、「最初の10〜15年に何が起きるか」で成否がほぼ決まってしまうという、非常にシビアなゲームなのです。
ある論文が出した答え:「右肩上がり」が資産を守る
この問いに正面から取り組んだのが、Wade D. Pfau氏とMichael E. Kitces氏による論文、"Reducing Retirement Risk with a Rising Equity Glidepath"(2014年、Journal of Financial Planning誌)です。
彼らは、「リタイア開始時の株式比率を何%にし、最終的に何%にするか」という121パターンのシナリオを用意し、それぞれ1万回以上のシミュレーション(コンピュータによる確率計算)を行いました。過去約100年間の実際の市場データなどを使い、「どうすれば資産が尽きずに30年間生き残れるか」を徹底的に検証したのです。
結果は、私たちの直感に反するものでした。
年齢とともに株式比率を下げていく「右肩下がり」の戦略は、資産を長持ちさせる観点ではむしろ不利だったのです。
最も優れていたのは、「リタイア開始時は株式比率を低く抑え、そこから時間をかけて徐々に株式比率を引き上げていく(右肩上がり)」という戦略でした。
なぜ直感と逆の「右肩上がり」が良いのでしょうか? カラクリはこうです。
もしリタイア直後に悪い相場が続いたとします。株式比率を徐々に下げていくルールにしていると、相場が悪い最中にどんどん株式を売り払うことになります。いざ相場が回復した頃には手元に株式が残っておらず、恩恵を受けられません。
逆に「右肩上がり」のルールなら、リタイア開始時は株式が少ないので、暴落のダメージを最小限に抑えられます。そして、取り崩しを進める中で相対的に株式の比率を高めていくことで、いざ相場が回復した頃には十分な株式を持った状態になり、資産が大きく成長する波に乗れるのです。
実際の成功率を見てみよう
過去の実績ベース(1926〜2011年の米国市場)をもとに、30年間・毎年4%を取り崩した場合の「資産が尽きなかった確率(成功率)」のデータを見てみましょう。

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