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やっぱり地理が好き
~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~
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第132号(2023年10月31日発行)、今回のラインアップです。
①世界各国の地理情報
~中東情勢を早読み⑤~
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こんにちは。
地理講師&コラムニストの宮路秀作です。
日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。
今回で132回目のメルマガ配信となります。
現在のイラク南部のあたり、ティグリス川とユーフラテス川の下流域は、かつてバビロニアと呼ばれていました。このバビロニアは「Babylonia」と表記し、地名の接尾辞である「ia」が付けられていることがわかります。かつて、この地に存在していた都市国家バビロンの第6代の王であってハンムラビは、ハンムラビ法典を整備して中央集権を図りました。
ハンムラビ法典といえば、「目には目を歯には歯を」という言葉が有名ですが、これは同害報復刑について定めたものと解釈されます。被害者が受けた苦しみを、加害者にも与えるということです。
実は、シャリーヤ(イスラーム法)にも同害報復刑についての定めがあります。名前は「キサース」、意味は「等価」です。基本的には被害者の家族がキサースを望まない限り、同害報復刑が行われませんが、これは「報復の連鎖」を断ち切る選択を被害者家族に委ねるということでもあります。そもそも、同害報復刑は非人道的な行為となりかねないこともあり、またキサースを実施することは報復の連鎖を生み出す懸念があります。
我々の日々の生活において、誰かが傷つけられ、そしてその報復措置としてさらなる暴力が発生するような事例が散見されます。人類史を紐解いてみても、国家間の戦争において報復の連鎖が繰り返されてきました。
報復の連鎖を断ち切ることができないのは、一にも二にも「感情」の問題です。「なぜ?」と尋ねても、衝動的な感情で動かされているわけですから、理由などありません。単純に冷静さを失っています。
また、報復を行った側からすれば、自分の行為を正当化するために、「あいつが悪いんだ! あいつがあんなことをしなければ俺は……、俺は……」といった台詞は、決してドラマの中だけのものではありません。偽りの自己肯定感というものです。
国家間における報復の連鎖は、無関心が引き起こすこともあるかもしれません。国際社会が無関心のままでいると、そもそも報復の連鎖を当事者同士で止められるわけはないのですから、永遠に続く可能性があります。「他人事」という考えで傍観していると、非常に問題を大きく、そして複雑なものにしてしまいます。
そして報復の連鎖は、当事者同士だけなく、周辺の人々が巻き込まれてしまう可能性があります。そうなると社会が分断され、疑心暗鬼になり、収集不可能なところまでいってしまいます。だからこそ、国際社会が積極的に関与することでしか、報復の連鎖を断ち切ることはできないといえます。
日本人は、言語境界と国境が一致する国で生活をしているため、同じ地域に異なる民族が同居することの違和感、気持ち悪さを実感できません。頭では分かっているとは思いますが、それが限界ですし、他人事として捉えるのです。だから、日本人の関心事は「YouTuberが仲間割れをしているらしい」とか、「これを実践すれば、あなたも今日から○○です!」などといった、もはや「そんなことどーでもいい!」ことばかりに注目するわけです。
これを平和ボケと言わずしてなんといえば良いのでしょうか。
それでは、今週も知識をアップデートして参りましょう。
よろしくお願いします!
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①世界各国の地理情報
~中東情勢を早読み⑤~
今回は、前号第131号の続きです。
▼#128:中東戦争を早読み①
https://foomii.com/00223/20231026223000115762
▼#129:中東戦争を早読み②
https://foomii.com/00223/20231027210000115782
▼#130:中東情勢を早読み③
https://foomii.com/00223/20231029210000115856
▼#132:中東情勢を早読み④
https://foomii.com/00223/20231031060000115920
今月7日午前6時30分(現地時間)、パレスチナのガザ地区を支配するスンナ派イスラーム原理主義のハマスが、イスラエルに対して奇襲攻撃を仕掛けました。パレスチナのヨルダン川西岸を統治しているのはパレスチナ自治政府です。
ハマスは、イスラエル南部に対して5000発のロケット弾を発射したと表明していますが、イスラエルは2500発であると発表しています。それから1時間後にはハマスの戦闘員たちがイスラエルに侵入し、イスラエルでおよそ1400人が死亡しました。
そして、ハマスは「ユダヤ人によるアル・アクサでの挑発行為に対応した」と述べていました。
■繰り返される挑発行為と唾を吐きかけられたキリスト教徒
ユダヤ教における三大祭りは「過越しの祭り」「7週の祭り」「仮庵の祭り」の3つです。なかでも「仮庵の祭り」は「スコット(Sukkot)」と呼ばれ、今からおよそ3000年前にユダヤ人がエジプトの奴隷から解放され、モーセに導かれて荒野で生活したときのことに想いを馳せ、そして祝う祭りです。家の前に小さい仮小屋を建てることから、「仮庵」の祭りというわけです。
そのスコットの最中、祭りが始まって5日目の10月4日にイスラエル人(ユダヤ人)が、アル=アクサ・モスクに足を踏み入れました。神殿山にユダヤ人が立ち入ることは禁じられているにもかかわらずです。
ユダヤ人がアル=アクサ・モスクに立ち入った例は、前号でも述べたように、2000年9月のアリエル・シャロンによるものが知られています。これが原因で第二次インティファーダが始まりました。この時のシャロンの行動は、イスラエル人の愛国心を刺激し、イスラエル国民からの支持率を70%にまで高めると2001年の首相公選選挙では圧勝してイスラエル首相に就任しました。まさしく、「敵の敵は味方」を利用したものといえます。そして、ユダヤ教徒やムスリムだけでなく、キリスト教徒の聖なる場所でもあるエルサレムを、政争の具として利用したわけです。
では、「およそ20年ぶりにこうした行為が行われたのか?」といえば、実はそうではありません。