… … …(記事全文4,781文字)シンガポール在住FPの花輪陽子です。
2026年4月、再び「値上げラッシュ」がやってきました。帝国データバンクの調査によると、今月の食品値上げは2798品目。2025年10月以来、6カ月ぶりに2000品目を超える水準です。
ただ、今回の値上げは、以前のような“ドンと来るインフレ”というよりも、気づかないうちに家計を圧迫していく「じわじわ型」です。調味料や即席めん、食用油など、日常的に使うものが中心であることも、その特徴といえるでしょう。
背景にあるのは、「円安」と「コスト構造の変化」です。日本は食料の多くを輸入に頼っているため、円安はそのまま輸入物価の上昇につながります。さらに、原材料価格の高止まりに加え、物流費や人件費、包装資材のコストも上昇しており、企業側も値上げを避けにくい状況が続いています。
そして今回、もう一つ見逃せないのが「地政学リスク」です。
象徴的なのが、サーモン価格の上昇です。中東情勢の緊迫化によって航空ルートが変更され、ノルウェー産のサーモンは北極経由という遠回りを強いられるようになりました。その結果、輸送コストが上昇し、その影響は回転寿司の一皿の価格にまで及んでいます。
さらに、ノルウェー産の代替として需要が高まったチリ産も値上がりし、結果として、これまで比較的高価だった国産サーモンに「割安感」が出るという逆転現象が起きています。
遠い国の出来事が、私たちの食卓にそのまま跳ね返ってくる時代になっているのです。
では、こうした環境の中で、家計はどう守ればいいのでしょうか。
FPとしての結論はとてもシンプルです。「こだわらないこと」が、最大の防衛策になります。
実際、私が住むシンガポールでも、その違いを実感します。日本と比べると新鮮な魚の種類は限られますが、近海で取れるイカやスズキ、サバ、マグロなどは比較的手頃な価格で手に入ります。一方で、欧州便の物流ルートが豊富なため、ノルウェー産サーモンはむしろ日本より安く感じることもあります。
さらに、シンガポールドルが強いこともあり、輸入物価はコロナ前と比べても大きく上がっていない、むしろ割安に感じる場面すらあります。
同じ食材でも、どの国にいるか、どの通貨で生活しているかによって価格の感じ方は大きく変わります。つまり、私たちが向き合っている「値上げ」は、決して一律ではなく、構造的な要因によって左右されているのです。
だからこそ、産地にこだわりすぎず、輸入品が高ければ国産へ。特定の食材に固執せず、その時々で割安なもの、旬のものへと柔軟に切り替えていく。この“しなやかさ”が、これからの家計管理ではますます重要になります。
私はこれを「食のポートフォリオ」と呼んでいます。投資の世界では、一つの資産に集中するのではなく、複数に分散してリスクを抑えるのが基本です。同じように、食卓も一つの選択に固定するのではなく、複数の選択肢を持っておくことで、価格変動の影響をやわらげることができます。
実はこの構造、エネルギー価格ともよく似ています。原油価格が上がれば、物流コストが上昇し、それが最終的に食品価格へと波及する。つまり食費は、いわば「第二のエネルギーコスト」ともいえる存在です。
こうした家計防衛の考え方は重要ですが、そもそも前提となる環境はどうなっているのでしょうか。
例えば最近では、中東情勢について「停戦」というニュースが流れる場面もありました。しかし、こうしたヘッドラインだけで安心するのは早いかもしれません。
そのような環境の変化については、投資の世界でも警戒感が高まっています。
