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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

世界情勢の鍵を握るのはエネルギー効率 前篇

米軍・イスラエル軍によるイラン都市への不意打ち爆撃と最高指導者アリ・ハメネイ師の殺害によって始まったイラン戦争は、完全な戦争継続でもなく、かといって完全な休戦でもない、奇妙な状態が続いています。


イラン側の「敵対国以外の船舶は通行料を徴収して通す」という方針と、アメリカによる逆封鎖が交錯して、ホルムズ海峡を通過する船舶数が激減したままなのは、天然資源が乏しく、しかも輸入原油の多くをホルムズ海峡経由の航路に頼っている日本経済にも大きな影響を及ぼすと懸念されていました。


しかし、欧米諸国でかなり大幅にガソリン価格が上昇しているのに比べて、日本のガソリン価格の値上がり率は、5月末までかなり欧米諸国より低めに抑えられています。


なぜ、先進諸国の中でもとくに天然資源の乏しい日本が欧米諸国よりうまくガソリン価格を抑制できているのかについての議論は、迷妄を極めています。


AIにこんな質問をするほうがバカだと言ってしまえばそれまでのことですが、スズメの涙ほどのガソリン補助金がうまくいっているとか、もともと大した量でもない備蓄の放出がうまくいったとか、愚鈍な答えしか返ってきません。


それ以上に不思議なのは、政治家や官僚ばかりか経済学者を自称する人たちでさえ、天然資源がないから日本はエネルギー危機にいちばん弱いという定説を疑ってみる人さえいないという事実です。


1973~74年の第一次オイルショックでも、1979~80年の第二次オイルショックでも、日本は消費する原油をすべて輸入しており、しかも大幅値上げの震源地であるOPEC諸国からの供給に依存度が高いので、もっとも大きな打撃を受けると言われていたのです。


実際には、欧米諸国には深刻な打撃でしたが、日本での実害はトイレットペーパーの買い占め騒ぎが起きた程度で、欧米諸国よりはるかに軽かったのです。


エネルギー供給量が制約されたとき、いちばん強いのはエネルギー資源の豊富な国ではありません。同じ量のエネルギー消費からより多くの富を創出することのできるエネルギー効率の良い国なのです。


●    日本でガソリン価格の値上がり幅が小さいのは、高ければ買わなくても済む人が多いから


まず、「ホルムズ海峡封鎖で最も大きな打撃を受ける先進国は日本だ」といった主張の根拠とされている日本の輸入する原油のうち、どの程度がホルムズ海峡経由で日本に搬送されているかのグラフ、図表1をご覧ください。



なるほどこのグラフを見ていると、日本だけでなく韓国、台湾、中国といった東アジア諸国はホルムズ海峡を通って自国に届く原油に輸入原油の40%以上を頼っていて、さぞかし大変だろうという気がします。


一方、欧米諸国を見渡すといちばん依存度が高いイタリアでも12%、ホルムズ海峡経由の原油輸入は輸入総額の1桁のパーセンテージにとどまっている国が多いことが分かります。


ところが、実際には日本のガソリン値上がり率は低く、欧米の値上がり率は高いのです。なぜかと言えば、日本の大都市圏や地方中核都市などに住んでいる人たちの大半は、日常の通勤・通学を電車やバスなどの公共交通機関に頼っているからです。


ふだんはクルマで通勤している人たちでもガソリン代があまり高くなったときには、電車で通勤するという選択の自由があるのです。ここが、日本と欧米との最大の差です。欧米ではかなり大きな都市内部の地下鉄網以外には通勤に便利な鉄道は存在しません。


また、大都市の地下鉄でさえ乗車賃も高く、運行本数もまばら、事故などによる遅延も多くて、とうてい安心してひんぱんに利用できる交通機関ではなくなっています。


日本のようにガソリン代が高くなったら、クルマで通勤せず電車に乗って通勤するという選択肢がない生活をしている人たちが多いからこそ、どんなに高くなっても買わざるを得ないので、実際にガソリン代が大幅に値上がりするのです。


また、4月にホルムズ海峡経由の原油輸入量が激減したため、日本企業の多くが新しい原油調達先を探すスクランブル状態になりました。そして、その甲斐もあって図表2に出ているように、5月の原油輸入量はかなり回復しました。



これもまた、日本は同じ量の原油からより多くの富を生み出すことのできる経済を構築しているからこそ、できることです。


せっかく輸出してやろうという新しい調達先を見つけても、そこでほかの国が受け入れた価格より高い価格で買おうとしなければ、輸入量を増やせません。


同じ量のエネルギー資源から、より豊かな製品やサービスを創り出す資源節約型の経済だから、政治力や外交手腕はお世辞にも高いと言えない国なのに、必要な資源を調達しやすい国であり続けているのです。


ただ、この優位は倦まず弛まず努力し続けなければ維持できません。その点では円安を利用して輸出主導の製造業各社が、安易に利幅を拡大できるようになったことは、深刻な脅威と見るべきです。

… … …(記事全文12,142文字)
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